再会と彼の声

再会と彼の声

笛とかスワロー島とか

 航海士ベポのビブルカードに導かれ、ローとルカはくじらの森を征く。久方ぶりの仲間との再会を思うと、心なしか足取りは軽い。

 そうして暫く歩いていると、やがて開けた場所に出る。ややあって、ハートの海賊団のクルー達が歓声と共に茂みから飛出して兄弟を迎えた。


「キャプテ〜ン!! ルカ〜!! 来てくれたのかー!? もう日が落ちたのにー!!」


 ベポの大きな身体が兄弟をまとめて包み込み、抱き締める。感極まって思ったより強く力が籠もったせいだろうか。ローから小さく呻き声が洩れた。


「スゲーな!! ドフラミンゴに勝ったなんて!!」


 どうやらドレスローザの一件は既に新聞で伝わっているらしい。

 だが、正確なところを言えばドフラミンゴとの戦いに終止符を打ったのはルフィだ。それを訂正しようとしたローの言葉は、シャチの台詞に遮られた。


「つもる話があるんだ!! さァ森の奥へ!!」


 案内されるがままに歩き出そうとして、立ち止まる。いつものノリが戻ってきたせいか危うく忘れるところだった。


「待て、お前達」


 クルー達を呼び止めると、ローはルカの背を軽く押した。

 一歩前に出たルカに自然とクルー達の視線が集まる。ルカは少し照れくさそうに俯いてから、ややあって口を開いた。


「……た、ただいま……みんな」


 刹那、辺りが沈黙に包まれる。

 クルーそれぞれが驚愕の表情を浮かべ、信じられないとばかりにその"声"の主を見つめていた。


「ル……ルカ……今、声……!」


 最初に沈黙を破り、震えた声を洩らすベポにルカは「そうだよ」と頷いてみせた。

 ベポの小さな黒目が潤み、じわりと目尻に涙が浮かんだ。


「ルカ〜〜〜っ!!」

「わっ」


 名前を叫びながら突撃したベポが再びルカをぎゅうぎゅうと抱き締める。そのままごわごわした毛皮に包まれた頬をすりすりと擦りつけた。


「よかった、喋れるようになったんだね! おれルカの声初めて聴いたよ〜〜! うれしい〜〜!!」

「落ち着けってベポ!」

「ルカが潰れちまうよ!」


 シャチとペンギンに諭され、ベポは渋々といった様子でルカから離れた。

 ……が、次の瞬間。


「「ルカ〜〜〜〜〜っ!!!」」

「うわ、わっ」


 ベポが離れたのをいいことに、今度はシャチとペンギンが熱烈なハグをかます。すぐ後ろでベポが「あーーーーっ!!」と声を上げた。


「声出るようになってよかったなぁお前!!」

「本当に……! おれこの日をずっと待ってたよ…!!」

「あーー! あーー! ずるい〜〜!!」


 大人気なくベポを引き剥がしてから抱き着いた歳上二人に、当のベポ本人が抗議の声を上げる。


「ずるいよ〜〜! おれも〜〜!!」


 そう言って、とうとうベポはシャチとペンギンごと抱きしめるつもりで飛びついた。


「わっ、わっ!」

「ちょっ、バカっ、ベポ!」


 勢いがつきすぎたせいだろう。全員まとめてバランスを崩し、そのままもつれ込むようにして倒れた。

 ──勿論、一番下敷きになったのはルカだ。


「わー! もう、何やってんだよベポ!!」

「すいません……」

「ルカ、大丈夫か!?」


 慌てて起き上がるベポ、シャチ、ペンギン。けれどルカは仰向けに倒れたまま動かない。どこか痛めでもしたのかとハラハラしながら見つめる。


「……ふ、ふふ」


 ところが、ルカの唇から溢れたのは。


「あ──あははははっ! もう、ベポってば! シャチとペンギンも大人げないんだから……」


 ──弾けるような笑い声であった。

 ぽかんとしていたベポ達だったが、やがて釣られるように笑い出す。

 彼らの笑いは他のクルー達にも伝播していき──見守るローもまた、穏やかな笑みを浮かべていた。

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