前編
99号総力戦 A「くっ、なんてザマですか!」
超アリスこと9号は苦々しい表情で野営地で待機していた。今回の作戦で秘密裏に誰よりも先に対象Xを討伐する事で防衛室長代理として華々しい功績が手に入る筈だった。しかし、9号が着いた時には既に先行していた部隊が先生達により制圧されていたのだ。
その原因となった人物を睨む
(確か…ミレニアム学園のモモイ…とか言いましたか?)
オリジナルの近くにいる人物という事は知っているが、大して脅威になる力のない対象だと思っていた。だが、彼女がプロトお姉様を連れて先行させた部隊に潜り込んだ事で秘密の集結地点の居場所を割れて抑えられてしまった。腹正しいが、彼女自身はアリス保護財団のセミナーオオフトモモ(変な名前だが)に怒られて涙目になっているので少し溜飲を下げる。作戦は失敗したが決して最悪ではない。先生が我々の力を惜しみ後援部隊として出口の封鎖を任せたのだ。先生達によって消耗した対象Xを労せずして討ち取るチャンスがあるのだ。それを思い9号は早く出番が来ないかを心待ちにする
「あの…彼女達に後ろを任せてよかったんでしょうか?」
歩きながら1号が不安を口にする
“人手が足りないのは事実だからね。それに…モモイ達を無事に送り届けてくれるかわからなかったからわかりやすい場所にいてくれた方がまだいいかなって”
「そうですか…」
現在、先生達はC &CのA班とその他のB班の二手に分かれて進んでいた。場所が広いのでそれぞれで探索していた…しかし
「何も反応がないわね」
「まだこっちに気付いていないって事かな?」
「だとしても見張りすらいないなんてね」
「かなり不気味っすね」
探索を続けるも何も見つからない。もしかして既に引き払ったのではという疑念がわきかけた時、アカネからの連絡が来た
『ご主人様、地下への通路を発見しました』
“ここだけか…”
結局見つかったのは地下への入り口だけだった。恐らくその先に対象Xがいるのだろう
「対象Xはこの先にいます」
5号が確信しているようだがその声は震えていた。いや…よく見ると1号や15号も震えていた
「………」
「ミ、ミカ姉…」
それぞれが自分のマスターの近くに寄る
“何かわかるの?”
「わかりません…ただ…恐い…自分が…塗りつぶされそうな…」
1号の手を先生は握る。1号は少し落ち着いたのか前を向いた
「大丈夫です…。行きましょう」
地下へと下りるとそこは広い空間だった。そして、目の前の存在に気づく
「あれは…本当に私の作ったアリスなのか?」
ウタハが呆然とする。当然だろう、その姿は大きく歪で既に人としての形をしていなかった。自分の体重を支えきれないのか4本足になり、身体中にアリスの顔が浮かび上がっている
誰かの嗚咽の声が聞こえる。しかし、確認する余裕は無かった
「よく来てくれましたね。お姉様方」
たくさんのアリスの声が重複して聞こえる。声と共に体から手が生えてくる
「さあ、私達と一つになりましょう」
その言葉を皮切りにネルとアスカそしてイチカが走り銃弾を浴びせる
「チッ」
しかし、皮膚が厚く銃弾が通らない。体から数えきれないほどの銃が出てくる。そして、一斉に撃ち始めた
ダダダダダダダダダダダダ
全方位に放たれた為、さしものネルも距離を取る。
「いったぁー!危ないじゃん!」
ミカと15号が他のみんなを庇うように前に出る。大したダメージはないが近づく事が出来ない
「掃除を始めましょうか…」
アカネが爆弾を起動する。ウタハは直撃した対象Xからアリスが一体吹き飛んでいくのが見えた
「先生、やはりあれを構成しているのはアリス達だ。そして、彼女達は完全な融合ではなくくっついている状態…衝撃を与えれば無理矢理剥がす事はできる」
「待って下さいウタハ先輩!それだと…!」
「ああ…恐らく
“メモリーさえ無事ならきっと大丈夫!作戦通りに行こう“
ウタハが口を開く前に先生が大丈夫と言って指示を出す。先生の言葉にユウカはハッとなり動く
「…すまない」
ウタハも離れる前に謝罪を口にするがその声は銃声と爆発音に紛れて聞こえなかった
戦闘は二班に別れて左右から攻撃を加える。15号は先生達と一緒に物陰に隠れる。15号は不満そうだが、今回のような事態では動けないため仕方ない。
どれくらい経っただろうか。少しずつアリスを剥いでいくも未だ崩れる隙を見せない。皆に疲労が見え始めたその時、対象Xの体から大きな手が伸びてきた
「!しまっ」
狙われたのはミカだった。手がミカを押し出しそのまま勢いよく壁に叩きつける
「ミカ姉!」
15号が制止の間なく飛び出す。新たに対象Xから生えた手が15号を狙う
「ッ!?」
15号は羽を巧みに使い、手を防ぐが勢いは殺しきれず壁に叩きつけられた。背中に衝撃を感じながらも続く攻撃を羽で防ぐ。しかし、羽の隙間を縫うように手からアリスが生えてきて15号を吸収せんと近づく
「さあ、一緒になりましょう」
他の者がカバーに入ろうとするが再びの一斉射撃で思うように動けない。15号に手が触れる直前
「15号に何してんの」
まるで隕石が降ってきたかのような衝撃が対象Xの腕を破壊する
「ミカ姉…アリスは…」
「大丈夫。私が守るよ」
「…6801号…?」
対象Xは先程の攻撃で壊れたアリスを呆然とした表情で見ていた。そして吠えるような声と共にミカに対してより激しい攻撃をぶつける
「はっ、あたしを前に余所見たぁ随分舐められてるな」
意識をミカに割いた為かネルの接近に気付くのが遅れた
「!」
「今までの行動パターンからコアの位置の見当を会計の奴がつけてくれてんだよ!」
ネルを近づけさせないと銃を生やすが
「遅え!」
相手の攻撃を潜り抜けてネルは銃弾を撃ち込む。すると剥がれたアリスの中から一体のアリスが見える。瞬間、皆が気づく。あれこそが本体の核だと
対象Xは吠えて生やした手を鞭のように振るう。流石のネルも攻撃を避け距離を取った。対象Xは嘲笑うように再び核をアリスで覆おうとする。ミカに、ネルに意識を割いた対象Xは気付かなかった。もう一体近づいている者がいた事に
「…!?1ご」
「射程圏内に入りました。絶対命令権圧縮プログラムを使用します!」
対象X、いや99号は気づく。自分の中で一緒だったアリス達の意識が分離し始めた事に
(そんな、嘘、嫌!せっかく一緒に——)
対象Xが倒れる
「うええ…気持ち悪い…」
「えっ!?背中さすろうか?」
「5号ちゃんは…大丈夫じゃなさそうだね」
「すみません…アスナ先輩」
“お疲れ。1号”
「すみません…体が動きません」
1号のもとへと向かいながら先生は思う。上手くいってよかったと。あとは命令権が効いている間に動きを封じて解析を行うだけだと
対象Xを見る。先生は駆け出した
“1号!”
対象Xが1号を飲み込まんと大きく口を開けた