剣士
「二人きりですね、シロウ」
ずい、とセイバーが身を乗り出し、思わず自分も同じ距離だけ後ずさる。
何の変哲もない普通の日。たまたま彼女の言う通り誰もいない休日の夜。
夕食も済ませ、後はもう明日に備えるくらいしかすることもない。
風呂にでも入ろうか、と廊下を歩いているところを呼び止められる。
「せ、セイバー? どうしたんだ?」
戦っているときのような覇気を纏うでもなく、名乗り上げるときのようなカリスマを発するでもなく、しかし抗いがたい雰囲気を伴って彼女は目の前に立っていた。
いつも通りの、しかしいつもとは違う彼女。アルトリア。
「いえ。そういえばデザートを食べていなかったな、と思いまして」
ペロリと舌で唇を舐めるその仕草があまりにも色っぽく感じられて、彼女に対して後ろめたい感情を抱いてしまう。そんなことを考えていたと見抜かれないよう、ぎこちなく視線をそらす。
「ごめん、セイバー。今日のデザートは用意してないんだ」
明日はそのぶん豪華にするから、と続けようとした言葉をさらに近づいた彼女に遮られた。
壁に追い詰められ、逃げ場を封じるように両手で自分の両側を塞がれた。
見上げられているはずなのに、まるで見下ろされているような錯覚に陥る。
「何を言っているのです? ここに用意してくれているではないですか」
「せ、っ」
股の間に彼女の太ももが差し込まれ、疑問の声すら封じられた。
細くしなやかで、女性らしい柔らかさを備えたそれが自分の分身を持ち上げる。
剛剣の使い手だとは未だに信じられない彼女の指先が服の裾を潜り、さわさわと肌の感触を味わうように撫で回しながらある一点を目指し上り詰め、目当てのそれを探り当てると。
「シロウが私のデザートです。そうでしょう?」
「ぁ」
嗜虐の愉悦に染まった眼差しに魅入られる。
がり、と首に小さな痛みが走った。
セイバーの甘噛みだ。喉笛という、あらゆる生物に共通する急所。
自分は今、セイバーに命も尊厳も────全てを握られている。
そのことに気づくとぞわりと全身を身震いが襲う。息が荒くなるのを止められない。
逃げられない。いや、きっと逃げられる。
彼女の肩を押し返せば、それだけで冗談ですよ、と笑って引き下がる。そんな確信があった。
なのに。
彼女の両肩に乗せられた自分の腕はまるで麻痺したかのように抵抗の意志を示してくれない。
「可愛い声。もっと聞かせてください、シロウ」
嗚呼、自分はとっくに彼女の獲物だったのか。