兵器と海賊と少年
ここは何処だろう。真っ暗で何も聞こえない。
私は…なんだっけ…?
『なぁ○○…』
『○○さん』
記憶に靄がかかったみたいに朧げで…でも
『それでよ!』
その麦わら帽子は覚えてる。あなたは一体…誰?
「#/〒¥$%〆*☆♪」
なんだか外が騒がしい。
外があるなら何処かに出口が有るのかとあちこち触って確認する。
天井を押したら一瞬光が見えた。
なんとか出ようと何度も天井を押すけれど、天井は上がり切らずに出る事は出来ない。
他にも手順がいるのかなと思ってたら、天井が開かれ光が舞い込んで来た。
「な…箱…に子…が?」
赤い髪に麦わら帽子をした男がこちらを覗き込んで何かを言っている。
言語が合ってないのかな?
そんな事を考えながら手を伸ばす。
そうだ。麦わら帽子だ。
「む…ぼう…」
舌がうまく動かなくて喋れない。
声が上手く出ずに途切れ途切れになる。
「おまえ、名前はなんて言うんだ?」
何度も話しかけられる内に言葉がわかる様になって来た。
舌だけじゃなく耳も調子が悪かった様だ。
名前…名前か。
『クラバウターマンだな。おまえは』
朧げな記憶の中で誰かがそんな事を言っている。
クラバウターマン…それが私の名前なんだろうか
「く…うた…ん」
「うた…?おまえウタっていうのか?」
舌はまだ上手く動かないようでちゃんと名前を言えなかった。
勘違いした男に違うと伝える為に首を振ろうとするが上手く動かない。
「ウタか。良い名前だな!」
結局男の勘違いを正す事は出来なかった。
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それから6年、私は拾ってくれた赤髪海賊団の娘として“ウタ”として育てられた。
彼らは私が記憶がないと知ると、記憶を取り戻す手伝いをすると私を育てながら旅を続けた。子供を連れての船旅は大変なのにだ。
私の記憶のカケラには家族の文字は無く、育ててくれた彼らが私には父親に思えた。
だからある日、お父さんと呼んでみたら泣いて喜ばれた。私も、みんなとの距離が縮んだ気がして嬉しかった。
そして今、もう一つの運命の出会いをしていた。
「おまえのステージを知ってる。」
フーシャ村と呼ばれる少し寂れた村で出会った男の子はそう言って私をこのボロ風車の中に連れて来た。
そこからは、沈んでいく夕陽とフーシャ村を一望出来た。
けれどもその光景よりも、夕陽を受けたその男の子の横顔が、私には何より綺麗に見えた。
その男の子、“ルフィ”へのこの気持ちはきっとこの時に芽生えた物なのだろう。