凪と玲王の日常
イッチ「いい加減にして下さい准特等、せめてクインケは携帯しないと!」
「嫌だめんどくさいついてこないで」
「あっ、ちょっと准特等!?」
ぐちぐちと苦言を呈する部下を早足で置いていく。人混みの中へ紛れてしまえば撒くのは簡単だった。
するすると人の間を縫って進み、いつもの喫茶店へと辿り着く。この隠れ場所はいまだ部下にはバレていない
扉に手を掛け、ふと動きを止める
(玲王、いるのかな)
勝ち気で強引な青年。あの後もメールが届いたが、返事はしていない。
もし見つかったら、多分グイグイ来られるんだろうな
そう思い至り、別の店にしようと踵を返した。
「こら」
「げ」
振り返ったら、背後に腕を組んで仁王立ちしている玲王が居た
「なんで入んねぇんだよ、どこ行くつもりだ」
「······つけてたの?」
「ばぁか、偶々鉢合わせただけだよ」
会えるかもって期待はしてたけどな、と言いながら、玲王は俺の手を引いて喫茶店へと入った。やっぱり強引だ
玲王とは喫茶店で週に三、四日会うようになった。別に会いに行ってる訳ではない、入ったら玲王が居るか、居なくてもダラダラしてれば入店してくる。店員さんにも覚えられたようで、玲王が先に居る日は当たり前のようにその席へと案内される様になった
談笑したりはしない。本を読んでるかキーボードを叩いてるかどちらかの玲王と同じテーブルにつき、スマホでゲームをして、たまに話し掛けられたらそれに短く返す日々。
のんびりとしたその時間が、俺は嫌いではなかった
「そういえば凪って何の仕事してるんだ?身体使う系?」
「まぁ、そうかな」
「やっぱり!あの動きは素人じゃなかったもん。なぁなぁ、教えてくれよ」
「ヤダ」
仕事のことは、玲王には教えないようにした。単純に説明が面倒だったのもあるが、血生臭い仕事と聞いて、玲王が俺にどんな表情を向けるのか見たくなかったのだ
「お前さぁ、いっつもおんなじパーカー着てるよな」
「何着か持ってるから同じじゃないよ」
「同じじゃん!」
出会ってから1ヶ月ほど経ち、玲王に服の事について指摘された。
いちいち選ぶのが面倒だから着ているのだが、それが玲王は気になったらしい
「凪ってパーカー好きなんだな」
「別に好きじゃない、俺ってフードが一番似合うんでしょ」
「はぁ?何だそりゃ」
俺の答えに眉をしかめ、玲王は俺の手を取って立ち上がった
「せっかくカッコいいのにパーカーだけとか勿体ねぇ!お前に似合う服はもっといっぱいあるよ、買い物行こうぜ」
「えー要らない、着ないし」
「買ってやるから!」
そのまま買い物に連れ出された俺は、帰り道で服を山のように抱えて帰ることになった。着ないと文句を言われそうなので決まった服をローテで着るようになったのだが、それによって口うるさい部下が「やっと意識改革をしましたか」と満足気になり、文句を言われることが減ったので、面倒だったがプラマイプラスだろう
服を買いに行ってから、玲王は俺を連れて外を歩くようになった
行く先で歩くのが面倒になれば、玲王は俺をおぶってくれた
俺のやる事にいつだって興味津々で、特別なことは何もしてないのに隣で嬉しそうに笑ってくれた
俺と居るのが楽しいと、優しい声で教えてくれた
連れ回されるし、面倒な事もあるし、その強引さにたまに辟易するけど
玲王の隣は、居心地が良かった
「例のS+レート喰種の次の出現場所、絞り込めましたよ。准特等」
「一人で出来るじゃん、やっぱ俺がいなくても良かったね」
「無責任な···貴方の態度によるツケは俺が払ってたんですよ?」
「ハイハイ、で、どこなの」
「ここと、ここですね。俺達はこっちを抑える予定です」
「分かった、サッサと終わらせよ」
作戦決行日の翌日は、玲王との約束がある日だった。きっとまたあちこち行くのだろうから、しっかり休んで体力を蓄えておかなければ
ぼんやりとそんな事を考える
運命の日まで、あと─────