出逢いの日
父上と母上が亡くなった。流行病だ。悲しかったけれど『りかん』は少し前だったし、なんとなく覚悟はしていたから、いっぱい泣いたけど気持ちが落ち着くのは早かった。
貴族と言っても下級で、小さな家だ。ひと月ほど僕をおいてくれた親戚はあったが、ぼくは吉良家としては異例なほど内在霊圧が高いらしくて、親戚の家の子がぼくとくらべられるのを嫌がるからあくまでも一時預かり。でも瀞霊廷には公認の保護施設があるし、そこに行くことになれば霊力の使い方も教えてもらえるし…とそんなにしんぱいはしていなかった。
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「え、九番隊隊長?」
保護施設に行くと思っていたぼくの引き取り先は、九番隊隊長、六車拳西さんだと聞かされ驚いた。
「どうして?」
「こちらにも詳しい事情は説明されていないが、上の方々の決定だそうだ。」
「うえのかたがた……」
それは両親が生前から時々聞く言葉だった。吉良家は完全に下級貴族だから、上と言われてもたくさんいて誰のことがわからないし、誰であってもどうせ従うことになる。九番隊の隊長さまのところへいくのがいやなわけじゃないけれどめいわくかけないようにしないとな…と思った。
「隊長殿には数ヶ月前から養い子がひとりいる。瀞霊廷で噂になっているが知っているか?」
「……しらない。」
「そうか流石にまだおまえのような幼い子供に知れ渡ってはいないか。まあ、粗相の無いようにな―――。」
「吉良イヅルです。……えっと、ほんじつ、より…?」
「あーー、難しいこと言わなくていいぞ。お前みたいな年齢で難しいこと考えんな。面倒くさい。子供は子供らしくていいんだよ。六車拳西。今日からお前の保護者になる。よろしくな。」
「子供らしくてええのは完全に同意やけどなんやそれ白哉坊への嫌味になっとるでぇ拳西」
「まあ白哉さんは四大貴族ですし、またちょっと違うような気が…」
「夜一の幼馴染なお前がそれ言うかぁ?喜助」
「おいテメェら、子供置き去りで話してんじゃねぇよ」
悪いな、後ろは気にすんな、とポンと頭を撫でてくれた拳西さんが優しい人なのは解って、ホッと躰の力が抜けた
「コイツらは俺と特に親しかったり、俺と同じように子供育ててたりする連中だ。一応全員隊長な。」
「知って、ます。隊長たちのことも、保護されてる子供のことも。」
平子隊長が後見を務める子供達は驚くほど優秀だとか、浦原隊長が育ててる子供は将来技術開発局で浦原隊長の右腕になるかもしれないだとかは流石にもう知らない人はいない。
「そうか。じゃあまあその子供達本人はまた今度紹介するとして……。」
修兵、と拳西さんが視線を落とすと拳西さんにしがみつくように小さな男の子が居た。
「他の子供は後日でいいが、こいつだけはな。修兵、あいさつ、できるか?」
「…………っ」
「大丈夫だぞ、お前に怖いことするような奴と、俺は一緒に暮さないから。この子は大丈夫だ、修兵」
「……っ」
「…怖いな。解った。怒ってないから泣くな」
拳西さんはそう言ってその子を抱き上げ背を撫でた。
小さい子だから挨拶ができなくてもしかたないよね、ぼくより2歳くらい下かな?
瀞霊廷の住人は見た目と生きてきた年数は必ずしも同じではないけれどそれが適用されるのはある程度霊圧が強くなってからで、ぼくたちのようにほんとうに『子供』のうちは少なくとも、見た目通りの年齢順だ。
「ごめんな。この子は檜佐木修兵。俺が数ヶ月前から育ててる。流魂街の出身だがお前の兄になるから、よろしくな…」
「え…?兄…?だってこの子…ぼくより小さいのに…?」
ぼくは浮かんだ疑問をそのまま口にしてしまったがその瞬間、抱かれている男の子の肩がびくっと跳ねた。
「ふっ、ふぇ、ふえぇぇぇん…、けんせ、けんせぇ…」
「イヅルくんは、」
と拳西さんではない声が入ってきた。
「修兵くんを怒ったわけでも馬鹿にしたわけでもないよね。修兵くんが思ってたより小さかったからびっくりしたんだよね?」
蜂蜜色の長い髪。
三番隊の鳳橋隊長だ。
「あ、はい。えっと、こんな細い子、見たことなくって…」
「ほら、そういうことらしいよ、拳西、修兵くん。」
「そうだな。俺の説明が足りなかったな。イヅル、修兵は今まで流魂街で大変だったから、今はまだ元気になってる途中なんだ、解るよな?」
「……」
正直、すぐには解らなかった。
流魂街ってそんなに大変なところなのかな?
「修兵はまだ慣れない相手に自分から話しかけるの苦手だから、イヅルの方から挨拶してやってくれるか?」
拳西さんが修兵くん?を抱いた状態で膝を曲げぼくたちの目線が合うようにしてくれた。
ギュッと小さな手で拳西さんの着物を握りしめながらチラチラとこっちを見てる瞳は潤んでいて頼りない
「ぼくは吉良イヅル。これから君と同じで拳西さんのところで暮らすんだよ、よろしくね」
「……」
「修、大丈夫だ。俺が抱いてるだろ?」
「…ん。……ひさぎ、しゅうへい。……んと、えっと、しゅうね……っ」
「ああ、沢山話さなくていいぞ。ちゃんと名前言えて偉かったな。」
「うん…」
困惑して周囲を見ると皆、優しい目で苦笑していた。
こんな子は見たことない
弟も妹も居なかったからどうしたらいいのか分からない。でも…
「大丈夫、拳西はいい奴だし、修兵くんもとってもいい子だよ。すぐにわかるよ」
傍に来ていた鳳橋隊長が、ぼくの肩に両手を乗せてそう言った―――。