初めての誕生日パーティー

初めての誕生日パーティー



両親殺し後 二人はなぜか街に住んでます



今日はそういえばおれの誕生日だった。

それを思い出させたのは壁に掛けられたカレンダーに書かれた"happy birthday クロ!!!"だ。どうやらぐっすり寝ていたようで時計は兄の仕事先もそろそろ終わるぐらいの時間をさしている。ベッドから身を起こし寝室を出てリビングに向かいうとテーブルに置かれていたメモを見つけた。

            クロ

𝓗𝓪𝓹𝓹𝔂 𝓑𝓲𝓻𝓽𝓱𝓭𝓪𝔂 𝓒𝓻𝓸 乞うご期待!!!


念のために裏返してみるとそこには、誕生日を祝うイベントは世界各地にあること、生まれたことは祝われるべきであるとのこと、今住んでいるここではケーキとご馳走プレゼントで祝うこと、何か欲しいのは⋯食べたいetc⋯とビッシリ書かれている。最後の"今日は私の帰ってくるのを大人しく待て"まで読み終わるのに30分かかった。大事なことは先に書け。

⋯兄の考えてることはいつもわからない。"乞うご期待!!!"の文字だけ筆で書かれた招待状に胸が高鳴る自分もよくわからなかった。



(どうして今日なのかなぁ⋯)

クロコダイルの兄ことサー・キャメルは思案に暮れていた。両手で抱えている紙箱を持つ手に力が少し篭る。目の前にはどこかで見た気がする男が5人、あ、増えた7人。

目線から見てこちらに良い感情は持っていないことはわかる。事情を訊ねたら怒鳴られた。多分力付くで行くしかない、やめてほしいが。

今日は弟の10才の誕生日だ。私達二人は誕生日を祝われたことはない。「「そんなもの知らなくて良い、どうせお前には必要のないことだ」」とあの人たちなら言うのだろう。しかし私は祝いたいのだ。

今日のご馳走のためにいつもの仕立て屋での手伝いに加えて酒場での用心棒も期間限定でした。用心棒は良いぞ、返り討ちにするだけで金が貰えるし運が良ければ酔っ払いが命乞いしながらボーナスをくれる。

そうだ早く特注のケーキと新鮮なトマトと普段は食べられないワニ肉をクロに届けないとと眼前の敵に意識を戻す

「手を使えないタイミングで襲って来たことは誉めよう。私も多分そうしただろう。」

「だがね、まだ口も足もあるんだ。」

手は出さないさ、手は


⋯兄を待ちながらテーブルを磨いていると通りがザワつきだした。好奇心に駆られ窓を開けたおれに血の匂い兄の声が届いた。「⋯アニキィ!?」こちらに気づいた血に塗れた兄が、真っ白なままの紙箱を地面に置いてこちらに手を振る。

窓から思わず飛び出したおれを手で受け止めた兄に「泣くな泣くな、返り血だこれは」と言われ自分が泣いていたことに気付く。背中に背負った肉屋の袋と青果店をおろしながら、自分も被っている妙ちきりんな帽子を俺にも被せた。

「ハッピーバースデーだクロ!!」

そう言って兄は満面の笑みで地面に置いた紙箱を開け⋯固まった。そこには大きなケーキだったであろうものがあった。チョコで作られたワニ型の板にプレートに𝓗𝓪 ⋯⋯𝔂 ⋯⋯𝓻⋯𝓱𝓭⋯𝔂 𝓒⋯𝓸 と書いてあるように見える。ケーキは派手に潰れて中からは沢山のフルーツが出て来てしまっている。

「あれ⋯⋯⋯クロ⋯本当にごめん。ケーキは崩れやすいとはお店でも聞いていた。⋯これは私のせ」絞り出すように喋り出した兄を遮るように、俺はケーキにフォークを立て口に入れた。

「⋯ありがとうアニキ。すげぇうめぇなコレ。ほらアニキも食えよ」ケーキを口に押し込んで、疲れているはずなのに、きっと誰よりも悔しいのは自分なのに、謝り続ける兄の口を塞ぐ。

「泣いてるのはアニキじゃねえか。そんなに美味かったか?」

「う゛⋯゛う゛ま゛い゛よ゛」鼻水まで垂らしながらアニキが言う。

「おれ、こんなに美味いもんたべたのは初めてだよ」心からそう思った。

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