初めての経験
「タップダンス?」
トレーナーからいきなりタップダンスをしてみる気は無いかと聞かれて、思わず聞き返してしまう。話を聞けば、どうやらチームの宣伝PVに使うらしい。……正直私以外に最適な先輩はたくさんいる気がするけど、先輩達は基本引退してるとはいえ呼べば来てくれそうなのに
「イクイノックス、キミガイイッテ」
「ふーん…え?」
どうやら相方が彼であるらしいことと共に、イクイノックスくんがわざわざ相手に私を指名してきたことを聞かされる。そんなの、ちょっと期待しちゃうじゃない。
「えっと……やります」
嬉しいことを聞かされて二つ返事で引き受けてしまう、私が密かに片思いしてる彼と接触できる機会は、実の所あんまり多くない、だからこれはチャンスなのだ。
「……よーし」
……………………
(だからってこんなに近いのは聞いてない!)
近い、想像していたよりも距離が近い。タップダンスって隣で並んで踊るものだと思っていたのに、いや、まぁ実際は私が少しぎこちないからイクイノックスくんが支えつつ動きを教えてくれてるだけなんだけど。
もちろん受けたからにはちゃんとやるつもりだし、完璧な動きにしたい。それでもやっぱり正装した好きな男の子と距離が近くて緊張しない、なんてことはない訳で。「ここはこうするんですよ」と言われる度に心臓がうるさくなった。
「あ、なるほど。足こう動かすのね」
「上手です……その、ドレス、似合ってます」
「あ、ありがとう…」
その後、うるさい心臓を抑えながら何とか撮影を終える。自分の容姿が良い方なのは自覚しているし、中々様になっているのではないだろうか。とカメラの中で踊る自分を見て思う、すると映像の中で水色と赤色が主体のドレスがヒラヒラと動くのを見ていたイクイノックスくんがふと呟いた。
「…アースさんのドレス、僕色なんですね」
「…はぇ!?」
ドキドキしすぎて気付かなかった、そういえばこのドレスは彼の勝負服と似た色合いだ。一気に恥ずかしくなって顔に熱が集まる。
「何だか、僕のアースさんになったみたいで、嬉しいです」
恥ずかしい、顔も真っ赤で、多分今私はすごく間抜けな顔をしているんだろう。
「わ、私更衣室に何か忘れちゃったから取りに戻るね!!!!」
脳がショートを起こしてしまって、私は足早にその場を去った。言われた言葉が頭から離れない。こんなの、恥ずかしくて顔を合わせられっこない
「……アースさんとお近付きになるチャンスだったのになぁ」
1人になった部屋で意中の彼がそんなことを呟いているのはまた別の話。