凪と目が治ったチョキ宮の話
「凪くん、もう朝だから起きて」
優しく揺り起こされて目を開ければ見慣れた天井と柔らかい笑顔を浮かべたユッキーがいた。
「おー…おはよユッキー…」
「おはよう、いつものやらないとね」
そう言うとユッキーは手慣れた様子で俺の腕を持ち上げ指を咥える。傷の付かない、でも痛みは感じる程度の絶妙な力加減で指に歯が立てられる。
「あー痛い…けど目が覚める…」
「それは何よりだ、今日はいい天気だよ」
窓辺に座りカーテンから射し込む光を浴びながら外を眺めるユッキー、俺はごろごろしながらユッキーを眺める。いつもならログボを回収してる頃だけど今はこのままのんびりしてようかな。
◆
いつもより遅めにログボを回収して未だに外を眺めてるユッキーの隣に座る、光合成してるみたいだから俺も光合成しよっと。
「……凪くん」
「どしたのユッキー、玲王から貰った水なら冷蔵庫に入ってるよ」
「そうじゃなくて…凪くんにお礼を言いたいんだ、あの時花屋で売られていた俺を買ってくれてありがとう。凪くんに買われたおかげで心穏やかに過ごせているよ」
「んー、俺は話し相手が欲しかっただけだしそんなお礼言われるほどでも無いと思うけど」
「俺ってそこまで話し相手になれてた?自分で言うのもなんだけど最初の頃はボロボロだったよね」
そう言って笑うユッキーを見て初めて会った時を思い出した、正確には花屋でユッキーを薦められた時だけどそれはもう酷いとしか言いようが無かった。生気のない顔つきに痩せ衰えた身体、それこそすぐにでも枯れてしまいそうな儚さだった。さらにばあやさん曰く目も悪かったらしい、植物に目が良いも悪いも無いと思うけどユッキーの言う通り全部ボロボロ。
それでも目は治してもらえたし今もこうして話し相手になってるし抱き枕にも目覚ましにもなるし……抱き枕、抱き枕といえば。
「確かにボロボロだったけどユッキー最近抱き心地良くなったね、柔らかくなったよ」
最初は痩せてた身体も人並みになってきてる。あ、花なのに人ってのも何だかおかしいから花並みが正しいか、まあユッキーが花並みの身体になったから快適なわけで。
「抱き心地…凪くんや玲王くん以外の人に聞かれたら勘違いされそうだね」
「そうかな?ユッキーは花だから大丈夫だと思うよ」
「それもそっか、俺は花だから勘違いする人もいないか」
もし勘違いされたとしても俺とユッキーの関係で勘違いする方がおかしいからね、きっと玲王もそう言ってくれるだろうしあんまり色々考えるのもめんどくさいし気にしない方向で。
「水持ってくるよ、凪くんの分も持ってくるね」
「おーあんがとユッキー、ユッキーも枯れちゃわないように水たくさん飲もうね」
そうだね、と言いながらユッキーが冷蔵庫に向かう。やっぱ話し相手がいると違うね、人としての生活をしてるみたいに感じる。
あーでもずっと光合成してたら眠くなってきちゃった、俺ももしかしたら花になってきたのかもしれない。
そんな事を考えながらウトウトしていた俺がユッキーに冷えたペットボトルを首筋に当てられて飛び起きるまであと一分
俺が仕返しの為にユッキーのほっぺたにペットボトルを当てるまであと五分
そしてユッキーの抱き心地が良くなったと話して色々誤解を招くまであと……