加筆まとめ④

加筆まとめ④

白哉と会敵

 橋の向こうから歩いてくる白哉の姿、その霊圧にカワキを除く三人が戦慄した。ガンジュが引き攣った笑みを浮かべて、命乞いをしようかと提案する。


「な…何言ってるんですか? ガンジュさん!! 逃げましょうよ! ルキアさんと一緒に!!」

「道はこの橋 一本だけだぞ!! あいつと戦って逃げろってのか!? 命がけで!! こいつの為に命張れってのかよ!?」

『確かに彼との交戦はあまり現実的な策ではないね。隊長を相手取るには戦力が心許ない』


 怒りの火は消えず、ガンジュが焦りと憤りに汗して怒鳴った。カワキはガンジュの心情など知らずあっけらかんとした様子だ。

 花太郎が震える拳をぎゅっと握りしめる。


「せめて…逃げる時はルキアさんを連れて逃げて下さい…。ここは…ぼくが食い止めます…!!」


 花太郎が冷や汗をかきながらも決意の色を浮かべて顔を上げた。ガンジュとルキアが驚きに目を見張る。無謀な行動を止めようとするガンジュの声をBGMに、カワキは軽く眉を寄せて首を傾げた。


⦅“食い止める”と言っても、この実力差では足止めにすらならないだろう。何を言っているんだ?⦆


 ルキアを助けたくて来たのに、このまま何もしないで帰れない。そう言った花太郎が頭を上げる。

 ガバリと体を二つに折って、わざとらしいくらい明るい声で謝意を伝えた。


「今までどうもありがとうございました!! 行ってきます!」


 不安げな色を押し殺し、無理やり笑顔を作って橋を渡る。その背に駆け寄ろうとしたルキアの腕をガンジュが掴んだ。

 兄の仇だと憎しみをぶつけていた彼がどうして? なぜなに期の幼子のように、カワキは純粋な疑問を口にする。


『朽木さんの方を止めるの? 今 死地へ向かっているのは彼なのに』


 瞬きを一つ。きょとんと、いつもより僅かばかり目を丸くして問いかける。ガンジュは鋭く息を吸い込んで、ぐっと表情を強張らせた。

 カワキの言う通りだ。ガンジュはジリジリとした気持ちで自分に言い聞かせる。ルキアは花太郎を止めようとしたのだから行かせれば良いはずだ。


 ――その視界に遠ざかる背中と哀れなほどに震える拳が目に入る。ガンジュはルキアを後ろへ突き飛ばしてずんずんと扉に向かって歩いた。


⦅恐怖でおかしくなってるのか? それとも……没落しても元五大貴族…何か秘策があるんだろうか…。とてもそうは見えないな……⦆


 記憶の中のダーテンの記述を辿って思案する。手許の情報を含めて精査しても、秘策の存在は疑わしい。

 カワキが思案する間にガンジュは大声を上げて気合を入れ直し、花太郎と入れ替わりに白哉と対峙する。


「いくぜお坊ちゃん!! てめーの相手はこの俺だ!!」

「…四深牢への微かな霊圧の移動を感じて、どんな強者が霊圧をひそめて潜り込んだかと思い見に来てみれば…」


 ガンジュの姿を一瞥し、能面のように固まった顔で告げる。続く言葉にカワキはだろうなと心の内で頷いた。


「何のことはない。…羽虫か。下らぬ」


 ガンジュを案じ、血相を変えて駆け出そうとするルキア。牢の影響で霊力が減衰していたルキアは、白哉の強大な霊圧に平衡感覚を保てなくなる。


『今の君はひどく霊力が削れてる。戦力にならないよ。朽木さんに何かあると一護が何をするかわからないんだ。じっとして』


 カワキはルキアを背にして立つ。隙を狙うような爛々とした瞳は白哉に向けられている。淡々と事実を述べながら、チラリとも振り返らなかった。

 床に手をついて倒れるルキアの肩に、花太郎がそっと触れる。


「きっと何かぼくなんかじゃ思いもよらないようなすごい策があるに違いないですよ! 少なくともぼくはそう信じてます!」


 花太郎がルキアを励ます横で、カワキが警戒する猫のようにパッと頭を上げて周囲を見渡す。


⦅接近してくるこの霊圧…おそらくは隊長格……。合流されるとまずいな⦆

「ど、どうしたんですか? そんなに辺りを見回して……。…あっ!」


 険しい顔で警戒するカワキを訝しんだ花太郎が、戦況の変化に声を上げた。ガンジュが刀を手に突撃を装って煙玉を使おうとする。しかし腕を振り上げた時には、白哉は背後にいた。


⦅どうする…? 隊長格を二人同時に相手をするなんて無謀にも程がある⦆

「失せろ。私の剣は貴様の如き羽虫を潰す為に無い」


 めまぐるしく思考が浮かんではシャボン玉のように弾けていく。目の前の状況は待ってはくれない。

 腕から血が噴き出したガンジュが悲鳴を上げた。しかしすぐにゆらりと立ち上がると、歩いていく白哉に待ったをかける。


「あんたら貴族はどうだか知らねえが、この程度でビビッて逃げるような腰ヌケはいねえんだよ!!志波家の男の中にはな!!」


 ガンジュの叫びに白哉が顔色を変える。その様子にルキアの顔から血の気が引いた。


「…そうか…。貴様、志波家の者か…。…ならば手を抜いて済まなかった…。貴様はここから…生かして帰すまい」


 刀を抜いた白哉にカワキの意識が立ち返る。間合いを警戒しながらも、瞳の奥をきゅっと締めた。瞬きもしないで眺め入る。

 制止するルキアの叫びも虚しく――刀身が消えた。


「散れ“千本桜”」


 ルキアから表情が抜け落ち、逃げろと絶叫した。ガンジュの全身から血を噴き出す。


 ――同時に、軽く弾けるような銃声が響いた。

回避した白哉の視線がすっとこちらに向いて――…その目がカワキを捉えると軽く目を見開く。


「…そうか…。…貴様……」


 “どんな強者が霊圧をひそめて潜り込んだかと思い見に来てみれば…”。白哉の脳裏を自身の言葉がかすめ、間違いでは無かったと腑に落ちた。

 カワキが頭のスイッチを切り替えて長い息を吐く。


⦅悩んでいる時間はない。合流される前に――⦆

『一か八か、やるしかないか…!』


目次◀︎|▶︎2ページ

Report Page