副次効果
「モモンガ中将!」
呼ばれて振り返る。声で誰かは分かっている。
訓練、任務、電伝虫越し、TD、様々な場面で聞いた声だ。
海軍が誇る“世界の歌姫”ウタ少佐。
その彼女が駆け寄り敬礼した。
「お疲れ様です!今お時間大丈夫ですか?」
「ん、お疲れさん。今日はもうこれを提出すれば終わりだ。どうした?」
モモンガは持っている書類を振り、問題無い事を示す。ウタの手元にも同様に書類が有るので向かう先は同じだろう。
「それなら良かった~。この前のお礼しっかり言えて無かったので」
「この前…?ああ、ライブの?」
ウタのライブでは時折、海賊の襲撃を受ける。いつもはルフィ率いる護衛が迎撃して終わるがその時は違った。
ルフィ、そして護衛部隊の強さを知り、同盟を組んで襲撃してきたのだ。いかんせん数が多く苦戦する。
ウタもライブを中止し加勢に行こうとした所、別任務の帰りに通りすがったのがモモンガの軍艦であった。
海賊達はルフィとモモンガ、それぞれが率いる部隊に挟み撃ちされる形となり、あえなく敗北したのだった。
そいつらの捕縛や後処理の関係でお礼が後回しになり、今日になってしまった、という訳だ。
「それなら気にするな。海軍として海賊を捕まえるのは当たり前だ」
「その通りですけど、私はライブしっかり終わらせられて、ルフィも部隊の皆も凄く助かったと言ってましたし。やっぱり直接お礼言いませんと。どうもありがとうございました!」
「そこまで言ってくれるなら受け取ろう。どういたしまして」
モモンガは穏やかな笑顔でウタからのお礼を受け入れる。目上として建前は言うものの、やはり嬉しいものだ。
そこでふとモモンガは疑問が浮かぶ。
「そういえばそのルフィは一緒では無いのか?」
「ルフィなら今、訓練所ですね。
しっかり教官やってますよ。本人はゼファー先生とモモンガ中将のモノマネやってるだけだーなんて、自信無いみたいですけど」
「話には聞いてたが本当にやってるのか……。……そうか、あいつが」
モモンガは感慨深く呟く。教育係をやっていた身として胸に込み上げるものが有る。
上機嫌なのだろう。モモンガは冗談めかして言う。
「では後で本当に出来てるか見てやろうかな」
「行きましょう!一緒に!ルフィもお礼言いたいでしょうし!」
「…んん!実を言うとこちらも礼を言いたいんだ」
いい加減こそばゆいのだろう。咳払いをし、モモンガは話題を変える。
ウタはキョトンとした。思い当たる節が無い。
「何でしょう?」
「ほら海賊達縛り上げてる時、記者が居ただろう?」
「あ~。世界経済新聞の」
アホウドリでは無い。念のため。
「そいつが取った写真で私が写っただろ?」
「一面になってましたね?」
真面目なモモンガ中将も有名になるのは嬉しいものなのか、とウタは少し以外であった。
すると「それで顔が知れ渡ってな?」と前置きをして、
「町に出ても子供に『海賊だ!』って言われなくなったんだ!」
モモンガは言い放った。笑顔で。
本人としては冗談のつもりである。
しかしウタは過去の事(モモンガは知らないが)も有り、そうはいかない。穏やかな雰囲気は消え失せ、真顔である。モモンガは失言であった事を察した。
「スマン。つまらなかったな……」
「冗談だったんですか今の!?」
「いや言われた事が有るのは本当なんだ」
「大問題ですよそれ!!正義の文字背負ってらっしゃるのに!」
ウタは尊敬する人物、そして正義のコートへの不当な扱いに憤慨。モモンガは何とか宥めようとする。
「そこまで怒らなくたって大丈夫だ。近くに部下がいたり、周りの大人が注意するからな。軍人として恐れてくれないと困る事もあるし」
「それは分かりますけど……」
海賊扱いは怖いと思ってる証拠。
治安維持に多少の恐怖は必要だ。
ウタも理屈は理解はしている。納得はしかねるが。
モモンガの様子にウタは疑問をぶつけた。
「もしかして慣れてらっしゃるんですか……?」
「強面の連中で言われた回数を競えるくらいはな」
「──ッ…!」
ウタは天を仰ぎ嘆く。今すぐにでも解決すべしとモモンガに向き直り提案をした。
「こうなったらお一人ずつライブか配信に出て貰いましょう。お顔とお人柄が広まればそんなバカな事言われなくなります!!」
「待て待て!それらは歌もそうだが君が目当ての側面も有るだろう!
私はイヤだぞ!?歌姫を見に行ったら厳つい男が居るのは!!」
それにどちらも
『海軍のイメージが向上し、売上も海軍の懐に入る』。
最早、組織の生命線とも言って良い。
ウタの提案は却下されるだろう。
「…そこまで思ってくれているだけで充分だ。それに最近は市民との距離もかなり近くなった。君の頑張りのお陰さ。あとはルフィもな」
「……ありがとうございます」
「自分の評判くらいは自分で何とかするさ。そんなに頼りないか?」
「い、いえ!そんな!」
ウタの必死な様子にモモンガは微笑む。からかわれたと分かったウタは少々不満げだ。
「じゃあ良いじゃないか。さて。そろそろ行くか」
「…は~い」
話が一段落した2人は歩き出す。
が、ウタは諦めが悪い。
「……たまたま写ったー、とかなら行けますかね?」
「粘るなァ、君…」