創世神性輪廻 神様なんてぶっ飛ばせ!!スーパーインド大戦5

創世神性輪廻 神様なんてぶっ飛ばせ!!スーパーインド大戦5


光は収束する。かつて見た姿よりも大人びた、人の形をしたドゥフシャラーが微笑んでいる。

「ドゥフシャラー?角とかカリとかは?」

「シャクニの中の解釈違いがどうにか許容できる範囲に持ち込んだ結果だ。」

「ふふ、会いたかったわ。ドゥリーヨダナの中から見ていたけどちゃんと貴方に、貴方達に会いたかった。」

ドゥフシャラーの柔らかな手が血に濡れたスヨーダナ・キャスターの右手をとる。淡い光に包まれて傷は消えた。

「よく、頑張りましたね。スヨーダナ。貴方とこうして触れ合うことがもう一度できるなんて、とてつもない奇跡だわ。もっとよく顔を見せて。」

その体は鱗に覆われていたりしない。角もない。表面にあるのは人の肌だけだった。ユディシュティラが求める機構はそこにはなかった。

「何ですか、その機構モドキは?」

「ひどい言い草だな。感動の再会に水をさすな。」

「何をしたかわかっているのですか?」

「もういいぞ、悪役ムーヴはシャクニだけにしてくれ。慣れないことはするもんじゃないが?黒幕をさっさと言え。」

「一つの手段を奪っておいて言うことですか?」

すでに容器の中に光はない。

「魔性は俺がドゥリーヨダナにやったものだ。今更無理に分離すればドゥリーヨダナはドゥリーヨダナであることを維持できん。お前、従兄弟を殺すところだったぞ。正義の風上にもおけん奴め。」

「スヨーダナ、そろそろいいかしら?」

「ええ、どうぞ。マシュ!マスターを頼む。多分ドゥリーヨダナはギー壺効果でなんとかなる。」

「実はね、すごく怒っているのよ、私。息子たちがいいように扱われるのも、体をいじられるのも、神の操り人形にされるのも、本当に、私自身にも腹が立つわ。貴方たちまで、私たちを利用しようとしている、その手段を講じさせているものにも全てに鉄槌を下したい。」

詐称者というクラスは、外側と中身が異なるものの総称。ドゥフシャラーとして彼女が語る言葉は彼女の正体を表していた。

「私は大地の怒り、その結末、私が愛するもののため、大地の裁きを下す。母なる大地(プリティヴィー・マーター)」

 

 

 

大地が揺れて、穿たれ、塔が壊れる。ユディシュティラも階段を登っていた3人も、アルジュナ、チトラーンガダーも崩壊に巻き込まれていた。崩落の速度はは抗うかのように緩やかであった。

「王座は砕けたな。ユディシュティラ。」

瓦礫の中、ユディシュティラを双子が支えていた。アルジュナはチトラーンガダーに支えられている。ビーマはドゥフシャーサナとヴィカルナの後ろから動向を伺っていた。立香はマシュに抱えられてドゥフシャラーともにいた。

「塔ごと壊すとは。」

「生憎こっちは平民生まれでなぁ。王宮での礼儀は知らんのだ。」

「兄上はいつでも完璧だが?」

「ビーマよりしっかりしてたよ。」

「それで、この惨状はどうしたのだ?パーンダヴァは豊かな国を約束された側であろう。なんだこれは、どこもかしこも擦り切れおって。俺たちがいないせいではあるまい。」

いつの間にかそばにきた弟たちの言葉は無視して、スヨーダナはユディシュティラに問う。

「・・・神はもういません。」

「アルジュナ・・・。」

「もういいでしょう。大地の女神の訴えに、神々は半神による統治で応えました。法に従うものを残し、それ以外を不要として排除する。人口は削減されました。残った秩序の人類があの街の人々です。」

善をユガで排除するのではなく、ユガを回さずに純粋な神の力を行使してひたすらに糾弾を続けた世界、それはロストベルトよりも自由がなく、人が歯車としてのみ存在できる世界になった。

「戦争ではなく、ただの蹂躙でした。それに気がついたのは全部が終わってしまってからです。」

ただそこには半神としての義務があった。秩序のみを望む世界は縮小していく。

「神々は今更ながらに方法を間違えたことを悟ったのです。」

いらないと切り捨てたものを必死に求める姿は滑稽でもあった。

「見たでしょう。あの人間たちからどうやって信仰を得られるでしょうか。信仰がなければ神も力は弱くなる一方です。ギリギリの神格で消滅覚悟でカルデアに手を伸ばした。手に入ったのは紙くずだけでしたが。最後のインド神が、唯一彼を持ってくることができました。」

「スヨーダナ、ここに大地の女神はもういません。」

「ギーにはプリティヴィーの加護が宿っている。ドゥフシャラーもいれば相性はよかったであろうな。」

「ちょっと待って、大地の女神がいないって、それって。」

「略奪公殿も言っておっただろう。やり方などどうでもいい。大事なのはなぜ大地の女神を消費してでも我らを呼ばねばならぬということだ。」

大地の女神がいないなら、異聞帯になることもなくこの世界は消えてしまうだろう。それでもカルデアを、ドゥリーヨダナを求め続けた理由があるのだとしたら。この世界の秩序はやりすぎた。秩序を通り越して洗脳になってしまった。崇められることのない、語り継がれることのない神々は力を失っていく。神が、神でなくなってしまう。その存在は悪魔に、幻魔にあるいはそれ以下に貶められる。

「偉大なる最高神をも誑かすことのできる謂れのものがおるのだろう。」

ユディシュティラは偽王を呼びたがっていた。偽王とスヨーダナ・キャスターの共通点は神性特攻宝具であること、より高位の厄介なものがいるということだ。

「私たちの敵はYHVH。宇宙の外からの乱入者です。」

「・・・聞こえるか、ダ・ヴィンチ。」

『聞こえているとも。映像は大丈夫かい?』

「感度良好、大丈夫。」

『さて、初めまして、私のことは気軽にダ・ヴィンチちゃんと呼んでくれ。それにしてもYHVHだって?』

「本来のYHVHとは違うでしょう。この宇宙の、違う概念からきた、YHVHという創造神と思っていただければ。」

「・・・YHVHって?」

「ヘブライ聖書におけるいと貴き唯一なる神とされています。日本ではエホバの証人などで名称が語られることもあります。」

アブラハム宗教における唯一神として奉られる、唯一完全なる善性、パーンダヴァとは相性が良かったであろう。

「うぇ、それ、やばくない?」

『だから君たちは偽王を欲しがったんだね。』

「ここは秩序という洗脳の実験場。人理につなぐ入り口。ここが終われば次は本命へのアプローチが始まるでしょう。」

『カルデアを呼んだ、ということは勝ち目を持っている、ということですね。流石にYHVH相手に神性特攻一人では部が悪すぎますしね。』

「ええ、もちろん。神を殺すのは対神武器が必要です。私たちが神装武器になりましょう。」

ユディシュティラの手がスヨーダナに向かって差し出される。

「いらん。」

「えっ?」

「俺のユディシュティラよりずっと神だろう、お前。神が人に与えるものは大抵人の身に剰るものだ。いらん。」

「ユディシュティラ、言った通りでしょう。彼は断ります。」

「いいように使われる男ではありません。」

サハデーヴァ、ナクラがユディシュティラを支えながら言う。

「こ、棍棒で戦う気ですか?」

「調子よく晒された結果がこれだろう。お前たちでどうにもできん。」

「で、ではこれだけでも!」

ユディシュティラは王冠をスヨーダナ・キャスターに差し出す。王冠の中央に破魔の宝珠が鎮座している。

「彼はこの世界の最後の秩序に背く者でした。彼は不死者でしたが、カーストに従わない時点で不死を失いました。彼を打ち滅ぼす一瞬前に、サハデーヴァが剪定される未来を観たのです。その剪定の先に、汎人類史の侵略が始まる可能性が示唆されていました。同時に、サハデーヴァは観たのです。あるはずだった私たちの未来と、従兄弟の可能性を。それは神性を持つものに伝播していました。彼にもです。今にして思えばあれは神託、と言って良いものだったのかもしれません。」

あの時から、ユディシュティラと兄弟は覚悟を決めたのだ。たとえ身が擦り切れようとも、姿が変わっても、精神が限界であっても、いつかカルデアが来る日を待っていた。

「彼の死は避けられませんでした。死の間際、彼は言ったのです。いつか、世界を打破する王に宝珠を譲ってほしいと。」

宝珠は受け取られるのを待っていた。

「・・・俺のアシュヴァッターマンは一人だけなのでな。」

「兄上にはいらん。あの弟もどきが増えるのはダメだ。どれだけ俺たちが煽られたと思っている!」

「兄さんは兄さんのままで完璧で究極な存在なのでお断りします。」

「私も不要に思うわ。」

「・・・ちょっとかわいそうじゃない?」

「そうでしょう!さすがはカルデアのマスター!!話がわかる!」

「よいか、立香。相手は神よりの人間だぞ。安請け合いしてよかったことがあったか?」

「お断りしよう。」

 

バキッーーー

 

王冠が突然割れる。宝珠が王冠の土台から自由になった勢いそのままにスヨーダナ・キャスターの額に張り付いた。

「いっだぁ、何だ?痛っあああーーー」

「兄上!」

「兄さん!」

「スヨーダナ!」

額を抑えて蹲り唸る。張り付いた宝珠を剥がすようにするたびに唸り声が大きくなる。

「殺す。」

「それよりももう帰ろう。ユダナも回収できたし。あれはアスクレピオスに分離してもらう。」

「いいと思うわ。」

「あなた方の世界がこの世界と同じように秩序に満たされるとしてもよいのですか?」

「馬鹿か?とっくの昔にここより真っ白だわ。秩序を説く民なんざいねぇ。」

「もとの大地に戻す時にカルデアスに押し付ければ特に問題ないのでは?」

「解決したわね。」

「いいえ、観測されれば何度でもあれは来ますよ。ここで止めなければ。」

「ユディシュティラの言うことは本当です。」

「サハデーヴァが言うなら信じよう。」

「酷い!」

「兄上に危害を加える輩を信用できるか。」

蹲っていたスヨーダナ・キャスターがようやく顔を上げた。その目は涙目である。

「これ、どうなってる?取れない。」

紫色の髪をかきあげると、額には黄金の宝珠が輝いていた。

 


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