勝手に捏造前日譚
ミオリネ
ミオリネ・レンブランは夢を見る。
大変だったけと、確かに美しかったあの日々を。
柩の中の彼女は、あの頃のまま無垢な表情で眠っている。
もしあの時、自分と出会わなければ、あんな最期にはならなかったのだろうか。
でも、そんなことを言ったら彼女はきっと怒るだろう。
孤独だった自分に世界を見せてくれた彼女はもういない。
この柩ももうすぐ地に埋まる。
亡き伴侶の亡骸と片時も離れずにいた女王は誰だっただろうか。
柄にも無くそんなことを考えてしまう。
「先に待っていてスレッタ。私がそこに行ったときには、一杯文句を言ってやるわ。貴方に守られなくても私は平気だったのよ。守られても貴方が傍にいないと意味が無いじゃないって」
ネリネの花を柩に添える。
柩は土へ
墓石は苔むして
冷たい身体は動かない
骨張った腕を上げ、在りし日の夢を見る。
若くして亡くなった彼女
最愛の人
願わくば
次の世では彼女の幸せを――
ミオリネ・レンブランは目を覚ます。
見慣れた天井に眉をひそめる。
正確には、かつて見ていた天井だ。
何処かおかしい。
視線を落とした先には年を重ねて骨張った腕はなく、白く若々しい肌が見える。
近くにあった端末に目を開く。
そこに表示さていたのはあの日の日付。
彼女と出会った運命の日。
ミオリネ・レンブランは夢を見ない。
それは夢ではなく。必ず成し遂げると誓ったから。
愛する人が死なないために。
愛する人が今度こそ幸せであるために。
―――
■■■(名前不明)
ハッピーバースデートゥユー
ハッピーバースデートゥユー
ハッピーバースデーディア……
薄暗い部屋の中、一本だけ灯されたロウソクの炎が揺れる。
歌を捧げる相手はもう何処にもいない。ただ、写真の中で笑っているだけだ。
あの日、たった一つの電話で全てが終わった。
駆けつけた時にはもうすでに、彼女は冷たくなっていた。
残された荷物には、小麦粉やフルーツにクリーム。
「せっかくのお誕生日なんですから、ケーキを作ります!楽しみにしていて下さい!」
その日の朝、笑顔で告げた彼女の顔が浮かぶ。
自分を祝うために、彼女は死んでしまった。
ケーキも、豪華な食事もいらない。
彼女が傍にいてくれれば、それだけで良かったのに。
また、君に会いたい――。
いつの間に寝ていたのだろう。
目を覚ますと、視界に広がるのは無機質な部屋に簡易なベッド。まだ、夢でも見ているのだろうか。まるで、あの頃に戻ったようだ。
洗面台に向かい、鏡に映る姿に驚く。そこに写っていたのは、エラン・ケレスと呼ばれていた頃の姿。
無意識に頬をつねる。
僅かな痛みとともに、これが本当に現実なのではないかと思い始める。
神などというものの存在は信じてはいない。
奇跡なんてものは起こらない。
だがもしも、奇跡が起こったとしたら――。
今度こそ彼女を幸せにしてみせる。
だけどそれは、自分ではない。
もしも、あの頃と変わらないのであれば、この存在はきっと彼女を不幸にするだろう。
それほど、強化人士(この身)は罪深い。
では、どうすればいい――。
……そうだ。彼なら任せられる。
誰よりも強く、誰よりも真っ直ぐな彼なら。
きっと彼女を大切し、守りぬいてくれるだろう。
ならばやることは決まった。
制服を身にまとい、外に出る。
向かう場所は、すでに決まっていた。
―――
グエル
※設定のみとなります
夫婦になったグエルとスレッタは、他の同僚達と一緒にある勢力の制圧へ向かう
敵が多く苦戦するも、なんとか制圧ができた。しかし、襲われていた民間機を救うために向かったスレッタは死角から攻撃される。民間機は死亡者もなく無事なものの、その時の戦いで命を落とす。
離れた場所にいたグエルが間に合うわけもなく
その後、荒れていたグエルだったがラウダやフェルペトなど、周りの仲間に支えられなんとか立ち直ることができた。
それから十数年後、襲われていた民間機を助けるさい攻撃を受け妻と同じ様に亡くなる。(民間機は死亡者もなく無事)
目を覚ますと、あの時の学園。自分が過去に戻ったと知る。
今度こそ彼女をしなせないためにどうすればいいかと考える。
彼女を守れなかった自分が傍にいる資格はない。ならば、誰がいいか
エラン・ケレス。彼女の初恋の人。確かに強い。だがあいつでは駄目だ。ペイル社を筆頭に危険な場所にさらすことになる。何よりスレッタを傷つけた。
では、誰が。そう考え、一人の少女が思い浮かぶ。ミオリネ・レンブラン。かつての自分の、彼女の婚約者。
いつだって彼女を全力で守りきってきた。彼女なら、スレッタを争いの世界に連れ出すこともないだろう。
彼女ならば、まかせられる。
グエルくんはスレッタだけを生涯思い続けて、周りが持ってきた話しも断っているかと。(一応、いいところの息子なので再婚話もありそう)
―――
シャディク
一度目は、恋した少女と結婚する夢を見た。とても、幸せな夢だった
二度目の夢では彼女の傍に自分は無く、任せたはずの彼は別の少女に恋をし、彼女の隣には赤い髪の花婿がいた
三度目の夢は――なんだこれは?
ミオリネはエランへ
エランはグエルへ
グエルはミオリネへ
まるで、これから起こることが分かっているかのように、三者三様に動いている。
その中心には、スレッタ・マーキュリー。彼女の存在があった。
ミオリネを守るためには、どうすればいいのかと自問する。
彼女を傷つけないためには。
彼女を危険から遠ざけるためには――。
きっと彼女は自ら、あの少女を救うために、この世界へ足を踏み入れてしまうのだろうけれど。
深いため息を吐く。
どうやら、今までの知識はあまり役に立ちそうにない。