制服の群れの中へ

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娘ちゃんは一護が好き

「これか…」

 空座町は仮面の軍勢所有のアパート、『コーポ・ヴァイザード』一室にて、平子真子はある装備を手にしていた。


 浦原に用意させた赤いリボン、白い半袖シャツ、灰色のプリーツスカートに黒のハイソックス。ついでにローファ。

 余興に使うのか?……いや、自分達と境遇の似た死神代行、黒崎一護を仲間にする『一護クン勧誘大作戦』の為に準備した空座第一高校女子制服(夏服)一式である。


 何故そのような物を平子が手にしているかと言うと、愛娘・平子撫子の双子の姉と称して空座第一高校に通う為である。しかも一護と撫子と同じクラス。

ついでに席替えでは一護の隣の席になる予定だ。

 どうしてそんな事をするかと言えば遡ること数ヶ月前。

 平子達『仮面の軍勢』の撫で回したくなるくらい可愛い娘、平子撫子が初めての学校生活を送る為浦原商店に下宿し女子高生をエンジョイしている頃。

 撫子とフラグの立っている喧嘩っぱやいオレンジ髪のクラスメイト、黒崎一護がとある理由で死神代行となった。

 一護の持っている虚の力は強大過ぎて、制御を覚えなければ本人も空座町もいつ消えてもおかしくない。なので『仮面の軍勢』の仲間に引き入れて力の使い方を教えてやろう、ついでに可愛い娘の恋路を手助けしてやろうという話が軍勢内で持ち上がった。

 本当は撫子を勧誘係にしようと計画していたが、撫子は朽木ルキアを助けに友人達と尸魂界へ行った先で藍染に攫われてしまい、現世に帰って来ていないのだ。


おのれ藍染。俺達の可愛い娘を攫ったクソ野郎。何かいい感じにさっぱり死ねると思うなよ。軍勢の殺意はMAXである。


 そんなわけで、撫子の母である平子が空座第一高校に転校生として通う事になったのだ。


「誰もおらへんな……」

 全員出払っているので、答えは帰ってこない。

 しんと静まり返った部屋の中、平子はふむ、と腕を組む。自分がすべき事はこの制服に袖を通し、浦原の寸法が正しいか確認する事である。わかっているが躊躇してしまう。

「…うし、行くぞ、着るぞ」

 一人呟き、部屋の鍵とカーテンを閉めて自分の着ている服をまず脱ぎ始める。

 するすると服を脱ぎ、一呼吸置いて制服を身に纏う。着替えにそう時間は掛からなかった。

 鏡を見ると、そこには当然の事ながら空座第一高校の制服を着た平子真子が映っている。

 うむ、と平子は頷く。なかなか悪くはない。ただし、問題があった……それは、


「やっぱり……スカートちょっと、短すぎへんかァ…?これ」


 スカートの丈である。

 ほっそりとした平子の太腿はほとんど見えているではないか。

 着てみただけでも分かるが、鏡に映してみると余計に理解できる。普段ズボンを好んで履いている分、夏だというのに股を抜ける空気がやけに冷たく感じる。

 平子はスカートの裾をちょんと指でつまみ、軽く持ち上げてみた。

 するとどうだ、下着が見えてしまうではないか。


 あかんあかん、と平子は鏡に背を向け、めくったスカートを下ろす。

えらいこっちゃ。


 なにせ死神は空で闘う事もある。これでは丸見えではないか。大問題である。


仮に藍染と対峙し、奴に始解を仕掛け

「ようこそ 逆様の世界へ」

でスカートがめくれ、下着が見えたのでは話にならない。無いとは思うが、己の斬魄刀が"シンジが困るから"という理由でその一瞬だけそよ風の悪戯を行う可能性を捨てきれない。

…平子の仲間にはスカートの中が見える事なんてお構いなしにセーラー服で闘う矢胴丸リサがいるが、元々死覇装を改造してミニスカート仕様にしていたリサが特別なのだ。


「やっぱ見た目どんなに若くてもオカンが制服着て学校行くとか、キツイやろ…でも一護は勧誘せなアカンし……」


 世の女子高生は何故、こんな短いスカートで街を歩いているのか。いつもの飄々とした形を潜めて唸る推定3××才、最近少し肌の張りが落ちている気がする経産婦。何故自分が勧誘係に選ばれてしまったのか。単純にくじ引きで大当たりを引いたからだが。解せぬ。

 鏡の前で顎に手を当てて悩む事数分。

 しかしいくら考えたところで、平子が導き出す答えは一つであった。


「……まァ、気にし過ぎたらアカン」

 平子はスカートを翻して見せた。

 見えようが気にしなければノープロブレム。本人の心意気。平子自身が格好を直視せねば良いだけの話。

 ちゃっちゃっと一護を仲間にし早目に学校生活を終わらせれば良い。よし、と頷き平子は制服を脱ぐ。


「あー……撫子、今何しとるんやろか……」

 イかれた実父に誘拐された愛娘を思う。

 いまはただ、撫子のいる日常に帰りたい。母親の切なる願いは、ただその一点である。


 ちなみに、平子真子と101年ぶりに対峙した藍染惣右介は膨らみに乏しい胸、発達していない小ぶりな尻、心許ないミニスカートを纏った太腿を見て、「私の心を弄ぶのは楽しいか」と呟いたが、それに気付いたのは幸か不幸か東仙だけであった。

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