初恋、慕情
※閲覧注意
※【ここだけゾロがルナーリア族】のスレより
※ゾローリアの更にIFネタ
※ファンタジスタした幼少ゾロがキングに拾われ百獣海賊団所属√
※幼少ゾロはくいなと約束する前
※時系列はゾロ18歳頃、モブちゃんは16歳くらいです
※CPはゾロひよ
※IFネタの派生⇒百獣√
※キャラエミュが微妙、マジで微妙
※文才なしの駄文
※捏造設定あり
※それでも良い方のみ、お読み下さい
初恋というものをした。多分覚えてももらえない、触れることもできないその人にアタシは恋をしてしまった。
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ワノ国、アタシが生まれて多分死ぬまでずっといる国の名前。そんな国でアタシは特に凄い何かを持っているわけでもないただの町娘だ。ワノ国の中心、花の都という場所で生まれ、父さんと二人で暮らしている。父親のやっている食事処を手伝って、その内店を継いだり、町の男と結婚したりするんだろうと思っていた。オロチ将軍に目を付けられないよう生きていければそれでいいと思っていた。…あの日までは。
初めてその人を見たのはウチの店でのことだった。
「ちょっと!止めてください!」
「あぁ⁈俺は百獣ギフターズだぞぉ!!」
「ギャハハハ!もっと酒もってこぉい!!」
家の料亭は今ピンチになっていた。百獣の海賊さん達が酔って暴れているのだ。他のお客さんが皆逃げ、家の皿が割れるが止めようもない。父さんも怪我をして倒れている。どうしようと途方に暮れかけた瞬間”その人”はやって来た。
「おい、なにやってる」
薄いベールを顔にかけ黒い翼を背負った男の人だった。その声は若くてアタシより少し上くらいだった。その人が自分より背の高い暴れている海賊さん達に声をかけた。
「ひっ…ワイルド様…」
「見られて胸を張れねぇことしてんじゃねぇよ…百獣の名前でカタギに無闇に手ぇ出すのはウチに泥塗る行為だってことを分かってんのか?」
翼の男の人、ワイルド様と呼ばれた人が声をかけた瞬間暴れていた海賊さん達が顔を青くして大人しくなる。どうやらこの人も百獣海賊団の人らしいが、海賊だというのに一般人に迷惑をかけることをよしとしていないみたいだ。
ワイルド様が暴れていた人たちを連れて店を出るときにアタシに声をかけてきた。
「おい、あんた」
「はっ、はいぃ!」
「何もしねぇからそんな硬くならなくていい。ウチの馬鹿共が悪かったな、詫びだ」
明らかに百獣海賊団の中でも上の方にいるのだろう強そうな人に声をかけられてアタシの声はうわずった。そんなアタシにワイルド様が詫びと言って渡してきた袋には、店を直してもまだ余るようなお金が入っていた。
「え⁈そんなっ…こんなお金…!」
「補償だけじゃなくて詫びも兼ねてる、大人しく取っといてくれ」
慌ててあまりにも多いですと言おうとするがあっさりとかわされてしまう。ワイルド様はそのまま壊れた入り口を通って店を出て行ってしまった。
このときはまだ海賊の中にもいい人はいるんだな位にしか思っていなかった。
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2回目は町中でのことだった。
オロチ将軍が討たれて、百獣の人がこの国の将軍になるという話で町は持ちきりだった。アタシはその頃は生まれてないけど、元々この国の将軍だった光月家が黒炭家と百獣に殺されてこの国が彼らに支配されるようになったと父さんから聞いた。海賊の中に”あの人”みたいないい人がいるとしても、やっぱり海賊という人たちのことは怖くて、この国は一体どうなってしまうんだろうかと父さんと一緒に心配していた。オロチ将軍の時はなんとか目を付けられず上手く店をやれていたけど、海賊が将軍になったら今よりもっと取り立てが厳しくなったりするかもしれない、そうなったら都から出ていくことも考えないといけない。
数日後、町にやって来た新しくワノ国将軍の座につく海賊さんを見てアタシは驚いた。侍さん達を引き連れて歩いてくるその人は周りの人が邪魔で、ちょっとしか見えなかったけど誰かはすぐに分かった。
あの日ウチの店にきたワイルド様だ!ベールを付けてなくて顔が見えているけど、黒い翼は見間違えようもない。新しく将軍になる海賊さんがあのワイルドさんだと知ってアタシは安心していた。町の皆も想像していたよりずっと将軍らしい威厳があって礼儀正しいワイルド様を見て、少なくともオロチ将軍の時よりは良さそうだと胸をなで下ろしていた。
ワイルド様が将軍になってから色々と凄いことが起きた。
まず国で海賊さん達が暴れたりひどいことをしなくなった。百獣海賊団でも上の方にいるワイルド様がこの国の一番上に立ったおかげで、ワノ国での海賊の無法が禁じられて、治安も良くなった。以前ウチの店で海賊さんが暴れたみたいなことがなくなり、安心して商売ができるようになって助かっている。
他にも父さんが話していたアタシが生まれる前の”光月家の変”。その時に死んだと思われていた人たちが生きていたという知らせもワノ国に衝撃を与えていた。光月家のお姫様や光月家に仕えていた侍さんが生きていたことを父さんやお客のおじさん達は嬉しそうに話していた。
ワイルド様がワノ国を治めるようになってから、百獣の海賊さん達がワノ国に普通に出入りするようになった。前みたいに暴れたりしないでちゃんとお客さんになってくれるおかげでウチの店の売り上げも上がったし、むしろ犯罪があると海賊さん達も解決に協力してくれるようになった。おまけにオロチ将軍の時みたいにたっかい税を納める必要もなくなったので凄く助かっている。ワイルド様が将軍になってくれて良かったねと友達とお茶をしながら話す。ワイルド様がワノ国でベールを付けずに顔を出すようになったことについて、友達は「すごいイケメン。目の保養になる」とか言ってた。確かにそうだけどそれ不敬にならないかな…。
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そして3度目にワイルド様を見たときにはあの人もいた。ワイルド様の隣にいた花の都で人気の花魁、小紫だった人。ウチのお客さんの中にも話してる人がいるワノ国でも有名な人。”光月家の変”で死んだと思われていた光月家のお姫様。ワイルド様と結婚するらしくて二人で楽しそうに何か話しているのを遠くから見た。
二人はまるで一枚の絵みたいだった。アタシの足はそこで止まった。
別に話しかけるのが怖かったとか、結婚するのがうらやましいとかそんなわけことを思ったじゃないけど、二人の間にある雰囲気があまりにも完成されていて、他人が近くにいるのさえ無粋に思えて声をかけられなかった。あの日言えなかったお礼を言いたかったのにあたしはそのまま帰ってしまった。
家に帰ってから二人の互いのことしか見えてないみたいなあの雰囲気を思い出して、好きな人と結婚できるとあんな風になるのかなぁなんて考えていた。アタシも父さんに「お前はいい人はいないのか」なんて聞かれることはあるけど町の同じくらいの歳の男にいいなと思う人は別にいない。アタシは守ってくれるような強い人がタイプなのに周りにそんな人がいないのが悪い。まぁワイルド様みたいな強い人なんて町にいるわけもないから考えたって仕方がない。
「恋したいなぁ~……」
自室で転がりながら口に出す。友達の中にはもう婚約者を作った子がいたりするけど、16年浮いた話のなかったアタシには難しいのかなと考えてテンションが下がる。
「おーい、仕込み手伝ってくれー」「はーい、今行くー」
店の準備を手伝ってくれと呼ぶ父さんの声が聞こえて仕事しなきゃと調理場に向かう。いつもと変わらない日常だ。
その日常は夜にはいきなり崩れ去ることになるなんてこのときは思ってもみなかった。
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今アタシは炎に囲まれている。何でこうなった?その疑問に答えてくれる人はいない。でも思わずにはいられない。
「おい!逃げろぉ!!」「うわぁぁっぁぁああぁぁ!!」「ウチの娘はどこだぁ⁈」「駄目だぁ!こっちの道も通れねぇ!!」「侍はまだあいつをどうにかできねぇのか⁈」
「助けてくれぇ!!」「誰だあれを呼んだのはぁ⁈」「中にまだ金がぁ!あれがねぇとっ!」「やばい!あいつが来たぁっ!!」「うわぁぁぁ~ん!お母さ~ん!!」
ワノ国に警報の鐘と皆の悲鳴が鳴り響く。いつもだったらウチの店にもお客さんが増えていく時間帯なのに、今の町は緊急事態になってしまっている。後で聞いた話では誰かが都の外にいたでっかい化け物を呼び込んでしまったことが原因らしい。暴れ回るその化け物のせいで都の至る所で火の手が上がり、ウチの店も焼け落ちてしまった。必死に消火したり、避難したりする人達が行き交う阿鼻叫喚のなかアタシは近所のちび達を連れて逃げていた。
「やばい…こっちの道も塞がれてる!」「おねーちゃん熱い…」「まだ…?」「ごめん!ちょっと我慢して!もうすぐだから!」
近所の兄妹と一緒に燃える町を駆け、避難所を目指すけれど壊れた建物や火事で道が途絶えていて何度も遠回りを強いられる。すぐ近くで家が燃えているせいでその熱が伝わって肌が焼ける。まだ逃げれないかという抱えた妹に自分でも本当に避難所に着けるか分からないのにもうすぐだから我慢してと叫びながら兄の方の手を引いて走る。
「グルルルルル………」
悪いことがたたみかけてくるというかアタシの運が悪いというか、完全にあたし達は追い詰められていた。燃える家を踏み潰しながら現れたのは、都を破壊した化け物だった。でかいトカゲみたいなそいつは乱杭歯に誰かの着物を引っかけながら、餌を見る目であたし達を睥睨してくる。炎に追い立てられながら逃げてきたところに化け物が現れたのでもう逃げ場もない。
「あー、やっばい…どうしよ…」「おねーちゃん…」
ちび二人がアタシの袖と裾を握ってくる。どうにかしてちび二人だけでも助けられないかと考えるけど周りは火の海、目の前には人食いの化け物、そう都合良く何か手が思いついたりはしなかった。
「グァ…」「あ…」「ひっ…」
そうこうしてるうちについに化け物がアタシ達を食べることに決めたのか、口を開け覆い被さろうとしてくる。生暖かくて血のにおいのする化け物の息に、ちび達は小さく悲鳴を漏らし抱きついてくる。化け物の口の中には鋭い歯が並んでいて、奥にはぽっかりと闇が広がっていてアタシは(あ、死んだ…)と思いながらぎゅっと目をつぶる。
誰か助けてと内心思いながら死の瞬間をじっとまっていても、その瞬間は来なかった。
恐る恐る目を開けたアタシの目の前にはあの人がいた。
「大丈夫か?危なかったな」
「え…」
ええぇぇぇぇえぇぇぇぇぇ!!と叫びそうになる。さっきまで絶望しか感じなかった化け物の首があっけなく落ちていて、息一つ乱さず立っている炎を纏った男性がアタシの目の前に立っていた。
「ワイルド様⁈」「しょーぐんさま!」
「安心しろ、鎮火と救助にウチの部下達と同僚も協力してる。今、道作るから待ってろ」
自身も燃えているのに周りを覆う炎と違って熱いじゃなくて、温かいという感じの炎に包まれたワイルド様は刀の一振りで火事の炎を打ち消し通れる道を作る。道の向こうは燃えていない通りに出ていて、他の避難していた人たちの姿が見えた。
「おいクイーン様の水鉄砲まだあるか⁈」「ある分は北通りに回してる!なけりゃ救助に回れぇ!」「ムハハハ!さすがおれ様の発明品!!」「さっさと火ぃ止めるぞぉ!!」
「避難所で大人しくしてろ、朝にゃ終わる」
「はっ、はい!」
安心させるようにちび達に笑いかけすぐどこかへ飛び去ってしまったワイルド様。
この後、避難所になっていたお城で父さんや兄妹の両親と落ち合い夜を越した。
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「あ~あ~こりゃ立て直さねえとなぁ…」「九里と兎丼から資材買ってこい!」「さっさと元に戻すぞぉー!!」
夜が明け、都は復興に向けて動き出していた。焼けてしまった店を片付けながら、アタシは悶々としていた。
昨晩、寝れない中ずっとある人のことが頭から離れなかったのだ。死を覚悟したのにあっさりと救われ混乱していたからなのか目を開けたときに見たあの人の姿が、ちび達に見せた笑顔がちらついたまま一晩中ぐるぐると思考がまとまらなかった。
「それ恋じゃない?」
「は?」
休憩中飲み物を持ってきてくれた友達と昨日ワイルド様に助けてもらった話をしていると唐突に友達がぶっ込んできた。あまりにも突然にとんでもないことを言われ何言ってんのあんたという胡乱な目を友達に向ける。
「いやあんたの語り口がなんか恋する乙女くさいし、よく考えれば将軍様ってあんたの好みど真ん中なのよね…あんたも難儀ね。大変だわ」
「いやないから、あり得ないから!何勝手に納得してんの⁈」
「二回も否定するのがホントっぽいし」
「だって将軍様だよ?アタシただの町娘よ?どう考えてもあり得ないでしょ⁈」
「恋なんて勝手に落ちるもんじゃない」
「だからって流石にワイルド様はないでしょ…」
「………」
「その目やめて!」
友達からは最後までホントにあんた落ちてないわよね?という目を向けられてしまった。
友達と別れてから自分が本当に恋してないか考えてみる。
「…あ、これ駄目だわ」
そして気づいてしまう。
確かにアタシは恋をしたいと言った。でも流石にコレは予想外だった。どれだけでも詳細にワイルド様の姿が、声が思い出せてしまう。
「完全にアタシ恋しちゃってんじゃん!」
気づいたらもう駄目だった。昨日助けてもらった瞬間にアタシは落ちてしまっていたことに気づいて愕然とする。友達はマジで正しかったみたいだ。
でも気づいてしまうと苦しくなる。アタシが恋した人は将軍で雲の上の人だしおまけにもう結婚している。あの日和様と一緒にいたときの光景を思い出し自分が最初から可能性なんてなかったんだと胸が締め付けられる。
「駄目じゃん…これ…」
でも考えてしまう。あの人と話せるようになる未来を、あの人の笑顔を向けてもらえることを。
始まった瞬間終わってしまったこの初恋はもうしばらく痛いままだ。