再燃

再燃

モブ直・尊←直 その後 R18

※以下の話の続き

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https://telegra.ph/%E9%AB%98%E6%B0%8F%E6%A7%98%E3%81%A3%E3%81%A6%E9%AB%98%E5%9B%BD%E6%A7%98%E3%82%92%E5%BC%9F%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%82%88%E3%82%8A%E5%A8%98%E3%81%BF%E3%81%9F%E3%81%84%E3%81%AB%E6%89%B1%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%AD%E3%81%88%E5%B8%AB%E7%9B%B4%E3%81%AF%E5%B8%AB%E6%B3%B0%E3%81%AE%E5%BE%8C%E3%82%8D%E9%A0%AD%E3%82%92%E6%80%9D%E3%81%84%E3%81%8D%E3%82%8A%E5%8F%A9%E3%81%84%E3%81%9F-02-11

上記読んでなくても「直義は過去モブレされたことがある」「直義はずっと尊氏に秘めた片思いをしている」「尊氏は直義に恋心はないけど溺愛してるし独占欲はある」というところを抑えていただければ大丈夫です。

※渋川姉(直義正室)と直義とのNL描写あり。

※歴史ニワカなのでなんか変なとこあったら(たぶんある)すいません。

※「直義様は知と冷徹の方だからある程度承知の上で受け入れた交合なんか引き摺らんだろ」「うるせえトラウマ持ちの受けが冷徹ぶって必死に耐えてるのかわいいだろ」というせめぎ合いをした結果欲に負けました。

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尊氏がいつもの通り弟の屋敷に訪れた日のことだ。

道誉から良い酒をもらったので、「ともに飲まぬか」と誘ったところ、弟は申し訳なげに「まだ政務の途中であるので、半刻ほどお待ち頂きたい」と述べ、頭を下げた。その頭を烏帽子越しに軽くポンポンと叩き、「しょうがないなあ」と笑うと、弟も少しほっとしたように笑った。「すぐに終わらせますので」と言い残して弟は一旦下がり、少しして女が膳を伴って入室した。美しくはあるが少し幸の薄そうなその女が、尊氏の最愛の弟直義の正室となってもうしばらく経つ。

「主人をお待ちいただいている間、よろしければこちらをお召し上がりください」

膳には瑞々しげな果物が所狭しと並べられていた。尊氏はニコニコと弟の細君に礼を述べる。

「これはありがたい!実にうまそうだ。義妹殿も一緒に食べぬか?」

「いえ。恐れ多いことでございます」

遠慮がちに微笑む女に弟との相似を見出し、尊氏は少し微笑ましい気持ちになる。もし弟が女であったら、きっとこのような女であろう。幸薄そうなところも含めて。梨を頬張りつつ尊氏が考えていると、女は一礼し、座敷を出ようとしていた。

「そう急いで部屋を出ることもあるまい。どうだ義妹殿、我と少し話さぬか。義兄の退屈しのぎに付き合ってくれ。こちらへ」

「は……はい」

尊氏が手招きすると、女はおずおずと尊氏の傍に寄った。

「弟とはどうだ?」

何の問題もない無難な質問をしたつもりだったが、一瞬女の表情が曇ったのを尊氏は見逃さなかった。

――何だこの女。我の直義に何の文句があろうというのだ。あの最高にかっわよい直義に。家に戻らせるぞ。

尊氏が怪訝な表情を浮かべたのを見て、女は慌てた様に言った。

「とても良くして頂いております!ずっと家にいた私に、何か不便はないかととても気を使っていただいて……」

「その割に、何か不満でもあるようだが」

「不満など、まさかそのような……」

そう言って彼女は少し俯き黙り込んだ。

「では、何の問題が?」

笑顔は作りつつも尊氏が少し責めるような口調で先を促すと、諦めた様に女が口を開いた。

「……私のような薹がたった女は、直義様には、ふさわしくないのでは、ないかと……」

涙ぐみながら震える声で言葉を紡ぐ女の姿は哀れだ。直義がそんなことを気にするはずもあるまい、と言おうとして尊氏はふとこの義妹の蟠りの答えに思い当たった。

――直義と義妹は確か同じ歳か、義妹が一つ下くらいだったはず。彼女が己の歳を気にすることがあるとすれば、子を成すことだろう。ああ、そうであれば、弟が彼女を抱かない心当たりはある。

尊氏はすぐに冷や汗をかきながら、女に対し両手を合わせ謝った。

「弟がそんな風に不安にさせてしまってすまない!我からちょっと話をしてみよう!」

「め……滅相もないことです!お義兄様の手を煩わせることなど!!それに、直義様は何も悪くなどありません」

顔を青くして平伏す女を見て、尊氏は顔を上げるように言うと満足げにニコニコ笑った。

――寂しい思いをしているのに直義を責めないとはわかっている女だ。もうしばらく直義を預けておいてやってもいい。

そんな娘を溺愛する舅のようなことを考えながら。



* * *



最初に弟と言葉を交わしてからちょうど半刻たった頃、弟が再び姿を見せた。

「お待たせいたしました兄上」

そう言った弟の顔は激務終わりの疲れなど微塵も感じさせない涼やかなものだ。尊氏は満面の笑みで弟を近くに呼び寄せた。

「予告通りだな、頼もしいことだ!」

そう言って肩を抱き寄せると、直義も小さく笑みを浮かべてされるがままになった。ふと視界の端に彼の妻の姿をとどめたようで、あまり尊氏には見せない慈愛に満ちた目で妻に優しく声をかけた。

「兄の相手をしてくれていたのだな。ありがとう。あとのことは私でするから、君はもう休んでくれて構わない」

「そんな。もったいないお言葉です。せめて配膳の手配だけでも」

「それには及ばない。こちらで声をかけておいた」

そう直義が微笑みかけると、女は頬を赤く染めつつ、また少し俯いた。

「直義いかんぞ、ひとりで全部やってしまっては。義妹殿の立つ瀬がないだろう」

「兄上の面倒を半刻も見てもらっただけで十二分です」

「言ったな!こいつめ!」

尊氏は腕の中の弟に軽く小突く様な動きをし、そのあと互いに顔を見合わせて笑った。義妹はまぶしいものを見るように目を細めて微笑み、恭しく頭を下げてからその場を辞した。


尊氏が持ち込んだ酒とともに全ての配膳が終わると、直義は家人をすべて下がらせ二人きりの空間を作った。尊氏はその方が喜ぶことを直義もよく知っていたからだ。互いに近い距離で差し向かいに酒を酌み交わし、何気ない会話に花を咲かせる。こうした時間を持つことは兄弟には常のことであったが、尊氏も直義も飽きずにこの時間を愛している。そうしてしばらくの時間がたち、直義がほろ酔い気味に美酒に舌鼓を打っていると、尊氏は出し抜けにものを言った。

「で、お前なんで義妹殿を抱いてやらんのだ」

直義は思わず口に含んだ酒を吹き出した。咄嗟に横を向き、膳や兄に酒を吹き掛けることは免れた。

「な、な、なに言いだすんですか急に」

「いや、義妹殿と話しててな」

「そんなはしたないことをいう女じゃないでしょう。また、勘ですか」

「まあ、半々だ。義妹殿が落ち込んでいたぞ、可哀そうに」

「はあ……」

直義は汗をかきながら手を顎に当てた。それは、考え事をするときの弟の癖のような動作であった。なんとかこの場をごまかす算段をしているようだが、この兄の前ではそんなものは無意味だと心得ていよう。尊氏はニヤリと笑みを浮かべる。


尊氏には、直義が妻を抱かない理由に二つ心当たりがある。

一つは、直義がずっと昔に尊氏への恋情を抱いていたこと。ただ、これについては直義の性格を考えると婚姻の時点である程度の区切りをつけていようと思う。それを思うとこの線は薄めだ。まあ、それでも多分直義は心の奥ではまだどこか尊氏への想いを捨てきれていないと尊氏は思っているし、無意識下に影響している可能性は十分ありうる。

もう一つは、同じ頃、どこぞの悪辣な輩に手を付けられたこと。それが直義に性への忌避感を抱かせ、妻に触れることを気後れさせているとか。これはかなりありそうだと思う。


「黙ってると大声で我が推論を言って回るぞ」

「おやめください。わかりました、言います。言いますとも……」

左手で目を覆いながら呻くように直義は言った。少しかわいそうでかわいかったが、かといって見逃してやる気は尊氏にはない。なぜなら、健気な義妹の悩みを少しでも解消してやりたい……という建前で弟をからかうのが単純に楽しいからだ。

「言っておくが、目元を隠したところで我にお前の嘘は……」

「心得ております」

深く深くため息を一つつくと、直義はぽつりと尊氏にしか聞こえぬような声で零した。

「……兆さぬのです」

「え」

「私は男として機能していない」

「…………」

思う以上の重症だった。尊氏が言葉を失ったのを見て、直義は自嘲の笑みを浮かべ、半ば捨て鉢に手酌で酒を呷る。

「妻との行為で確信した。離縁も過りましたが、妻がいらぬ謗りを受けるでしょうし渋川との誓いも果たせない。しかし、そんな話を妻がしたのなら……現状、随分惨めな思いをさせてしまっているのでしょう。全く可哀そうなことをしてしまったものです」

「それは、あの男との交合によるものか」

口に出した後、尊氏はしまった、と思った。直義は眉尻を下げ、悲しげに笑う。

「やはりお気づきだったのですね。……そう、恐らくは、それがきっかけだろうと私も思います。……どうにも、欲に任せて腰を振るあの行為が悍ましく感じられてならぬのです。憎からず思う女の裸を目の当たりにしてすら」

ぽつぽつと零す直義を見て、尊氏は胸が痛んだ。尊氏は直義をからかうのは好きだが、傷つけることはまるで本意ではない。

「すまん直義。我が悪かった。辛いことを言わせた」

「いえ。妻には悪いが、足利のためを思えば……むしろ、これでよかったのです。お気になさらないでください」

「そのようなことを言うな」

膳を横に避け、弟の体を一回り大きい尊氏の体で包み込む。昔からこうしてやると、弟は安心したものだった。

「我の前で感情を抑える必要などない。無理をするな」

「兄上……」

直義はありがとうございます、と小さく呟き、しばし目を閉じ俯いていたが、不意に顔を上げ、尊氏に向き直ると真っ直ぐな目を見せた。

「ただ、兄上。あんな男のために北条を憎んだわけではありません。そんな個人的な、つまらない理由で倒幕に臨んだわけではない」

「酔っているのか?直義。我がお前をそんな風に思うわけがない。お前は公正を愛し不正を憎む子だ。誰よりも我がわかっている」

真っ直ぐな視線を返すと、直義の顔は少しだけ嬉し気に綻んだ。そう。我はわかっている。お前のことは全部わかっているぞ。その真っ直ぐな瞳のまま、尊氏は直義の袴の脇から左手を突っ込み、弟のそれに触れた。

「えっ」

「それはそれとして。そんな不逞の輩のためにお前が傷ついたままというのはあまりにも理不尽だろう。なあ?」

尊氏が直義の下腹部を撫でさすりながら語りかけると、直義は本気で困惑した。

「あに、兄上酔ってます?」

「何だ直義?お前、我がこの酒量で酔うとでも思っているのか?兄をわかっとらんなあ」

「い、いいえ。しかし……」

まだ何か言い募ろうとする弟の鈴口付近を柔く握り徐に上下に扱いた。……確かに、なかなか熱を持つ様子はない。直義はしばし兄の奇行に呆然としていたが、尊氏の不埒な左腕に手を当て、硬い声でその行為を咎めた。

「……御戯れがすぎます。おやめください」

常には尊氏に見せない鋭い眼光が尊氏を射抜く。そこいらの者なら即座に命乞いすらしそうなその拒絶の目に、尊氏はなにか、ぞくりとするような感情が腹の底から湧き出てくるのを感じた。

この行為は、尊氏の欲ではないはずだ。自分にまだほのかな恋心を隠し持っている(と少なくとも尊氏は確信している)弟の不能を治す助けとなれば、とそういう善意というか親切心のはず。そう思いつつも尊氏は弟を押し倒し、その体を下敷きにした。

「おやめくださいと、そう申しました」

尊氏に軽く体を抑えられたものの、直義はその行為を受け入れず、目や語気には怒りが滲んでいる。尊氏は軽く首を振り、弟に笑いかけた。

「だが直義、もしこれでお前が元気になれば、義妹殿だって喜ぶし、我も可愛い甥か姪が見られていいことずくめだろう?なに、我らはもとより不離一体。恥ずかしがることはない」

そういって互いの袴越しに互いのものをすり合わせると、直義の肩が小さくはねた。妻帯してなお初心な態度の弟に、尊氏は慈しむ様な笑みを浮かべる。

「お前はほんに、いくつになっても、いつまでたっても、かわいいなあ」

そう耳元でささやくと、恨みがましい目を尊氏に向けたが、しかし、その目に隠し切れない熱が久方ぶりに宿っているのを見て、尊氏は喉を鳴らした。

――そうだ、その目だ。またその目で我を、我だけを見ろ直義。ずっと我だけに焦がれていればいいのだ。下らぬ古傷にも高々政略結婚した程度の女にもお前が心を砕く必要はない。かわいいお前の心を真に動かすのは我だけでいい。

弟の額や頬に口づけを落としながら腰を動かしていると、荒い吐息が弟の口から洩れ始めた。そのうちに、ふと弟の方からスリ、と腰をすりつけたのを感じた。全くかわいいものだ。尊氏はそう思い直義の顔を覗き込んだ。

「ふえっ」

この情けない悲鳴を上げたのは尊氏であった。

直義はこの世の全ての闇を飲み込んだような昏い目をしていた。

「……兄上は、私を慰み者になさりたいのですか」

「そ、そんなことないぞ。我はただ、お前が少しでも元気になればよいなーとほんとマジそれだけで」

「そうなのですね」

尊氏が慌てふためいている隙に、直義は体を起こし、不離であるはずの兄の身から離れると、昏い目のまま頭を垂れた。

「お気を使わせてしまい面目ないです。兄上、恐れ入りますが本日はもうお帰りください」

「で、で、でも直義。ほら、まだ酒も残っておるし。すまん直義!!そこまで嫌ならもうせぬから!!」

そう言って、事実何の情欲もなしに尊氏は直義を泣きながら抱きしめようとしたが、直義はいつものようにされるがままにはならず、するりと避け顔をそむけた。

「……どうかお帰りを。直義はしばらく政務以外では兄上にお会いしないことに致します」

「え」

「どうかご理解ください、兄上」

直義はそう言って額を床に擦り付け、尊氏が何を言ってもその後顔を上げることはなかった。



* * *



高師直はその鉄面皮に驚きの表情を浮かべた。

本日は殿が愛する御舎弟の屋敷を酒を伴って訪れていたはず。てっきりお泊りになるものだと思っていたが、まさかたった一刻過ぎでお戻りになるなど思ってもみなかった。それにこの魂の抜けたお顔はどうしたことだ。いや、まあ、あの御舎弟が殿のご機嫌を握るところは大きいのだから、ご兄弟の間になにがしかが発生したと想像するのはたやすいが、それにしてもいやになるほど仲のよろしいご兄弟である。弟を娘のように溺愛する殿と兄を神のごとく崇拝する御舎弟の間に何があればこうなるのか。

とにかく、殿の魂が少しでも戻れば何を言い出すか想像は更にたやすい。今のうちに刃物は取り上げて……

「死ぬ。死のう。もう死んで詫びる!!それしかない!!!直義にあんな顔させるなんて!!もう死ぬんだあ!!」

間に合わなんだか。まあどうせ何度自死を試みたところで殿が死んだことは一度もない。放っておけばそのうちケロリと復調されるのだから気を揉むだけ無駄だ。まあそれも、この調子だと今回は少し長引くかもしれんな。やれやれ厄介なことだ。

師直は尊氏の血に塗れた頬はそのままに、包帯を構えつつ溜息をついた。

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