再教育
歪みに気付いた退行IFローがIF世界に連れ戻されて『再教育』されちゃう、自分が読みたくて書いちゃったちょっとした話
この概念大好き
実際の暗示はこんな簡単には掛からないのは分かっているけど、IFミンゴの怨念に近い執念ならいけると思ってる
長い間姿を消していた愛し子を遂に連れ帰る事の出来た城の主たるドンキホーテ・ドフラミンゴは、ベッドに横たわり彼の腕の中で眠る愛し子の頭を撫でる
漸く見付けて連れ帰ろうとしたが愛し子は何故か帰りたがらず、その上彼に刃や拳を向ける者達が邪魔をしてきた
少々手荒ではあるが不届き者達をねじ伏せ愛し子を連れ帰った
まだ遊び足りないらしい愛し子は嫌だ嫌だと腕の中で暴れ、終には涙まで流したがその内疲れて眠ってしまった
城へ帰ってきて、彼があつらえた物ではない不届き者達が着せたであろう服を着替えさせて2人の寝室のベッドへ寝かせて今に至る
「……んん」
寝息と共に小さな声が漏れて眉が動けばゆっくりと愛し子の瞼が開いていく
寝起きでぼんやりと微睡む瞳に彼の姿が映った時、愛し子は目を見開いて飛び起き、そのままベッドからも飛び降りた
「おいおいロー、どうした?」
シュルシュルと糸を出して愛し子を捕まえれば、連れて帰った時の様に嫌だ嫌だと暴れて糸を解こうとしてきた
「何がそんなに嫌なんだ?」
「だ、だってロー兄さまが!」
誰かと思えば不届き者達の中にいた1人だったな
そう、愛し子と同じ名を持ち、愛し子が歩まなかった人生を歩んだ別の世界の愛し子だ
刃を向けてきた為に応戦し、愛し子を連れ帰る事が目的だったが為に命までは奪わなかったが放置したら命の危険には陥りそうな程度には痛めつけた男だ
「ローは優しいな、お前を連れ去った悪い奴の心配までするなんてな」
「ちがう!ロー兄さまは、みんなはわるい人じゃない!!」
尚も糸を解こうと必死にもがく様をもう少し眺めていたかったが愛し子の次の言葉に考えを変えた
「わるいのは『あなた』でしょ!?」
パッと、愛し子を拘束していた糸を解けば、突然戒めが消えた事により愛し子は支えを失ったかの様に床に倒れた
すぐに起き上がろうとした愛し子の腕を掴めば、自分に引き寄せて顔を覗き込む
「『兄様』だろう?」
怒気を隠す気も無く、正しく威圧する様に低い声でそう言えば、愛し子は体をビクリと大きく震わせ、目尻に涙を浮かべて今にも泣き出しそうに表情を歪め、結んだ口の中からはカタカタと歯の鳴る音が聞こえた
「ロー、向こうで何があった?一体何を言われた?……言え」
「―ッ!」
再び低く命令するような口調で言えば、目尻の涙は溢れて頬を伝った
「…ロー、兄さまが……あなたの『愛』は、おかしいって……まちがってる……って……」
途切れ途切れに紡がれた愛し子の言葉に彼は静かに長く息を吸い、そうして溜め息よりも落胆を含んだ息を思い切り吐き出した
「お前はその言葉を信じたのか……俺じゃなく、関係の無い奴の言葉を……」
サングラス越しでハッキリとは見えない瞳からは刺すような視線を感じ、愛し子はポロポロと涙を零し続けた
もはや掴む手を振り解く事もせず、恐怖に泣く愛し子を彼は、彼を信じなかった事に対する罪悪感故と捉えた
ならばやる事は決まっている、一先ずあやす為に抱き上げてベッドへ連れて座れば、叱られると思ったのか逃げ出そうと弱々しく抵抗してきた
「ロー、ロー、怒りゃしねェよ。だがな、お前にはちゃんと一から教えねェとなァ?」
頬を撫で、頭を撫でれば、恐怖で滲ませたハニーゴールドの瞳が彼を映した
「俺が今から言う言葉をお前も言え」
お前は素直で甘えたがりの弟
兄様は優しくて自分で望んでここにいる
離れられない
捨てられたら生きていけない
兄様大好き
復唱するように言えば愛し子は首を横に振った
「ヤダ、ヤダぁ……」
「……あァロー、お前はいつからそんなに悪い子になっちまったんだ?……そうか、あいつ等のせいか?」
いっその事始末しておけば良かった
そう零した途端に愛し子は彼の胸に縋り付く様に抱きついた
「ごめんなさいごめんなさい!ロー兄さまたちはわるくないの!!だからッ……」
必死に不届き者達を守ろうとする心優しい愛し子に胸を打たれ、彼は物騒な事を言ってしまった事を謝った
泣く愛し子の背を優しく撫でてやれば、先程言った言葉をもう一度伝える。すると小さな口が恐る恐るという様に開き、ゆっくりとか細くだが復唱する
「お、おれ…おれは……すなおで、甘えたがりの…弟……」
「ッに、にい……さま、は…や、やさし……くて…じぶん、で……のぞんで、ここに、い、る……」
「はなれ、られ…な……」
「…すて、られた、ら……生きて、いけ、ない……」
「に、い…さま……だ、い……好き……」
瞼を力強く閉める愛し子は恥ずかしがっている様に見えて正しく愛しい弟だった
言われた言葉を言い終えた愛し子は少しだけ安心した様子で目を開いて一息吐いた
「?何だロー?ほらもう一度だ」
「……え?」
一回で終わりじゃないのと言いたげな瞳で彼を見詰めていれば、彼は楽しげに笑ってもう一度と催促してきた
愛し子はもう言いたくないと何度も首を振ったが、そんな愛し子を宥める様に抱き締めながら2人で横たわった
嫌だと我が儘を言う愛し子に恥ずかしがらないくて良い、恥ずかしいなら一緒に言ってやるからと寄り添うような言葉を投げ掛ければ、愛し子は小さく頷いた
「お前は素直で甘えたがりの弟」
「…おれ…は、す、なお……で…甘、え…たがり……の、お、とう……と……」
「兄様は優しくて自分で望んでここにいる」
「……に、い…さ、まは…やさ、しく…て……じ、ぶんで……の、ぞん、で……こ、こ、に……いる…」
「離れられない」
「は、なれ……ら、れな……」
「捨てられたら生きていけない」
「…す、てられ…たら……い……きて…いけ……な…」
「兄様大好き」
「にい…さ、ま……だい……好……」
背中を規則的なリズムで叩いてやれば、愛し子の瞼が段々と落ちていき、微睡みの中へと落ちていく
同じ文言を投げ掛け続ければ素直で良い子な愛し子はとろんと惚けながら、眠りにつくまで復唱し続けた
「……お、れ……すな……え、たが………おと……と……」
「…に…さ……やさし………のぞ…で……ここ……」
「……はな…られ…」
「……てら……き…て……けな…」
「に…さ……だ…すき……」
そうして意識を手放せば、彼は愛し子を抱き締めながら自身も眠りについた
真横で人の動く気配を感じて目を覚ました彼の視界に真っ先に入って来たのは、キョトンとした表情を浮かべる愛し子だった
「あ!兄さま起きた!」
楽しげに笑う愛し子の頭を撫でてやれば、愛し子はその手を自分の頬へと持って行き、手に頬ずりしてきた
「えへへ、今日の兄さまはおねぼうさんだね、おれの方がはやおきだよ」
くふくふと笑う愛し子を抱き締めてやれば、胸元に頬を当てて嬉しそうに笑った
「ねぇ兄さま、おれ寝る前のことあんまり思い出せないんだけど、いつ帰ってきたの?ロー兄さまたちは?」
本当に何も思い出せないらしい愛し子は首を傾げながら問い掛けてきた
「あァ、その事だが、お前を預かってくれた礼がしたくてなァ、お前が言う奴をこの城に招こうかと思うんだ」
「ほんと!?ロー兄さまたちくるの!?」
「ただあまりに大人数だと使用人達が忙しくなりすぎるからな、お前が兄さまと呼んでる奴だけにはなるがな」
1人しか招けないと知った途端に残念そうに俯く愛し子
機嫌を取る様に頭を撫で、頬を撫でれば、愛し子は不満は残しつつもそれでも嬉しそうに彼の手に自身の顔を預ける
「取り敢えず今日は仕事があるからな、ロー起きるぞ」
「うん!」
抱き上げてベッドから降りて2人で部屋を後にした
悪意を孕んだ彼の瞳はサングラスに隠されて愛し子は気付かない