勝負の行方

勝負の行方


「もうすぐ着くぜぺーたん!」

船上でクイーンから声を掛けられる。

今日も鬼ヶ島での夜釣りだ。

「久しぶりなんで楽しみですよ」

「俺も久しく食ってねえ。楽しみだぜ!」  

いつもの夜釣りだが今夜は違う。

狙うはイカ。

前回のバス釣りの後で

クイーンがエギを自作して

分けてくれたのだ。

折角なので今回はエギを使って

集中してイカ釣りへと洒落込む。


「洞窟を抜けた先でしたっけ?」

「ああ、洞窟前のポイントも釣れはするが

この先の方が大物を狙える」

足場の悪い地面を進む

ページワンとクイーン。

洞窟から外へ出ると

異様な明るさに気が付いた。

「燃えてます!」

2人は走り出した。

ページワンは恐竜に変身し先を急ぐ。

一足先に辿り着いた彼は

炎は島やそれを囲む植物では無く

人型の背に灯っていると気が付いた。

「…あッ!?」

「…?ページワンか。俺も来たぞ」

大看板 キングだった。

火事と見間違えた

炎は彼特有の燃える背中だったのだ。

「お前もイカ狙いか?…何故変身を?」

訝しむ様子のキングだったが

ページワンは変身を解きながら

慌てて対処を

考えていたが間に合わなかった。

「ぺーたん!大丈夫だっ…!」

「…テメエも居るのか、能無し」

ページワンが密かに恐れていたのは

この状況だった。

2人の犬猿の仲は有名だ。

合わせたくは無かったが…

ページワンはこの空間の居心地の

悪さを感じ取り嫌な汗を垂らす。

「何でテメエがいやがる?

拷問好きの変態野郎?」

「釣りに決まってるだろう。

見て分からねえのか?能無しが」

嫌悪感と露悪的な態度を隠さず

キングとクイーンは言い合う。

「キングさんもイカ狙いですか?」

若干の勇気を持ちページワンは

口を挟む。

キングの横に釣道具があり

エギも見えた。

ふん、と鼻を鳴らしキングは答える。

「この場所は

大物のイカが狙えるポイントだ。

ズッコケジャックの奴が

話していたから知っていたのさ。

ページワン、お前の張り紙を見たんで

俺も釣りに来た。

予めポイントの様子を伺っていたんだが…」

チラッとクイーンを見る。

「…このバカも一緒とはな」

あァン!?と凄むクイーン。

「テメエもジャックの奴から聞いたのか?

そのマスクでよく聞き取れるなぁ?

久しく素顔は見てねえが

耳は腐ってると思っていたよ」

「…おいクイーン…

ここで殺し合って行くか?俺は構わねえぞ」

「やってみろよ…返り討ちにしてやるよ」

剣を構えるキングと

レーザー義手の砲口を向けるクイーン。

ここで暴れられたら大事だ。

再びページワンは勇気を振り絞る。

「イカ釣りしましょうよ!」

ギロリと睨む2組の目。

どことなく捕食者に狙われた

獲物のような気持ちになり

怯みそうになるが

ページワンは辛うじて踏み止まる。

「折角ですし

イカ釣りで勝負するのは

どうでしょう!?

きっと2人なら大物釣れますよ!」

しばしの沈黙。

「…良いだろう」

剣を収めるキング。

「こいつより大物を釣ってやるよ」

「なんだ?命拾いしたなキング」

砲口を収めるクイーン。

「大物ぉ?初心者のお前が?

釣りしてる姿なんぞ見た事ねえぞ?」

蔑むクイーンにまたも

場が暖まるのを感じページワンは

先手を打つ。

「キングさんは初心者ですか?

俺は釣り詳しいんで教えますよ。

俺とキングさん、クイーンさんに

別れて釣るのはどうですか?」

再び沈黙。

ページワンは一刻も早く2人を

引き剥がしたかった。

可能であれば釣りの途中で

合流しないように見張りたい。

-流石に強引過ぎたか…?

嫌な空気の中だがクイーンは口を開いた。

「俺とぺーたんは最近一緒だったからな。

たまには別れるのも悪くねえ。

せいぜいぺーたんからよーく教えて

貰うんだな…先に行くぜ」

のしのしと立ち去るクイーンに

キングが何かを言いたげなのは

マスク越しでも分かったので

ページワンは機先を制する。

「キングさんはイカ釣りは初めてですか?

エギや釣竿は持ってます?

もし良かったら貸しますよ」

ゆっくりとページワンを見るキング。

「…一応、道具は持ってきた。

イカ釣りは確かに初めてだ…」

釣具を手に取るキング。

「お前は詳しそうだな… 

泳いでいるイカを見たが

かなりデカかった。

至らない事があれば教えてくれ」

嵐は一先ず過ぎ去り胸を撫で下ろす

ページワン。

2人はキングの背の炎に包まれながら

イカ釣りのポイントを探し始めた。


「…結構釣れたな」

キングは釣ったイカを並べる。

イカ6匹。

中々の大物ばかりだ。

「お前は釣れなかったな…」

イカ3匹。

ページワンは小振りのイカしか

釣れなかった。

「お前のおかげで思ったより釣れたよ…

ありがとう」

どことなく穏やかな声のキングに

ページワンは安堵感が募る。

…釣りを楽しんでくれた嬉しさも。

「釣れたぜぺーたん!」

クイーンが戻ってくる。

キングなぞ眼中に無いと言わん様子だ。

「…本当に釣れたのか?能無し」

「…当たり前だろう。

お前よりは釣れたわアホ」

再び火花を散らすキングとクイーン。

慌ててページワンが仲裁に入る。

「クイーンさんもキングさんも

結構釣れたんですね。

クイーンさんはどれくらい釣れましたか?」

「見て驚くなよ…おっと」

クイーンはキングを見据える。

「 "うっかり" 相手のイカを蹴り落としたりしないように同時に見せようぜ 」

小馬鹿にした表情のクイーンに

キングは動じない。

「そんな事するアホはお前以外居ないだろが

まあ同時に見せようってのは乗ってやるよ」

キングとクイーンとページワンは

それぞれの釣果を見せ合う。

クイーンは3匹だった。

「俺の勝ちだな、クイーン」

勝者の態度のキング。

暫く己と憎き相手の獲物を見比べて

クイーンは言う。

「よく見ろよ間抜け…

お互いのイカのサイズを」

ページワンも言われて見比べる。

数こそキングは勝るものの

サイズはクイーンの方が

明らかに大振りだ。

「このイカ達を見ろ。

お前と俺のイカだ。単純に比較して

俺の方が倍はデカイな」

本日何度目かの沈黙の後に

クイーンは続ける。

「この勝負、俺の勝ちだな」

「…テメエ往生際が悪いんだよ!」

翼竜になり翼を広げるキング。 

「お前がろくに見もしねえで

勝ち負けを決めるからだろう!」

ガシャガシャと義手を変形させ

恐竜になるクイーン。

「2人とも落ち着いて下さいよ!」

ページワンは止めるも

両者聞く耳は持たないようだ。

「テメェは昔から気に食わなかったんだ!

今日こそ息の根止めてやるクイーン!」

「こっちの台詞だバカ野郎!

大看板の座は今日で降りて貰うぞ!」


大看板二人の大喧嘩。

この日を境に鬼ヶ島から

大振りのイカは見なくなってしまった。

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