勇者と魔獣 激突/後悔編

勇者と魔獣 激突/後悔編


chapter.8  バッドトリップ


「………………」

宇沢レイサのことは好きではない。

だけどまあ、最近は、喋ったり、スイーツ食べたりするくらいなら、良いかなと。

ふつうの、知り合いや、友達くらいには、なれるのかもしれないと思っていた。


「……………………」


宇沢レイサの性格は好きではなかった。

人間性が、受け付けない。

自分の捨てた過去が、鏡像のまま歩いてるみたいで、嫌だった。どうせ、後で後悔するだけなのにと遠ざけた。



「…………」


だけどまあ、厭いながらも、少しは思った。絶対ありえないけど、もしもその理想を捨てないままいられたら、それはそれで幸せだ。私は私なりの選択をしたけれど、やっぱり、これはこれで、ダサい部分もあるかもだから。


「…………はは」


熱に酔ったような正義感は。慮っては躊躇ってしまう弱気は。見ていて恥ずかしくなってくる。

でも。まあ、私の酸っぱい葡萄みたいなものかもしれない。

そんなことを少しだけ思うことも、あった。

一緒にマカロンを食べて、無邪気な笑顔を見せる馬鹿の顔は、嫌いじゃなかったし。

それをからかってくる、友人だった人たちのノリも、呆れながら楽しんでいた。


「…………あ」


「あッは」


なのに。


「あっ、」


「あ……?は?あはははははは!!!!はははははは!!!!!!!!!はははははははははは!!はははははは、何これ、ありえないってのッ、う、うああああああああああああっ、嫌ああああっっ!?!?!?!?!?」


笑う、私は笑っている!!

笑う笑う笑う笑う!!!!!!!!!

撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ!

嫌いな奴を撃ったって何も感じない。

それくらいに限界だった。

違う、平気だ!!



「───サ」


ぜんぶ茶番だ。

こんな夢なら覚めてほしい。


……現実でしょ?


「あ、ああっ、うっ、ああああ!!!」


こうして私に打ちのめされて。

いいや、それ以前に。


「───!!」

あんな砂糖に、

宇沢は、

……皆は!!

私は、何も……!!!

「……カズサッ!!!!!」


とてつもない力で腕をカチあげられる。

手が痺れ、レイサに向けていた銃口が上にずれ、反動が肩にのしかかり指をを外す。

私の邪魔をするのは、誰だ?

視線を下げる。


「アリ、ス……?」


長い黒髪と青い瞳の、少女が、ボロボロのレイサと、自分の間に入っている。

白い鞄を盾のように構えていることから、さっき、銃をカチ上げたのはそれによるものだと分かる。

そんなことはどうでもいい。

どうして。どうして、この子が、ここに?


「どうして」


困惑するフードの彼女は、笑いながら問う。


「カズサが、その人に銃を向け、撃つのが見えました……やりすぎです、これは」


その人のヘイローを、壊すつもりですか。

正しいことを、アリスは冷静に言う。

正しいだけのことを。


「ヒーローだとかアイドルだとか自称して、突っ走って空回って落ち込んで、でも空元気だかそうじゃないんだかテンションで突っ走るような、私の苦手な人間」


だから本当に、本心を、話していた。

───アリスが知りようのない話を。


「本当に苦手でさ。見てると、昔を思い出して、無理になるから。本当の本気で突き放したけどさ、なんか、スイーツ部の皆が、お節介かけてきて、突き放しきれなくて」


「……はい」


スイーツのように甘くも、カロリーも重くもない、ただの、本心を。

───自分達以外、絶対に知らない話を。


「でも、なんだかんだ、みんなと一緒に好きなスイーツ食べたり、宇沢が持ってきたりするのを食べたりして、ああ、悪くないかもな、って思ったよ。熱血馬鹿の正義漢なところは、苦手なままだった」


ボロボロとこぼれる、脆いウエハースのような、本心を。

───知らないアリスは、こんな意味不明の独白にも心を砕くだろう。

アリスは、こんな話を知らない。

だからもう、どうでも良い。


カズサは唇を噛んで、現在の話をする。


「その子、私に、何したと思う?」

「なにをしたんですか」

「……右手、見てみなよ」


アリスは、自分の言われるまま、レイサの右手を見る。

そこには。


「───これ、は」


なんの変哲もない、甘そうな飴玉だった。





chapter9.勇者と魔獣(上)



「アビ、ドスの……」


砂糖を多く使った、水色の飴玉。

中毒者の持つ、呪いの装備。


「……宇沢は、笑顔で渡してきた。狂ってもない、普通の、うざったい笑顔でだよ」


想像できる?と、アリスは問われる。


「『元気を出せ……とは言えませんが、とりあえず、どうぞ!』……ってさ、いつもと、同じ感じで。あり得ない」


ふるふると首を横に振るカズサ。


「スイーツ部だけじゃ、なかったんだ」


倒れる少女のことは知らなかった。

スイーツ部、というのも話に出なかった。

だが、それはおそらく、アリスにとってのゲーム開発部のようなものなのだろう。

それが変わってしまう悍ましさは、自分の知っているものだったのだろう。

みんなに愛される勇者が目を輝かせて民衆を斬り伏せるような、恐ろしさ。

自分の知っている大切な人たちが、知らない間に中身だけすり替わってしまったかのような、怖さ。


「宇沢は壊されたし。ナツは、アイリは、ヨシミは、汚されてた……みんな、みんなおかしくなって、私は、弾を撃つことしかできなかった。ぜんぶ手遅れだった……」


だんだんと、カズサの声が低くなっていく。


「だからもう、私は、……」


フードを被ったままうつむいて、カズサは、ぽつり、ぽつりと言葉を落とす。

同時、星のない夜空から、雨水が垂れ落ちてきた。


「ああ、違う。嫌いになった。

 ……冷めただけ。前と同じだ」

「……カズサ。人を殺してしまったら、取り返しはつきません。本当の、ことです」


心臓の半分が欠けるような心地になりながら、アリスは諭そうとする。

だが、無駄な試みだった。


「分かってるよ……でも、でも無理でしょ?この砂糖にダメにされちゃったら、もう、戻ることなんて、無理でしょ。スイーツも食べれない……宇沢も、きっと、すごく落ち込んで、折れるかもしれない。いや、それは良いかもしれないけど、それだって、上手いやり方じゃなく、って……だったら、もう、責任取るしか、ない」


カズサは、もう、ぐちゃぐちゃだ。

ヘイローの色さえも暗くなっているように感じられた。


「わたし、は……わたしは」


「カズサ」


「私は……」


「救護所へ、連れて行きましょう」


その声はカズサには聞こえていない。


「…………あぁ、そうだね」

「では、この人をはやく……」

「うん、そうだ」


雨の降ってきた闇夜の中で、紫がかったピンクの瞳が、妖しく輝いた。


「絶対、絶対そうに決まってる。

 ケジメ、つけさせるしかないか」


やけに明るい声だった。

「もう、いいや。ほんとに全部」

自棄で危うい声色だった。

寒気がするほど、純粋な笑顔を作る。

「アリス。私、もうダメ。いや、ダメって分かってたけどさ、本当にもう、無理だ。

 アビドスに行ってくるよ」

「ダメですカズサ、そんな状態で行ったら、あなたは、」

「砂漠で中毒者の仲間入り?知らないよ。もう、どうだっていい」


おかしそうにするカズサ。

アリスは、止めようとする。


「行ったとして、どうしますか」

「小鳥遊ホシノにケジメをつけさせる」

「カズサ、今、ミレニアムでは、治療の開発が進んでいます。それこそ、重症の中毒患者を、助けようとする、取り組みが」

「『進んでいる』でしょ。完成してないなら意味がない。それに、もう戻れない」


「……っ、ですが、」


「奴を倒しても、皆の苦しみは終わらない?そんなの知ってるよ。だから?」


凍りつくような笑顔だった。

 

「骨が砕けたって死んだって絶対殺す。こんなことしでかすクズ野郎共、泣き声と同時に息の根も止めてやる。大丈夫、アリスが来るまでに幹部の一人は削っておくから」

支離滅裂だ。

きっと、本人だって気づいているだろう。

全能感を持って行動できるような人間ではないことは、聡く、優しい人間なのは、今日知り合った中でもよく分かることだ。

そんな人間が。無力に絶望して、理不尽に怒り、燃え盛り、憎悪に突き動かされ、人を、殺そうとしているのは、悲しい。


「カズサ。……人を殺せば、」

「私が殺すのは人じゃない。……それとも何?勇者様はこの惨状を起こした野郎を、まだ人間だって言えるわけ?」

「それは……」

「人間じゃない。生き物だとも思えない、こんなことするやつは」


彼女の主張が間違っている、と断言できる者はいないだろう。


「……、答えて。

 小鳥遊ホシノは、人間なの」

「はい。彼女は、確かに、恐ろしい事件を起こしています。ですが人間です。

 ……だからこそ。魔女や怪物の殺害ではなく、怒りによる私刑でもなく。起こした罪を、彼女の悪事を裁くべきです」

 

浦和ハナコや、空崎ヒナなどにも、同じことが言えるだろう。

彼女たちは、キヴォトスの秩序を大きく乱し、生徒たちを苦しめている。

その罪はとても大きい。

だからこそ、罪の重さと、下すべき刑の大きさを量り、償わなければいけない。


「それに、キヴォトスに死刑はありません。一番重くても、退学です」

「でも、アリス。小鳥遊ホシノとその仲間は、罪を償っても死を望まれるよ?

 だって、どこでまたやらかすかわからない。そんなやつ、生きてたら怖い」


「怖い……」

「だってそうだ。殺されるかもしれない。壊されるかもしれない。ううん、きっとそうだ。絶対に殺す」


カズサの言葉は、シンプルゆえに、どこまでもアリスに突き刺さる。

だが、アリスが望むハッピーエンドへたどり着くには、その怨嗟と対峙しなければならないことは、明白だ。


「はぁ……」


カズサは、雨空を見上げる。


「ねえアリス。

 ───もう一つだけ、質問していいかな」


カズサに、まっすぐ見据えられた。

今日初めて、そうされた。


「……どうぞ」


彼女は、こう聞いた。


「勇者ならそんなやつを、退治するよね」

「生かしておいたって害しかないやつを生かすなんて、馬鹿以外の何物でもない」

「『皆でのハッピーエンド』を目指すアリスは、仲間とアビドスに行って、小鳥遊ホシノに会ったら、どうするつもり」



そこに、問いを思わせる語尾の上がりはない。

きっと、アリスがなんと答えるか分かっているのだろう。


「……アリスは、アビドスに行ったら。

 小鳥遊ホシノと、きっと戦うでしょう。その上で、ちゃんと勝って、事情を聞いて、あなたは法のもとで裁かれるのだ、と言います」


呼吸して、


「アリスは、彼女とその仲間に投げられる石から、彼女たちを守ります。悪事は裁かなければなりませんし、罪は償う必要があるでしょう」


「それでも、彼女たちを、守ります。

 助けの手を掴みます」


「アリスの望む、『皆でのハッピーエンド』のために、必ずそうします。アリスは小鳥遊ホシノも助けたい。投げられる石に、罪人が血を流すのを当然だと見捨てるなんて、嫌です」


勢いを強める雨の中。

天童アリスは、そう言い切った。


「………意味が、わからないよ」


杏山カズサは、諦めの笑顔を見せる。


「何を、言ってるの?『小鳥遊ホシノ』を助けるって何?……でも、そうだよね。言うと思ったよ。アリスは、きっと、そんな勇者になれるかもしれないね」

「カズサは、最初にも言ってくれました」


数時間前だけどねともう一度、彼女は笑んで。


「でも、もう、そんなことは言わない」

カズサはこちらを睨む。

鋭い、研がれた敵意が向けられた。


「宇沢が、ナツが、ヨシミが、アイリが……日常がめちゃくちゃにされた、もう戻せない。……いや、他人だ、もう知らない。私は笑ってるアイツが許せない。アイツばかり幸せになるなんて許せるわけがない。アビドスに行って、ヤツをぶっ殺す。

 それを止めるなら。挙げ句の果てに、『小鳥遊ホシノを助ける』なんてほざくなら。

 アリス。……お前だって、私の敵だ」


カズサは、銃口をこちらに向ける。


「知り合ったばかりですが、カズサはアリスの友人です。共にカップ麺を食べました。カズサは、昔の話をしてくれました。

 そんな友人が、取り返しのつかないことをすると言うのなら、止めます」


背中の白い構造物に手を伸ばす。


一秒後。


「覚悟してよね。あんたが痛いガキでしかないことを教えてやる」


「行きます」


少女と魔獣は、激突する。



chapter8.

しみついたクセ

(30秒毎にカズサの攻撃力を増加)


接敵。一秒。


「っ!?」

「トロい」

隙を狙ってアリスの腹元に潜り込み、カズサが容赦なく銃撃を喰らわせた。だが、

……ガードされてる?

無害そうな外見に対し反応がかなり速い。


「っ!」

「くっ!!」

蹴りを浴びせるがまたガードされた。

あれは盾か?いや、銃らしい。銃にしてはあまりに大きすぎるそれ。人の背丈はありそうな砲身で、持ち手が見えない。

おそらくミレニアム製のうえ、あの大口径。銃弾が何かはわからないが、撃たれたら一瞬で気絶だろう。ならば、


……距離を詰める!

カズサは速攻を仕掛けることを判断。

接近戦、かつ短期の決着を狙う。


「そこ」

足下に数発を浴びせる。

「戸惑ってる場合?」

下を向いた隙に銃を片手持ちに変え、空いた手でアリスの胸ぐらを掴んだ。

「ッ!!」

膝蹴り、頭突き。自分の脳が揺れるのも構わず。

「……っ」

「何?この程度でダウン?」

「アリスに打撃属性攻撃は無効です!」

アリスはガレキを殴って弾けさせた。

文字通り。


……はあっ!?


どんな馬鹿力だ。

あれで殴られてもダウンは必至。

……確かに、勇者か。

だが当たる。なら、どうでも良い。

確実な一撃を浴びせろ。


カズサは、トリガーに指をかけ直す。




カズサはそこまで速くないですね、とアリスは分析する。それは的確だった。

初撃は反応が遅れたが、それは不意を突かれたというもの。本当に速ければ、最初の銃弾を喰らっていただろう。

……こちらの問題は、対応手段。

……ですがそれを許してくれるでしょうか?

コマンド攻撃だけで勝てる格ゲーはそうそうない。そう、ゲーム始めたてのネルや、負ける時のモモイのように。

大技は、読まれやすい。

本命を通すには小技の応酬が必要だ。


……であれば、アレの使い所です!


アリスは砲塔を背負い直す。

その辺の瓦礫を左手で持ち、右手を空にして、腰を落とし、


「ここからのアリスはスナイパーではなくCQC使いです!」

「何のつもりか分からないけれど……」

「やっ!!」


ロケットスタートだ。


「 」


その一歩は、武術の縮地のように、カズサとの距離を一瞬で縮めた。


「ッ」


カズサの顔が一瞬、固まる。

行けると思い、そのまま神速で接近。

アリスの青い瞳が映すのは黒い───




……銃口!?


「チョロい!」


額にまともに掃射を喰らい、低空飛行する黒髪の少女は地面へ墜落する。





アリスは素早く、力が強い。

だが、速くても直線的なら攻撃を置けば当たる。

問題は手応えが薄いことだが、それも、このまま戦っていけば消える違和感だ。

フードの少女は、戦闘時間が経過するごとに、自分のギアが上がるのを自覚する。

反応速度が上がり、狙いが定まってくる。

昔のように。

同時、甘い高揚感を覚える。


勝てるかもしれない。


「平凡」を望んでいた少女は、笑う。

昂りながら。

昂る己に、誰よりも絶望して。


……勝てるから、なんだって言うんだ。


何に勝ったって、この子を倒したって。

自分の大切なものは、壊れきっているのに?


……本当、勝てばどうにかなるとか。


射撃の精度は増していく。


……現実、とっくに見えてるくせに。


攻撃の威力は増していく。



自分で壊したくせに。


ボロボロの唇を噛みながら銃を撃つ。


「ううぅ!?」


アリスによける間も与えず命中させる。

彼女は少し、よろめいているようだ。


「勇者が魔獣に倒れて良いの?」


「……アリスは倒れません。

 カズサを、止めます」


再び突っ込んでくる小柄な少女に、迷いなく銃弾をばら撒いてでゆく。

アリスに弾丸は当たる。

だが、効いている様子はあれ、攻撃自体にひるんでいることはない。

アリスは立ち上がって、構え直していた。


「ミネ師匠直伝です!」


CQC。接近戦スタイル。


カズサは苛立つ。

どうして、こんなにも真っ直ぐに向かってくるんだ、コイツは?

さっさと、砲塔で撃ち抜けばいいだろう。


…………まあ良い。

正面から来るっていうなら好都合だ。

どうせ当たらなければ良いだけ。



カズサは、牽制しながら左方向へ走り出す。




chapter9.  知ったような口を




すぐ横に、ガラスの破れたコンビニ。


……みんなと来たこと、あったな。


無人のそこへ、足を踏み入れ、想起する。


『こらっ!私のカゴに入れんな!』

『よいではないかー』


……ヨシミが、ナツにつっこんでいた。


『これ!このチョコミントがいいんだよ』


アイリが、笑っていた。


もう嫌いになった。

もう彼女達はどうでもよくなった。

だって、中毒者を好きになる理由がない。

嫌いになる、理由しかない。

そうやって、杏山カズサは遠ざけてきた。

そこに、躊躇はない。

冷めれば良いだけ。

薄汚れた現実を直視すれば良いだけ。

遠ざければいいだけ。

恥ずかしがって黒歴史にすればいいだけ。

甘いものも、もう嫌いだ。

それが私だ。

私の本質は、どこまでも日陰の魔獣だ。


カズサは脇目も振らずに銃弾と使えそうなものをかっぱらう。

包みを剥がしてポケットに突っ込む。

これで弾の出し惜しみはしなくて良い。

立ち上がる、その時だった。


ガッッッッッッッ!!!??


「この手に限ります!!」


商品棚を拳でぶち抜いて、勇者がやってくる。だが、


……好都合ッ!!


携えていないとはいえデカい得物を背負っているアリス。体勢の立て直しに秒はかかる。その時点でこちらにアドバンテージがある!

カズサは銃を下げた。アリスの目が驚きに開かれた。

カズサはさっき入手した手榴弾を下手投げ。ピンは抜かれていない。

だからこれから抜くのだ。

ピンを狙い撃ち、抜く。

グレネードを撃ち抜いた。


ドッッッ!!


二人の間に爆炎が割り込んだ。



……めまい状態……!


衝撃をまともに受け、一時的に混乱する。

だがアリスは持ち前のフィジカルで三秒後に復帰することになる。

が、3秒。

それは大きい。

視認した限り、カズサのマシンガンは秒速約50発。

つまり。


ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!!!!!!!!!!


「くっ、ああっ!?」


150発を至近距離から的確に叩き込まれる。

まるで対戦相手のラッシュを喰らいながら、何もできない時のよう。


だがそれで何もできなくなるアリスではない。

熱い銃口を無理やり掴み、そこを支点に、カズサを投げ飛ばす。


「ッ!?……っ、めちゃくちゃすぎ……!」


咳き込みながら立ち上がるカズサへ、アリスは、問いかける。


「あなたは、もしも小鳥遊ホシノを倒せたのなら、どうしますか」

「言ったでしょ。……殺すって」

「では、そうした後は?」


そこで沈黙があった。


「……自分も、消えるつもりですか」


それが何?と聞いてくる少女へ、アリスは、畳み掛けるように聞いた。


「カズサは、『スイーツ部の皆』という言葉を口にしていました」


おそらく、カズサにとっては、かけがえのない大切なのだろうと思う。

自分にとっての、モモイ達のような。


「あなたがいなくなったら、その人達は」

「悲しむだろう、って?そうだろうね。

 でももう、どうでもいい。もう、皆のことが無理だから。誰が悲しもうが、なんとも思わない」


言う。


「でなきゃ宇沢にもあそこまで撃たない」

「苦手な人すらもどうでもいいのなら。

 どうして、そんなに泣きたそうな顔をしているんですか」

「───あ、は」


カズサの顔が、一瞬、くしゃくしゃに歪む。

その後に、ひどく冷たい笑顔に変わった。


「やっぱアリスみたいなヤツ苦手だよ」

アリスの向けた笑顔に。

「何も知らないくせに、知り合ったばかりのアンタが、知ったような口を聞くな」

牙を向けて襲いかかってくる。













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