出張湯けむり補習授業

出張湯けむり補習授業



「はーい♡みなさん準備はいいですか?そろそろ出発ですよー!」

バスガイドのような姿のハナコが温泉マークの旗を振って呼びかける

車両の横に集まっているのはホシノ、ヒナ…そしてRABBIT小隊の三人

「はい、集まってますね♡それではミヤコちゃん、運転お願いします」

「「「お願いしまーす」」」

ハナコの隣に立つ…というよりハナコの方が隣に寄ってきたのだが…とにかく隣に立つミヤコに頭を下げ、ツアーの参加者もそれに倣った


(帰りたい……)

「…行き先はスパリゾートアビドスでしたね?はぁ…まさか小隊の皆も連れて行くなんて…!」

突如トップの三人がミヤコに命じた"行楽イベントの運転手"という任務

まあ気は乗らないがいきなりよくわからない命令を受けるのは良くあることだ、まだまとも寄りの内容だと思っていたのに…


スパリゾートアビドス

ゲヘナから200人以上も纏めてアビドスに転校した温泉開発部が開発、運営する温泉施設

温泉開発部当人達をはじめとした重度砂糖中毒者に人気の"砂糖水の温泉"である

…彼女達は行きたがるだろうが、アビドスでは数少ない素面の生徒であるミヤコには地獄といっても差し支えない場所だった


「それではホシノさんとRABBIT小隊の皆さんは後ろに乗ってください、私とヒナさんは前の助手席に乗るので…」

観光バスと言うにはいささか物々しい雰囲気の車両の後部に次々と乗り込んでいくホシノ達

ミヤコも運転席に座り、二つのシートが連結した助手席にもヒナとハナコが乗り込んだ

「では出発しまーす♡乗客の皆様はシートベルトを締めてください♡」

鋼鉄の壁で区切られた後部にも連絡するためにマイクに向かってハナコが呼びかける…


車両が砂上の道路を走り出してしばらく経った頃、ミヤコが疑問を口にした

「そういえばハナコ様、なぜ護送車なんですか?後ろの方達は乗ってても楽しくないと思うのですが…(楽しまれても嫌だけど、正直ちょっと運転しづらいし…)」

「ああ、それはですね…私たち以外の人を護送しているからですよ♡」

…正直、予想はしていた

また詳細も知らせずにこういうことを手伝わせようというのだ

…もう、それにも少し慣れてしまったが

「そうですか…しかしホシノ様たちに私たちまで駆り出すとは、ずいぶん警戒していますね」


「まあ…彼女達はそこそこ手強かったから、万が一脱走されたりしたら再制圧は面倒くさいし…」

今までうとうととハナコにもたれかかって船を漕いでいたヒナが口を出す

そう…今回"彼女達"を捉えたのは偶然アビドス外の製品流通拠点を視察していた空崎ヒナだった

大規模侵攻に備えての資金源兼橋頭堡の奪取…ラスボス級の相手と当たるには早過ぎる、あまりに運の無い展開

「まあ攻め込まれても面倒くさいし、こうして休暇の口実にもなったから感謝してるわ…彼女達"FOX小隊"にはね」


「──────────は?」

俄かに運転が乱れ、車体がガタンと揺れた

「あら、運転には集中してくださいね?事故が起きたら皆が困りますから」

ミヤコはハンドルを握り直し、乱れかけた息をなんとか整えて運転を続ける…

そうしてしばらく車を走らせた後、彼女は再び口を開いた

「……ホシノ様と…あの子達がFOX小隊の先輩方の見張りをしているんですか」

「はい、そうですよ?…ああ、貴女達にとっては彼女達は先輩でしたね♡会いたかったですか?」

ハナコの問いにミヤコはまた押し黙る


こんな姿を…砂糖に狂うこともなく、仲間を止めることもできず、恐怖に縛られてアビドスに与している姿を見られたくない

どうしてもそれは嫌、なのに

おそらくこの後過酷な再教育を受け、正常な認識で会うことはをできなくなってしまうであろう先輩達のことを思うと…会うことを嫌がるのと同じくらい、その前に会っておきたいという気持ちが湧き上がっていた

…正気の人間と最後に話したのはいつだっただろう

わたしは浅ましくも今の醜悪な自分をRABBIT1として責めてくれる相手を求めているのかもしれない……


「…ひどい顔色よ、気分が悪いなら運転変わる?」

「…いえ…もうすぐ着きますから大丈夫です、申し訳ありません」

クスリを飲んだ訳でも無いのにどこか現実感の欠けた意識のまま車輌を転がし、砂漠の中でも遠目からわかる湯気をあげる温泉に到着した

「アビドススパリゾートに到着いたしました、乗客の皆さんはご降車の準備をお願いします…♡さて…ミヤコちゃんも会いたそうにしていましたから、感動の再会といきましょうか♡」

車を降りたハナコが車輌後部のドアを開く

「うへ〜運転おつかれ〜」と気の抜けた声を出しながらホシノ降りてくる


それに続いて、遂に彼女達が姿を現した

「……久しぶりだな、月雪ミヤコ隊長」

「…ユキノ、先輩…!」

思わずふらついた体をヒナに支えられたミヤコ

その呆然としたような、内心の複雑さが表れた表情を見てユキノは確信する

「やはり…ミヤコ、あなたは砂糖を使っていないんだな」

「それは…!はい…」

「…弁明はいい、車内で事情は聞かされた」

そう言いながら意識を向けたのは今もFOX小隊の面々を後ろから監視している三人


ミヤコはスカートの裾を握り締めたまま俯き、静かに涙を流し始めた

ユキノも同じように俯き、お互いにかけるべき言葉を失った2人の間には重苦しい沈黙が訪れる…

「…なんだか話が進まなそうですね…心配いりませんよ♡数時間後にはお喋りも楽しく盛り上がるようになっていますから♡」

その沈黙を真横からぶち破り、ハナコが旅館風の建物を旗で指し示した

「うへ〜、続きは温泉を楽しんでからにしようか」

「そうね、楽しみだわ…」


ヒナとホシノが歩き出したのに合わせ、RABBIT小隊の三人もFOX小隊に歩くように促す

「くひひ、ここの温泉はすごくヤバいよ…」

「もう楽しみでたまらないな!HPは確認したか?新しくロウリュウサウナができたらしいぞ」

「あ…サウナの後に、塩分補給したら…ミサイル並にぶっ飛んじゃいますね……」

「それいいねー!」

……以前のような統率がまるでない

それでいて会話中も一人一人油断なくFOX小隊の背に銃口を向けたまま動いており、個人主義の獣が群れたような奇妙な噛み合いを見せていた


「ああ、ミヤコさんも付いてきてください、貴女は風呂場に入る前にこれを着てくださいね?」

去っていくFOX小隊を見送ることしかできないと思っていたミヤコに、ハナコが雨合羽とガスマスクのようなものを押し付ける

「はい…?えっと、私も付いて行くのですか?例の風呂に入れと?」

「いいえ、どちらかというと入浴介助でしょうか…♡」

私に…よりにもよってFOX小隊を壊すのを手伝えというのか

「湯船で"補習授業"を行うのは初めてのことですので、私たちだけでは万が一の事故が起きる可能性もありますから…♡正気の貴女が最後の命綱という訳です、手伝っていただけますよね?」

拒否権は、無い

幸運なことに、そして同時に最悪なことに…彼女達は人を壊し、狂わせることはしても、殺人にまで発展することは慎重に避けている節がある

「…わかり、ました……」


ミヤコは装備を受け取り、ハナコの後ろからヨロヨロと建物に入っていった


「ようこそ!スパリゾートアビドスへ!」

「やうお〜?」

ガラス戸を引いて玄関に入るとすぐさま歓迎の声がかかる

一行を出迎えたのは温泉開発部の部長である鬼怒川カスミ…そして、重度の砂糖中毒により言語能力を失い、更には思考力も怪しくなってしまった彼女に代わり実質的にスパリゾートアビドスの運営を行っている下倉メグだ

「ホシノ様達は本日はご宿泊だよね?部屋はもう用意してあるけど、先にお風呂に行くなら荷物は運んでおくよ!」

「どうする?ハナコちゃん」

「…先にお風呂を済ませた方が安全ですね♡荷物は武器だけお任せします♡」

ハナコは一行の武器をメグ達に預け、FOX小隊を繋ぐ鎖にホースを添えて歩き始めた


「えぇあう!」

「久しぶりね、カスミ。調子は…相変わらずかしら、大体健康そうでよかったわ」

風呂に向かう道すがら、ヒナがじゃれつくカスミとにこやかに会話?しているのを見てFOX小隊の面々に緊張が走る

最悪の場合、私たちもああなる可能性があるのかと…

「心配しないでください、貴女達には彼女達(RABBIT小隊)と同じように私たちの戦力になっていただきたいので…作戦を理解、遂行できる程度に正気は残るはずですよ♡」

誰かの喉から僅かに空気の漏れる音がした


「うへ〜、いつ来ても良い気分になれるね〜」

「すぅー…はぁ…くひひ、肺いっぱいに砂糖の混じった湯気が入ってくる感覚…!最っ高…!」

一行が足を踏み入れた大浴場には、立っているだけでクラクラしてくるような甘い香りの湯気が立ち込めている

そんな中…

「…せめてバスタオル巻くとか…捕虜に対しての配慮ってものがないの⁉︎」

飾りでお互いに繋がれたまま衣服を剥ぎ取られ、羞恥に顔を赤らめたクルミが抗議した


ハナコがヒナやサキに鎖を引かれて浴場に入ってくるFOX小隊の方に振り返り反論をぶつける

「え…タオルをお湯に浸けてはいけませんよ?」

「それは…そうなんだけど…」

どうしてこう変なところだけまともなのかなあ、といった表情で言葉を濁すニコを無視してハナコはミヤコに入浴の準備を進めさせる

「まずはシャワーで軽く体を流してあげてください♡それから……」

普段の制服の上からビニールの雨合羽とガスマスクを着けたミヤコが指示に従って動く…

その手つき、足取りのおぼつかなさからも彼女の動揺が見てとれた


「準備はよさそうですね…では隊長であるユキノさんからいきましょうか♡使うのは目玉の露天風呂にしましょう♡」

ユキノが1人だけ枷を外され、ヒナとホシノが左右から彼女の腕を掴んで屋外の岩風呂へと引きずっていく

「RABBIT小隊のみなさんは残り三人の監視をお願いしますね?」

「「「えー…」」」

「お願いします、それに一人で長く浸かっているとのぼせてしまいますから…交代にしましょう?」

「まあ、ハナコ様がそこまで言うなら…」

渋々、といった様子でサキが了承したのを確認し…


(これはまずい、絶対に…入ったら引き返せなくなる!)

湯船に近づいてはっきりとわかった、この温泉の効能の過激さ

キマり始めた砂糖の興奮作用で僅かに向上した身体能力を活かし、極楽の窯の際で粘ろうとするユキノに

「えい♡」

「なっ…⁉︎」

ハナコは後ろから飛びついた

そのままズルズルと湯の中に引きずり込まれたユキノが悲鳴をあげながら痙攣しているのを三人がかりでぐったりするまで押さえ込む


「小隊長…!?」

「…うあああっ!くそッ!!こんなもの…!」

オトギの悲痛な呼びかけに僅かに正気を取り戻したのか、自我を押し流そうとする快楽に抗うようにユキノが風呂の淵縁に頭を叩きつけ、逃げだそうとする

「ミヤコさん!」

「ッ…!」

「うへ⁉︎頑張りは認めるけど自分の体は大切にした方がいいとおじさん思うなー!」


自傷を止めさせようと駆け寄ったミヤコの目の前でユキノが引きずり戻される

沈む直前の一瞬、ガスマスクのグラス越しに目が合った

「すまない…」

…返す言葉は一つも出なかった

ユキノが虚な笑い声を上げ始めるのを、ミヤコはその場で唯眺めていた


「……風紀的にいいのかしら、あれ…いや地面に寝かせるよりマシなのはわかってるんだけど…」

ヒナの視線の先にはミヤコに用意させた"お風呂用"エアーマットに寝かせられ、朧げな笑みを顔に貼り付け焦点の合わない目で空を眺めるユキノ

「ふぅ…私はそろそろのぼせちゃいそうなので一旦休憩しますね…♡RABBIT小隊のみなさんは…そうですね、次はニコさんとクルミさんにしましょうか♡」

お湯から上がったハナコが外気浴用のチェアに腰掛けて次の犠牲者を指名する

「じ、冗談じゃ…うぐっ⁉︎」

「やったー‼︎もう私たちが待てないから先輩達は面倒をかけないでくれ」

逃げ出そうとしたクルミの剥き出しの腹部にサキが拳を叩き込む

「ま、またお腹ばっかり…!」


蹲ったクルミの長い髪を乱暴に掴んで引きずっていくサキにニコが詰め寄ろうとする…

「あ、あの…勝手に動かれると……」

「困っちゃうなぁー、お互いにさ?」

が、こちらも動く前に拘束されてしまった

「あら…痛そうですね、お湯に浸かればすぐに痛くはなくなりますよ♡」


「いや!離して‼︎お゛っおかしくなるっ!消えちゃ、消えたくない!やだ、やだああぁ……」

「なんれもしますからぁ⁉︎もうゆるしぇっげほッ、え゛ぼっ!ここから…出して…」

「うへ〜この感覚は受け入れた方が楽だよ〜…ハナコちゃん、これいつもより大分強引じゃな〜い?」

二人の抵抗が次第に無意識の痙攣になり、慈悲を懇願する声が意味のない呻き声になっていくのを見ながらホシノが問う

「まあ簡単には堕ちそうにありませんでしたし…特殊部隊であるFOX小隊はホシノさん預かりにしておきたいので、あんまり私に懐くようなやり方をしても意味ないと思うんですよね♡」

「ふ〜ん…うへ〜、ニコちゃんが沈みかけてるからそろそろいいんじゃない?」

ハナコがホースを二人に巻きつけて引き上げる

ユキノの隣に寝かされたクルミは呻きながら時折痙攣を繰り返し、ハナコと入れ違いにチェアに座らされたニコは力なく背もたれに寄りかかって「暑い…暑い…」とうわ言のように呟き続けている


「さて♡最後は貴女です…怖いですか?砂糖は勇気を与えてくれますよ…♡」

三人の様子にすっかり萎縮し、狐耳を垂れて震えるばかりのオトギにハナコが迫る

「嫌…来ないで!来るな!」

長さの余った鎖を引きずりながらも逃げ出そうとするオトギに無情にもホースが絡みつく

「嫌…!やだあああ‼︎助けて!ミヤコちゃん!助けて!ミヤコちゃん‼︎ミy…」

脚、胴、肩、首と次々にホースが絡みつき、湯船に向かって引き込まれながらもオトギはミヤコに向かって腕を伸ばす

遂に口にまでホースが潜り込み、オトギはアビドスサイダーを流し込まれながら湯けむりの中に引き込まれていった…

「ぁ………」

懇願は聞き届けられず…ミヤコの憧れたFOX小隊は全員が壊れてしまった

…いや、ミヤコも壊す側にいたのだ

彼女はその事実をずっと直視し続けていた


「お風呂は気持ちいいですね♡100まで数えて体の芯まで温まりましょうね…♡」

一度ミヤコ含むRABBIT小隊にFOX小隊員たちの体を洗わせた後、"湯冷めしないように"と念入りにもう一度入浴させる…

もはや従順に快楽を受け入れている彼女達からは意味のある返答は返ってこない…


〜〜〜


「んんんんー」

「ぇへあ〜、んうう」

浴衣姿に着替えさせられたユキノが喃語を発しながらカスミにじゃれつき、二人が抱き合ったまま畳の上を転がる

「うふふ…♡あははははは!かーわいいですねぇ〜…♡あ、アビドスサイダー塩追加お願いします、脱水症状は危ないので…」

「はい…」

温泉のスタッフを手伝っていたミヤコがその様子を眺めていたハナコの注文を受け、表情も変えずに厨房の方へ向かっていった


「うへ〜…ハナコちゃん結構酔ってない?体張ってたもんねぇ〜」

「んー、ホシノさんとアビドスのためならお安い御用ですよ♡きっと彼女達は役に立ちます♡」

「……本当に役に立つのかしら、これで」


言葉を失い幼児のような振る舞いをしているユキノ

ふらふらと広間を歩き回り、笑いながら目につく相手に砂糖製品を与えて回っているニコ

意識を取り戻してからこちらずっと泣きながら絶望と自己否定の言葉を喚いているクルミ…ニコに飴玉を口に押し込まれ、先程までのぐずり方が嘘のように興奮してサキに殴りかかったのでヒナに鎮圧された

そして何かにひどく怯えて部屋の隅で膝を抱え震えているオトギ


FOX小隊はどう見ても正気ではない有様であり、まともな任務の遂行が可能な状態とは思えなかった


「…たぶん大丈夫ですよ♡訓練を見てみれば結果もわかるでしょうし…今日はとりあえず楽しみませんか?」

「まあ、それもそうね…万が一駄目でも私が彼女達の分まで働けばいいし」

「うへ〜、1人がやるのは一人分の仕事まででいいよ〜…ん、お酌ありがとね」

ミヤコが運んできた瓶を開け、ホシノのグラスに中身を注ぐ

彼女はそれから何も言わずに広間を回り、飲み物を机に並べていった

一通りの準備が終わり、二つの小隊に加えスパリゾートアビドスのスタッフも席に着いたことを確認したホシノが立ち上がる

「うへ〜FOX小隊の皆の歓迎会も兼ねて宴会をやるよ〜、皆も楽しんでいってね〜」


ミヤコは厨房へと引き返しながら、無感動に彼女達の歓声を聞いていた

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