冒頭推敲例
「クソ、本当になんなんだよテメェは!」
肩で息をしながら、ハードテイストは堪え切れず悪態を吐いた。
人気の途絶えた夜の港である。コンテナが象る奇怪な影の下、一人の少年がコンテナの倒れ伏していた。
幼さを残した容貌に反し、無骨極まりない手甲を嵌めている。おかしな方向に捻じれ紛った首や胴が、彼が晒された暴力の凄惨さを物語っていた。
垂れ流される血小便の量からしても、明らかな致命傷だ。真っ当な生き物であれば身動きはおろか、呼吸も止まって然るべき。しかし――
「あー……ってぇなぁ」
場違いな程呑気な声と共に、少年はゆっくりと立ち上がった。ぎちぎちと不愉快な音を立て、彼の身に刻まれた負傷が見る間に癒えていく。
その悪夢のような光景に、ハードテイストは昔観たゾンビ映画を思い出した。煮ろうが焼こうが何度でも立ち上がり、生者に襲い掛かる恐るべき不死身の怪物。
事実、ハードテイストはこれまで思い付く限りの方法で少年の殺害を試みた。
全身の骨を折った。内臓を潰し、時には引きずり出した。四肢をもいだ。貨物コンテナの下敷きにした。
しかしその全てが無為に終わり、今もまた少年は再び手甲を構えて不敵に笑う。
「待たせたな。じゃ続きをやろうか」
「……化け物が!」
ハードテイストは地を蹴った。次の殺害方法の算段は付けている。今度こそこのゾンビ擬きに引導を渡すのだ。
自身の得物であるトンファーと少年の手甲が激突し、火花を散らす。