創世神性輪廻 神様なんてぶっ飛ばせ!!スーパーインド大戦6
宝石は額に張り付いている。鮮やかな金色が誇らしげに淡く光っている。すでに痛みはないようだがその目は涙目であった。
「取ろうとしても、力が抜ける。なんか感覚もある。」
「兄さん、下手に触らない方がいい。アスクレピオスならなんとかしてくれる。」
「これだからアシュヴァッターマンは!!弟気取りがいい気になってんじゃねぇ!」
「どういうことかしら?断ったはすですが?」
ユディシュティラは満足げにうなずている。
「まぁ、彼も神の化身ですので、宝珠が主人を選んでもよいでしょう。」
むしろ選ばれたことを喜ぶところでないですか、と、この場では最も言ってはいけない言葉を言った。ドゥフシャーサナ、ヴィカルナが殺気立つ、ドゥフシャラーは笑ってはいるが、目がすわっている。
「・・・本当に、この特異点ごとYHVHを消し去っても、汎人類史に影響を及ぼすんだな?」
弟と母を抑えて、スヨーダナ・キャスターは静かにユディシュティラに問う。
「YHVHは唯一を掲げた神、白紙化された世界はむしろいい土台です。無から有を作り出せば、純粋に自分を敬う人類を創れるでしょう。」
『ストーム・ボーダー内の計算も同じです。遅かれ早かれやって来る危機が、ユダナが囚われたことで現時点に確定しました。』
『YHVHが創り出した世界こそ存在すべきと定義されれば、カルデアスを壊してもすでに新しい人理が始まっていることになる。戻るところがなくなればそれこそこちらが異聞帯として終わった世界認定されかねない、ということであっているかい?』
「ええ、おおまかなところはあっています。」
灰色の世界は、それだけ色とりどりの神様がこぞって悪魔、悪鬼、羅刹へ堕ちる前にカルデアに手を伸ばして消えてしまったということを示している。五王子だけがまだ色を保っているのは半神であるが故であろう。
「・・・もういい。お前のいうYHVHか、それをぶちのめせばいいんだろ。」
「ええ、神殺しが必要です。それは私たちが、」
「いらん。対神宝具ならカルデアにもあるわ!!」
スヨーダナ・キャスターがホログラムに向かって言う。
「ランサーのカルナよ、槍をよこせ。」
アーチャーのカルナが生涯持つことのなかった対神宝具、黄金の鎧と引き換えに一度のみ使用できる神殺しの槍であった。無敵の鎧と引き換えにされる一度のみの武器、汎人類史では必要にかられてアルジュナではなくビーマの息子に放たれた。その結果、様々な呪いのせいでアルジュナにカルナは討ち取られた。
『俺は構わない、だが、』
『待て、キャスターのスヨーダナ。当機構も神装武器を保有している。インドラの武具がよいか、槍もあるぞ。弟たちの分もどうだ?好きなものを好きなだけ選んでくれ。』
ホログラムにカルナを押し除けて現れたハタヨーダナは次々に武器のプレゼンをしている。肩に止まったガルダが無駄な行為をしている主人を呆れ顔で見ていた。
「・・・ハタヨーダナ、それはお前に与えられた祝福であろう。それを俺が奪うことはできん。お前もドゥリーヨダナ属なら貰えるものは貰っておけ。」
「ちゃんと当機構は断った。(断れてない)」
得てして神は人の望みを叶えない。好きなように祝福を与え、それを持て余す様もどこまで傍観しているのだろう。その趣味にこちらを巻き込まないでほしいと切実な思いでスヨーダナ・キャスターはハタヨーダナの提案を断った。
『当機構の武具に不満でもあるのか!!』
「ほんとにハタヨで止まってることに意味があるよな。」
「前例作ってハタヨーダナ経由でお気に入りに祝福乱舞されたら困るしな。」
「ごめん、ハタヨーダナ、その武器は大事にしてあげて。」
別時空の弟たちと立香の嘆願に見るからにしゅんとしたハタヨーダナがホログラムから消える。これは帰ったらご機嫌取りが必要だと立香はため息をつく。
「でもどうやって転送する?ビーマ方式は使えないでしょ。」
「ドゥリーヨダナを使う。」
『わし様ぁ?』
確かにわし様とカルナはズッ友であるが、とホログラムが揺れる。
「ドゥリーヨダナへのカルデアでの攻撃は揺りかご(ギー)で守られている俺のドゥリーヨダナに肩代わりされる。ランサーのカルナよ。槍をドゥリーヨダナに向けて投げろ。」
「そういえばまだ起きねーなこいつ。」
「概念ギー壺のままだな。」
「ギー壺って概念あるんだ?」
チトラーンガダーとアルジュナの近くに落ちたドゥリーヨダナは硬化したギーに包まれて微動だにしない。むしろより強固に守られていた。
「壺が壊れていないならまだギー壺内にいる、シュレディンガーのドゥリーヨダナ理論だ。ユユツオルタ、お前の能力に全てがかかっている。壺を割るなよ。抵抗があるならシャクニを盾にして構わん。」
『愛しい甥の反抗期か。』
『わし様転送機ではないのだが?』
『ドゥリーヨダナさんには念のためヴィナーヤカしとくんで、大丈夫っすよ。』
『待て、俺がやろう。』
青と白銀の鎧を纏ったカルナがランサーのカルナからインドラの槍を受け取っている。神殺しの槍には対価としてスーリヤから授けられた鎧が必要であるが、どの鎧かの指定はない。
『やり方は?』
「兄様!余計なことはしなくていい!」
『ナイフで皮一枚を削ぐイメージだ。』
『心得た。』
「兄様!!」
白銀の鎧が解ける。光の粒子は槍を神殺しに変えていく。
『大事ない。』
「おい、誰か止めろ!聞こえるだろ!アシュヴァッターマン!ビーマ!」
『パラシュも組み込めないか?』
『ヴァーユの加護の上乗せはどうだ?。』
「余計なことをするな!!」
ーーーーーシュン
『我も、まぜろ。』
管制室の扉が、開く。青い肌、多腕の体、インド最高神の一人シヴァの妻であるカーリー神がそこにいた。
『ーーー』
『ユユツオルタとユッダは隔離!バーヌマティーは水着霊基に。カーリー神、何か用かな?』
『我の神官の危機であろう。』
「違うが?」
『汝、我の化身であろう。いやシヴァの加護を受けるなら我の息子でもよいだろう。ガネーシャ、弟ができるぞ。一緒にナデナデしてやろう。』
迫り来る多腕にガネーシャ神が捕まっている。使徒はその手を退けようとしているようだが無駄に終わっていた。
『待て、カーリー神よ。ガネーシャ神はともかく■■■は俺の姉のような、要介護生物のような、大切な、誰かのような、安易に弟を増やすという愚行は正気を疑うが、ん、俺は今何を言った?』
『認識阻害が仕事しないことについてガネーシャさんはもう少し頑張るべきだと思うんすよ。』
「ガネーシャ神よ、諦めるな!」
「いけませんね。スヨーダナは私の子ですが?」
『それがどうした?我はシヴァのシャクティ。我が子に力を貸そう。』
「丁重に辞退しよう。カーリー神。俺の母はガーンダーリー、ただ一人だ。」
その会話の間にも、白銀の槍が徐々に形作られていく。カーリー神はおもむろにリボンを引き伸ばすと完成間近の槍に器用に巻きつけている。
『貰えるものは貰っておくのだろう。息子の我が儘、叶えようではないか。マスターを見よ。母なるもの、姉なるもの、妻なるものここでは数多が許容される。母が二人など、誤差であろう。』
「待て、そうではない!そもそもがカリとカーリー神の誤植で、」
『よい、許す。』
「話を聞け!そんな加護の塊の負荷には耐えられん!」
その言葉を待っていたかのように、スヨーダナ・キャスターの左手を光が貫く。
「「大事ない。」」
響く声は慣れ親しんだカルナと同じだった。手の甲には太陽を表すルビーが、皮膚は肩まで黒く染まり黄金の装甲が張り付きマゼンダのファーが揺れる。
「いい忘れていましたが、カルナは世界の維持のため天に昇りました。あの光源はカルナ自身です。兄も、あなたに会うのを楽しみにしていたので、よかったですね。」
今にも死にそうな顔で、心から良かったと思っている顔でそんなことをどうして言うのか。
「・・・早く槍をよこせ。さっさと帰るぞ。」