再会

 再会


前提:頂上戦争前にワノ国を訪れていたサボが記憶を取り戻し、ウォロロン達と一緒に頂上戦争へ乗り込む√


・コルボ山時代にウォロロン+アルベル兄ちゃん(=キング)とも親交があった世界線。

・全体的にキャラが迷子


 ―――――――


「カイドウさん!! 侵入者がこっちに……ィィ?!!」

「サボくん!! 大丈夫……ってえぇぇ?!!」

素っ頓狂な叫び声が多方から幾つも響いた。

海軍でも海賊でも無い不審な侵入者を察知した百獣海賊団の面々と、自分達の仲間を探しに来た不審な侵入者こと革命軍幹部達。本来なら敵同士でしかない筈の彼等は、しかし今表情からその心中に至るまでこれ以上は無いという位に同じものとなっていた。


集まる視線の先に"居る"のは、酒樽や酒瓶に囲まれながら"うおぉぉ〜〜ん"と咆哮の様な声を上げて号泣する巨漢と、その腕の中に抱えられた一人の青年。それぞれの素性を認識し理解すれば、警戒と敵意が双方に膨れ上がった。


百獣海賊団の面々からすれば、自分達の頭が酒を飲みながら号泣状態な事そのものは別に問題でも何でも無かった。

例え泥酔状態であったとしても、侵入者1人ごときでどうにか出来る存在では無いのだ。だから、カイドウの近くで侵入者が昏倒していた事自体については、ああ面倒が省けて良かった、というだけで済んだのだ。……済んだのだが、問題はその辺に打ち捨てるでも無く潰すのでも無く抱え込んだその腕が、ただの泥酔が生み出した気まぐれと言うには強く、それでいて潰さぬだけの配慮が込められていると気付いてしまった事だった。


そして、同じ場に居合わせてしまった革命軍の面々の混乱と焦燥は百獣海賊団側の比では無い。

何時もの様に手分けしての潜入と調査の終わり際。最後にカイドウの様子を見てくるとだけ言い残して消えた、要件人間にして革命軍のNo.2を探しに来たら、コレだ。

何せ、ぱっと見の状況と顔触れだけでは、何かしらの原因で潜入がバレた仲間ことサボが、カイドウに打ち倒されて捕らわれた様にしか見えなかったのだ。

見捨てる、という選択肢は無い。……無いが、ならばどうするかと言われれば、そもそもの状況が絶望的だ。

そもそも、今回の潜入捜査で一番腕が立つのがサボなのだ。既に潜入がバレ、更に主力を欠いた状況では、最早何人生きて逃げられるかという事を考えなければいけない段階だった。



そんな彼等の警戒や悲壮な覚悟を他所に、うぉんうぉんと咆哮する百獣海賊団トップと意識を飛ばしたままの革命軍参謀総長は、古い記憶の中にあった。



時は混沌時間の少し前に遡る。


(……アレが、百獣のカイドウか)

ワノ国への潜入捜査。一見すれば笑顔に溢れたその国の胸糞悪過ぎる現状に吐き気を覚えながら、それでも今はまだ時期では無いと自分に言い聞かせて仕事を終わらせた。……その最後に、黒幕とも言える相手を一目見ておこうと思い立った事に、大きな理由は無かった。

思い立てば即時行動がサボの信条だ。電伝虫を通し仲間達に要件を伝え、気配を殺して其処へと向かう。

その相手を探す事に、苦労は無かった。隠れる必要等無いと言わんばかりに晒された強大で異質な気配が、これ以上ない程の目印となっていたからだ。

だからこそ、その姿は容易に見付ける事が出来た。

視線の先に居るのは、酒樽から浴びるようにして酒を呑み干す巨漢。

人とは思えぬ体格に、頭部から聳え立つ巨大な角。そして、内包する力が生み出す強烈極まる存在感。こうして見ている限りではただ馬鹿でかい"酔っ払いのジジイ"にしか見えないが、それで済む様な存在であることは分かっていた。

今、勝てる相手では決してない。だが、いつかは。そう覚悟を新たにそろりと後退し、仲間達との合流へ向かう……筈だったのだが。



「いい加減にしろ、ウォロロン!!」

それは、完全に意識外から溢れた言葉だった。

一体何をしているんだと自分自身に驚愕し、何があったのだと高速で思い返す。……とは言っても、何も大した事は無い。

確かに撤退しようとしていた矢先新しい瓢箪を手に取ったカイドウに、まだ呑むのかと呆れた直後、隠れていた場所を飛び出しその眼前に仁王立ちして叫んだのだ。……思い返しても全く意味が分からない上、付きあげる様にして思い浮かぶ言葉は止まらない。

「いつも言ってるだろ!酒は1日一本か二本にしようなって何度も。後、樽…じゃねェか、そのデカい瓢箪から直接のむな!!せめて盃に注いでのめ!!」

いや、何を言ってるんだと冷静に突っ込む自分を他所に、言葉は止まらない。

――いつもって何だ、何でおれはこいつの酒の量に物申してるんだ、そもそも何でこいつを相手に"恐怖"も"警戒"も感じないんだ。

そんな言葉も思考も置いてけぼりだ。

しかも、向けられている本人さえ愕然とした様子で突っ込んでもくれないせいで止めようが無い。何で天下の最強生物が言われるがまま固まってんだ!…なんて、理不尽な怒りさえこみ上げる。


……頭が痛い。


「大体、こんな所でふんぞり返って何してんだよ、ウォロロン。おれ達言ったよな?悪い事してたらぶん殴ってでも止めさせるぞって」

ガンガンと鳴り響く頭痛と耳鳴りの中、サボ自身の意識を置き去りにして"サボ"の言葉は止まらない。つかつかと歩み寄り、自分では両腕で抱え上げなければいけないサイズの瓢箪をその手から取り上げてびしりと指を突き付ける。

――"おれ達"って誰だ。カイドウをぶん殴って悪事を止められる様な奴が居るなら、今すぐ此処に来てやってくれ。

そんなサボの言葉は、けれどカイドウにも暴走する自分自身にも届きはしなかった。


……頭が、痛い。


「全く、エースとルフィはちゃんと躾しなかったのか? てか、あいつ等はどうし……た……あれ?」

「…お前……まさか……」

漸く再起動したカイドウが、啞然としたまま何かを喋りだす。なのにぐわんぐわんと揺れて響く頭と意識には、ちっとも届きはしなかった。

代わりに聞こえて見えたのは、眩しい程に緑が濃い山の中同じ様に前に座る巨躯と、幼い"3つ"の声。……当然の様に滑り出た2つの名前が、記憶の蓋をこじ開けた。



『――もし、おれが大悪党たとしたらどうする?』

何時ものように酒を片手に、けれど深い酔いは感じさせずに問いかける巨漢。

『は?』

『いきなりどうしたんだ?』

あまりにもざっくりとした雑な問いかけに首を傾げて、それでも何時になく真剣な様子の相手に揃って首を傾げたのは誰と誰だった?

『よくわかんねーけど、ウォロロンがおかしくなったのならおれ達が止めるぞ!』

答えを探す自分ともう1人の横で、あっけらかんと迷いなく答えを叫んだのは誰だった?

『……そーだな。殴ってでも蹴飛ばしてでも、おれ達が止めてやる』

『おれ達はウォロロンの飼い主だ。ちゃんと責任は果たすよ』

同い年の親友であり"兄弟"と一緒に、"弟"の言葉を継いでそう告げたのは。

(ああ……そう、だった)

(エース。ルフィ。……ウォロロン)

東の海。ゴア王国の片隅に広がる山脈と森林の奥。ウォロロン…カイドウを傍に、悪童として名を馳せた3兄弟の1人の記憶。――それは確かにサボ自身のものだった。


がばりと立ち上がって腕を伸ばしたカイドウが自分の名を呼んだと認識した直後、サボの意識は今度こそ暗転していた。



知らない天井だ。


開いた視界に映った光景に、そんな間抜けな事をぼんやりと思う。

取り敢えずと起き上がろうとすれば、下がった血の気に目の前が眩んで、呻き声と一緒に布団に逆戻りする羽目になった。

仕方なく再度視界に戻ってきた天井を見上げれば、やたらと高い事に気が付く。いや、天井だけじゃない。

この部屋は、何もかもサイズ感が大きかった。

(……まあ、そうだろうなァ)

あの時衝撃を伴って戻った記憶は、既にすっかりと馴染んで自分の一部になっている。

何故忘れていられたんだと思う程に鮮やなそれに自然と笑いが漏れ、同時に革命軍としての自分の記憶が兄弟達の活躍を当然の様に教えてくれた。

新進気鋭の若手海賊。旗揚げから僅か1年足らずで突き進む脅威の超新星。……ただの要観察対象と見ていた海賊が兄弟だったなんて経験は、グランドラインの理不尽に揉まれた経験をもってしても中々に新鮮だ。けれどそれは、決して嫌なものではない。

問題は、その2つの記憶が提示したもう1つの存在だ。

(……確かめねェと)

今度こそと気合をいれて身体を起こす。またふらつきそうになるのを頭を振ってやり過ごし、天井以外にも視線を巡らせた。

何もかもがデカい部屋だ。

天井はざっとした目測でも10m近く、従って広さもまた相当にある。自分が寝かされていた布団のサイズこそまだ標準的な大きさだが、そのせいで余計にアンバランスさが際立って妙な感覚になる。……随分と"デカい"家主に、世話になっているらしい。

のろのろとした動きで、傍らに畳まれていたコートに袖を通す。帽子やブーツどころか鉄パイプまで含めた装備が一式おかれていて、何とも言えない気持ちになったのは秘密だ。

武器になり得る物を持たせていても制圧出来るという傲慢さか、あるいは別の意図があるのか。……それも含めて、問いたださないといけない相手が居る。

古い記憶に残る家族にも等しい親愛を向けていたペットであり…恐らくは、この場所の主である"青い龍"に。



「……目が覚めたか。問題は無さそうだな」

「! ああ、お陰様でな」

まるで見計らったかのようなタイミングでかけられた声に、動揺を隠して言葉を返す。

そのままあえてゆっくりと身体を向ければ、入口付近で静かに佇む人影と視線が交わった。

(……やっぱり、居るよなァ)

そこに居たのは、己の軽く3倍はある長身を、何とも言い難いデザインで真っ黒な服装で包んだ男。背にある黒い羽と何故か常に燃えている炎も含め、新世界で名を上げる者達ならその主も含めて知らぬ者は居ない存在。――そして、記憶に強く焼き付いている存在の1人。

威圧感のある姿も、圧倒的な力も嫌というほど感じ取っている。……それでも尚警戒以上の敵意や拒絶を抱けないのだから、取り戻したこの記憶も中々に厄介な物だと苦笑してしまう。

自分の役目、なすべき事を見失うつもりなど無いけれど。どうしたって、情が伴ってしまうのを止められそうに無い。

「…………」

「おれを呼びに来たんだろ?」

向けられる視線に殺意や敵意は無い。じっと睨む様な視線も、重い沈黙にも恐怖は感じない。……元々口数があまり多くなくて、それでも話しかけられれば無視はしない性格だと知っていれば、言葉を探しあぐねているだけだって分かるからだ。

何より、今害される事は無いと、根拠は無くとも確かな信頼じみた確信があった。

「ウォロロンは何処に居るんだ?」

「………分かっているだろうに、その名で呼ぶか」

呼ぶべき名は、もう知っている。それでもまだ、本人達から聞き出した訳でも名乗られた訳でも無い。それに、記憶が戻った事は確かに嬉しく思うけれど。……その原因とこの状況のせいで、こっちは大分ぐちゃぐちゃなんだ。

この位の意趣返しは、受けてくれても良い筈だろう?


(なあ……)

「――アルベル兄ちゃん」


細く眇められる視線。じわりと増した圧にそれでも笑ってみせながら。……マスク越しでは無いその素顔をまた見せてくれる事はあるのだろうかと、かつて歳の離れた兄とも慕った相手の名を呼んだ。

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