再生 参

再生 参


招かれた部屋には格子状の窓と見覚えのある棺。薄暗い光が僅かに差し込み、木目の入った何百年も大事に保管されている棺を照らす。呪力で覆われて守られているそれを背後に、腕を広げて景親は話し始めた。

「他でもない。お前に来てもらったのはその餓者髑髏、其奴を俺に渡せ」

「...餓者髑髏を」

眼光をギラつかせて零士を見るその目は凍てついて鋭い。狂気を感じさせる黒々とした眼は常人のそれではない。力の誇示を欲する目の前の男を見て、零士の足が一歩後退する。

「当たり前だ、何を驚いている?其奴は安土桃山から仕える恐神の怨霊。お前と似た面汚しを贄に生み出した永遠服従の式神。そしてそれは、代々恐神の当主に引き継がれていた。」

淡々と語る景親が棺の横に置いてある刀を手に取る。手に取った瞬間に湧き上がる呪力の塊に汗が伝う。何をしようとしているのか、そしてその刀は何なのか。

それを自分は“知らない”のに“知っている”。

「恐神恒隆...我々恐神家のために呪物化し、魂を捧げた男。そうして生まれたのが、二級呪物『御霊留』。縛りはあれど強力な魂刀...。

お前も知っているだろう?」

ドクン、と心臓が跳ねる。手先から伝わる冷えが身体を固めて零士を動かさない。景親が真っ直ぐ零士を見つめ、そして刀を振り上げる。常人のそれではないスピードに反応を遅らせながら、零士は右へ避けた。

「ほう、わかるのか。この刀の強さが。」

「...それは、二級呪物ではない...でしょう!」

速さに追いつかず身体を壁に打ちつけ、よろめきながら睨み上げる零士。その言葉にポカン、とした表情を浮かべた後、景親はニタァと笑う。

「腐っても呪術師と言うことか。いや、違うな...“結界を通ったか”?」

「...!」

汗が一雫垂れ、その直後には刃先が目の前を掠める。切り落とされた前髪を犠牲に鳩尾に拳を一発。景親が呻いている隙をついて蹴りを入れ、体制を崩させてそのまま投げ飛ばした。

「...はぁ、はぁ...」

扉をガシャンと鳴らして壊し、そのまま砂利の敷かれた庭先へ転がる。それを見つめながら零士は頭を押さえた。


ー...痛い、痛い、痛い...!ー


頭痛と同時に浮かび上がるのは、大きな悪意の塊と人影。そして光る何か。その後に浮かび上がる未知への恐怖に、思わずしゃがんだ。

脳裏に浮かび上がる映像を必死に遮断しようと頭を振るが、虚しくも瞼の裏に流れるのは切先。感情の波に攫われる零士に、思考を通して餓者髑髏は問いかける。

《何を見た、零士。》

聞かないでくれ、と言葉を漏らそうとするも代わりに出たのは吐瀉物。胃液混じりに吐かれた昼餉が床に染み込み、辺りに酸っぱい匂いが漂う。餓者髑髏の問いにも答えられないまま零士は見た。


己の心臓に突き刺さる『御霊留』と、確かに中に入った“誰かの魂”を。


「...うそ、だろ?」

自分の中に入っているのは知らない誰かの魂。時折混じる存在しない記憶。感じた覚えのない痛み。まさか、それは全て、自身の身体に入っている誰かの魂からのものだとすれば...。

生まれた瞬間に、突き刺さったものが、あの『御霊留』ならば。

ならば、ならば、


“誰の魂を入れられた?”


懐にある短刀を手に取る。

迷っていても仕方がない。今は、襲ってくる景親をどうにかする他ないのだ。

口を拭って外を見る。景親は既に立ち上がり、刀を構えて此方を見ていた。

「たかが青二歳が...力を知らぬ赤子に其奴は操れないだろう?」

「...何が目的かは知らない。けれど、襲ってくるなら迎え撃つ!」

「ハハッ、威勢が良いなぁ面汚し。...その首を切って煩い口を止めるとしよう。」

飛び出したのは同時。震える手で短刀を握る零士と猛々しく刀を振り翳す景親。

それを見つめるのは、1匹の妖。










《...肇、否...零士。

終わるのか...貴様も、吾も。》




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