共鳴り 前日譚【呼び水】②
調査を開始してから1、2週間が過ぎて。
[陰陽部 部室]
キキョウ「……っぁああ、もう!」
ガバッ!ぱしっ。ガシッ!
レンゲ「ちょっ、落ち着け!キキョウ!」
ユカリ「お気を確かに!?ここは陰陽部様の部室ですわ!?」
ナグサ「キ、キキョウ、気持ちは分かるけど……」
ニヤ「おやおや、随分と気に触れる内容やったみたいですねぇ」
キキョウ「そりゃ、気に触れるでしょう!?」
百花繚乱の代表として陰陽部に呼ばれたナグサ、キキョウ、レンゲ───そして付き人として乗り込んできたユカリは、要件を話され……
ストレスのあまり床に拳を振り下ろそうとするキキョウを、3人がかりで羽交い締めにしていた。
カホ「……まあ、内容が内容ですからね。『花鳥風月部』の調査までお願いしている皆さんにとっては、負担となるのも無理ないと考えています。
……ただ、今はチセちゃんがお休みなので、あまり騒がしくなさならないよう」
チセ「…………すぅ…………すぅ……」
百花繚乱の面々に対して居たのは、陰陽部の部長天地ニヤ、副部長の桑上カホ、そしてお休み中の和楽チセ。
彼女ら陰陽部は、百鬼夜行の観光を推し進め、アイドル的な活動をしている側面もあれば……生徒会の如く、百鬼夜行連合学院のあれこれを円滑に進める役割も担う、器用な側面を持つ部活だ。
そんな陰陽部が百花繚乱を呼び出した『要件』───それは。
ニヤ「合縁祭に対する、『アリス窃盗団』の大規模な犯行のリーク。それも匿名からの。───これは、だいぶ面倒事の予感がしますねぇ?」
ユカリ「そもそも、それって本当のことなんですの?」
ニヤ「いんや?全くもって確証なんてないですよ。徹底して匿名にしてきてますからねぇ。そんで、それが一番問題ですねぇ」
まさにその通り、と言わんばかりに、キキョウとナグサは苦い顔をした。
キキョウ「未確定な情報だとしても、私たちは事件を未然に、最小限に防ぐために、対応せざるを得なくなる」
ナグサ「実際、『アリス窃盗団』が動くこと自体は間違いなさそうなんだよね……犯行のリークなんてなくても、要注意団体として見てたぐらいには」
『アリス窃盗団』の悪評は名高い。正規品の『アリス』に絞って確実に誘拐し、全て裏に売り払う。数多の『アリス』がやってくると考えられる合縁祭を狙うことは、容易に考えられた。
レンゲ「でも、この規模は……正規品のアリスを根こそぎ狙ってるレベルなんじゃないか?」
カホ「……ええ、その通りです。そのため、これが本当だった場合……
当日に起こるであろうトラブル等も考慮すると、正規品アリスの被害個体数は───こちらが総力をあげても、全体の50%を超える想定です」
その予測に、百花繚乱の面々は驚きを隠せなかった。
ナグサ「……ちょっと、多くない?百花繚乱と陰陽部が警備して、なんだよね?」
そう尋ねると、ニヤは大きく頷いた。
ニヤ「にゃはは、間違いありませんとも。今まで、お祭りに対して襲撃があったり、事件が起きることは多々ありましたが……
特定の機械に絞った大規模多発誘拐。これは我々も経験がない『レアケース』になる。相手はその手のプロになるからねぇ。苦戦は必須でしょう」
それから一息ついた後、ニヤは続けた。
ニヤ「そして、件の量産型アリスちゃん……機会が少々ありまして、拝見させてもらいましたが。あれは、どうも『純粋すぎる』し、『幼すぎる』。……いや、『主人に依存しすぎている』と言った方が正しいか。
……要するに、普段からきちんと防犯のために、自衛の意識を持たせている個体なら問題は少ないですが、ただ甘やかして主人のそばにいるだけだった個体の場合……まさに瞬殺されるでしょうねぇ?」
ナグサ「……一応聞いておくけど、その防犯を徹底している個体はいくらいそう?」
カホ「……そうそういないと思われます。元々他人から狙われるのを自衛してもらうほど、高度な自我も価値も、持つことは想定されていなかったようなので。
アリスは人と変わらない意思を持つ、という、そういった考え方が提示される前に、アリスたちは他のモノとそう変わらない扱いでいい、という『価値観』が世間に浸透してしまった……その分の弊害が無くなっているとは考えにくいです」
ユカリ「……それでは、当日に現れるアリスの方々は、全て『要保護対象』になる……ということになりますわね」
……それは、警備の多くをアリスの保護に費やす必要があることを意味している。
キキョウが歯をギリッと立てて……体を萎ませた。
キキョウ「こっちは『花鳥風月部』のために万が一の対策でも考えたいのに……!それに、魑魅一座だの他校区の問題組織だのが暴れるのも目に見えてる……!時間も人手も何もかもが足りない!
……最近頑張って我慢して遠出してるのに……こんなことって……」
なんなら少し戦意喪失しそうなキキョウの背中を、ユカリやレンゲがさする。
普段とはあまりにも違った彼女の様子に、ニヤとカホは驚いていた。
カホ「……何といいましょうか……」
ニヤ「……だいぶ、参ってるみたいですね」
ナグサ「……相当、最近の調査の疲れが効いたみたい。無理せず休んでって言ったんだけど……「もう花鳥風月部に遅れは取りたくない」って必死に言うから……止めるにも止められなくて」
レンゲ「……肝心なところでしっかり意地張るところは、アタシたちも気に入ってるんだけどな……」
ユカリ「キキョウ先輩……身共たちがいますわ……大丈夫ですわ……」
ナグサ「でも……やっぱり、今回はなかなか大変な仕事になりそうだね」
あまりにも脅威が多すぎる。その割には、どれも確実性のない、どれが発生してどれが発生しないか分からないものばかり。臨機応変に、迅速に対処する必要がある。───キキョウの言った通り、時間も人手も必要になる。
どう対処するか、頭を抱える百花繚乱の面々だったが───ニヤは表情を変え、今までの流れを断ち切らんとばかりに、抑揚をつけて話し始めた。
ニヤ「さて、皆さん?今回はその報告のためだけに、わざわざお越しいただいたわけじゃないんです。
この緊急事態とも言うべき現状に対して、実際に治安維持を担う皆さんのために、一つ『提案』をしたいと思いまして」
ナグサ「……提案?」
ニヤ「ええ。というのもですね、例の『アリス窃盗団』のリーク。どうやら、陰陽部以外の主要な学園に片っ端から送信されてるみたいなんです」
キキョウ「主要な学園……具体的には?」
カホ「ミレニアム、トリニティ、ゲヘナ、さらにヴァルキューレ……総じて、キヴォトスでも指折りの戦力を持つ学園、と言えるでしょうね」
レンゲ「……まさか、提案って言うのは」
そう尋ねると、ニヤは少し上機嫌そうに答える。
ニヤ「にゃはは。ええ、理解が早くて助かります。今回の合縁祭の警備に、風紀委員会、正義実行委員会、C&C、ヴァルキューレの警備部隊…その他もろもろに参加してもらおうと思ってます」
その言葉に、再び百花繚乱の面々は驚く。
キキョウ「……いやいや。『アリス窃盗団』の話が不確定な情報なのは分かってるでしょ?私たちじゃ人手が足りないとは言ったけど……あまりにも過剰でしょ」
キキョウはそう指摘したが、ニヤは変わらず上機嫌に返す。
ニヤ「私もそう考えていたんですけどねぇ。実は、他学園のほうから話を持ちかけられまして。「噂が嘘だったときの自治区の対策はするから、是非とも警備を手伝わさせてくれ」と、ね。
……私たちはアリスと徹底的に線引をすることにしましたが……どうやら、向こうは随分肩入れしているようで。とても積極的に提案していただけたので、是非とも『利用』───いや、『協力』するべきだな、と思いまして。
おそらく『アリス窃盗団』の案件が発生すれば積極的に動いていただけるでしょうし、他の事案にも対応はしてくださるでしょう。そうすれば、百花繚乱は本来の治安維持活動に専念できる。悪い話ではないと思うんですが、いかがでしょう?」
キキョウは少し悩んだが……すぐに結論を出した。
キキョウ「……正直、人手はあるだけあったほうが良い。あんまり手段は選んでいられないか。ナグサ先輩、いい?」
ナグサ「……うん。変に意地を張るタイミングでもないだろうし」
キキョウ「……よし、分かったよ。私たち百花繚乱は、その提案に賛成する」
そう聞くと、ニヤはいっそう上機嫌になって答えた。
ニヤ「……にゃはは🎵いい返事を聞かせていただきました。では、その方針で行きましょう」
ユカリ「……なんといいますか…とてもお元気ですのね!ぽじてぃぶなのは良いことですわ!」
ニヤの様子を見て、ユカリが唐突に声をあげた。
ニヤ「えっ。あぁ、そうかもしれませんね〜……?」
いきなりの純粋な不意打ちに、ニヤは動揺を隠せなかった。
レンゲ「……そういえばさっき、『利用』って言いかけてたな……」
ニヤ「……いやー、まさか『何かあったときの責任追及先を有耶無耶にできそうでラッキー』とか思ってませんよ……?」
キキョウ「……はあ……?」
ナグサ「……なんというか、やっぱりすごいね」
レンゲ「冗談でも言っちゃダメだろ……」
ユカリ「のーこめんと、ですわ!」
カホ「ニヤ様、さすがにキャラ付けだとしても最低です」
チセ「そーいうの、よくないと思うよー?」がばっ
ニヤ「ちょっ……皆さん!?というかチセまで!?さすがに傷つきますよ!?」
閑話休題……したのだろうか?
ニヤ「……ま、まあ、冗談はさておき。知ってるとは思うけど、合縁祭は和楽まつり以降、そして『アリス』が世間に広まって以降、初めての大規模な祭事になるからねぇ。ちゃんと開催させて、成功に導きたい気持ちがあるんです。
……そのためには、なるべく万全の体制でいてもらいたい。それは、百花繚乱の皆さんとて、例外じゃありませんよ」
チセ「お祭りは楽しみ……でも、無理してほしくない……」
ナグサ「……それは、どうも」
ニヤ「……こう見えて、百花繚乱が帰ってきたことは嬉しいと思ってますし、信用もしてるんですよ?ずっと近くで見てきたのもありますからねぇ。
……だからこそ、無理はしないで欲しいんです。オーバーワーク気味なら、よそから人手でも何でも持ってきてやりますとも」
───彼女たちのその善意は、嘘偽りないように聞こえた。
ニヤ「荒事なんて日常茶飯事なんですから、完璧、なんて目指さなくていいんです。最後に全員が、お祭りに来て良かったと思えるように最善を尽くす。それが一番やと思ってます。
だから、よろしくお願いしますね?言ってくだされば、何でもお手伝いしますから」
彼女は、いつもと変わらない笑顔でそう言った。
キキョウ「はあ……言われなくとも、元からそのつもりよ」
ナグサ「……うん。頑張ってみるよ、ありがとう」
ニヤ「にゃはは。期待してますねぇ?」
こうして、合縁祭を巡る彼女らの会議は幕を閉じた───が。話は、それだけでは終わらなかった。
ニヤ「……さて、その流れでもう一つ。例の『花鳥風月部』の調査について、進捗を聞いてもいいでしょうか?」
切り替えて、ニヤは百花繚乱に尋ねた。
ナグサ「うん。概ね予想通り、かな。郊外に捜索範囲を拡げたら、「化け物を操る少女に遭遇した」人が見つかるようになった」
キキョウ「他の校区にも属しているか怪しい地域が多かったから……完全にバレにくくしようとしてるね」
この『少女』が誰であったかは……想像の範疇ではあるが、容易に考えられた。
カホ「……その、少女と接触した人は無事でしたか?」
そうカホが尋ねると、キキョウが口を開いた。
キキョウ「そこが奇妙な点になるんだけど……接触した人は、その少女に『助けられた』人たちがほとんどだった。それも『命を助けられた』人。
……まあ、不安を煽るようなことを散々言われた上でだから、あんまり助けてもらえた印象は持ってないみたいだけど……」
ユカリ「かといって、何か対価を求められたり、何か被害を起こされた方もおられませんでしたわ」
チセ「……ただの人助けだった、ってことー?」
……そんな訳がない。そもそも野望を一度打ち払っただけで改心するような連中なら、本気で百鬼夜行を火の海に沈めようとなんてしない。それはこの場にいる全員が理解していた。
ニヤ「ふむ……ナグサさん。あなたはこの状況、どう見てるんです?」
ニヤはナグサに尋ねた。花鳥風月部のことを一番理解しているのはナグサだと、彼女もまた、理解していた。
ナグサ「……奴らは、単純に『機会を待ってる』のかもしれない。怪談を成立させられる機会を」
一見、単純な意見。しかし、それには当然の疑問が伴う。
キキョウ「……でもそれなら、姿を現さずに潜んでいればいいんじゃないの?わざわざ人助けをする理由がない気がするけど……」
ナグサはゆっくり答える。
ナグサ「うーん……これは、前回の襲撃で考えた私の持論なんだけど……怪談を作るためには、人の気持ちの『揺らぎ』を利用する必要がある。人と人の衝突とか……長年の悩み、みたいな?
……でも、そういういざこざって、すぐに出来る訳じゃないと思うんだ。だから、それが出来そうなタイミングを根気良く待つしかない。
───だから、そのタイミングがなるべく多く起こるようにしたかったんじゃないかな」
カホ「……まさか、少しでも怪談を生むきっかけを多くするために……?」
ナグサ「……うん。人命救助───というのも、なるべく多くの人が互いに関わる機会を作るため、だと思う。それでもやってることは人命救助だから、何とも言えないけど……
姿をわざわざ見せたのも……実際、私たちが跡を追ってその人たちと縁ができたわけだから。そういった何かしらのきっかけ作りに使えると思ったんじゃないかな。
……今後の花鳥風月部が何をするかはやっぱり分からない。今回の事案はただ、花鳥風月部は現在、人命救助を主に活動していることが分かっただけ。百物語を作るきっかけができるかは、結局神頼みにしてるんだと思う。」
ニヤ「……言ってしまえば、巧妙であまりにも遠回りな、マッチポンプとギリギリ言えるか言えないか程度の活動、か。……にゃはは、いかにもな手口やねぇ」
各々が悶々とする……が、結論が出たわけで。
レンゲ「……じゃあ、今後も花鳥風月部の動向には気をつけるってことで、今回の調査は終わり、なのか?」
そう尋ねられると、ナグサは……明確に首を振った。
ナグサ「……いや。結論がどうあれど、花鳥風月部が実体を持って行動しているのを追跡できるのは初めて。できれば、この機会に花鳥風月部を攻略する、何かしらの進展が欲しい」
それを聞いて、キキョウは調査中のあることを思い出した。
キキョウ「追跡……ああ。『これ』ってそういう意図で付けてたんだ」
そう言い、キキョウは───百鬼夜行の校区よりもずっと広いスケールの地図を取り出した。ところどころに赤く印が付けられている。
ユカリ「ナグサ先輩、こちらは前に付けたものの……」
ナグサ「───うん。『花鳥風月部』が活動したと見られる場所を、百鬼夜行の郊外にも記録した。そうしたら……いくつか出現が集中している場所を見つけたんだ。この近くに、奴らの出どころがあるかもしれない。
───それを確認するまでは、調査を切り上げるには惜しいと思ってるの」
ニヤ「……ふむふむ。……ん?これは……」
カホ「……!確か、ここは……」
キキョウ「……此処に、何かあったの?」
その注目された場所を確認したニヤとカホには、ある心当たりがあった。
カホ「───つい先日、判明したものなのですが……こちらを」
と、カホが提示したネットニュースには……
〈『✕✕山機器廃棄条約の破棄と廃棄場所について』と書かれた契約のデータが流出!裏組織の大規模計画か?情報元は不明〉
という記事が書かれていた。
レンゲ「機械を雪山中に放逐、って……めちゃくちゃなことするな……」
雪山に数多くの機械を棄てていたこと。そして隠蔽のためさらに業を重ねようとしていること。判明する事実は数多かった。───そして、何より重要なのは。
ニヤ「ここにある山の名前……間違いないですねぇ。地図で印が多く付いている場所の近くにある。───本当に、すぐ近くに」
キキョウ「なるほどね……ただ、これも匿名からの情報なの?」
カホ「はい……ですが今までの情報とは違って、すぐに進められた追加の調査によって、この計画は確実に存在していることが分かっているようです」
ニヤ「……いよいよ、きな臭くなってきましたねぇ」
ユカリ「もしかすると、ということですわね」
怪異の集中的な発見と、唐突な裏組織の計画の露呈。何か関係があるとして見るには、十分だと感じた。
キキョウ「……でも、潜入するにはあまりにも危険すぎるでしょ。確実に裏社会のテリトリーになってる。仮に無事に帰れたとしても……『裏組織の噂が立っている場所に積極的に乗り込んだ』と外部に思われたら、要らない悪評を生みかねないよ」
レンゲ「気にしすぎ……でも、ないか」
ナグサ「……確かに、悪目立ちする可能性はあるかもね……」
どうしたものか、と考えていると───
カホ「……ニヤ様。『あの者たち』を使うのは?」
ニヤ「……あぁ、あれか。丁度どう対応するか迷ってたし、いい隠れ蓑にはなりそうやねぇ」
カホとニヤは、何やら相談を始めた。
ユカリ「……何か、手がありますの?」
そう尋ねると、ニヤは返事を返した。
ニヤ「……にゃは、手がある、というほどのものでもないんですがね。
その雪山の大ニュースを受けて、普通は近寄らないようにすると思うんですけど……一つ、真っ向から対応しようとしている所がいまして。『アリス保護財団』と言うんですが……まあ、もうお世話にはなってますよね?」
『アリス保護財団』は、居場所を無くしたり、虐待のような扱いを受けるアリスたちのために、文字通り保護活動を行う組織。その所属元は、アリスを生産した大元であるミレニアム。
その所以か、アリスの保護に関してはまず信頼されている組織であり、様々な公的機関や治安維持組織が連携をとっている。……もちろん、アリスを保護対象として活動する百花繚乱も、保護したアリスの扱いに関してはこの財団に一任していた。
キキョウ「……わざわざ、この事件に目を付けたの?」
カホ「はい。どうも生存しているアリスがいる気がする、だとか。だから、捜索隊の結成のために戦力をお借りしたい、と要望が来てたんです。」
ニヤ「お祭りのことでまさにそれどころではない、と突っぱねるつもりでしたけど……むしろ、都合が良いことになってるかもしれませんねぇ?」
ナグサは、彼女の意見に賛成した。
ナグサ「向こうは戦力を欲していて、こちらは花鳥風月部を探す口実が欲しい。……利害は一致してる気がするね」
キキョウ「どうも、面倒なことになりそうだけど───まあ、安定択ではあるか……」
他の面々も、概ね同意といった感じだ。
ニヤ「……ただし、その場合、これには『皆さんが』出向いてもらう必要がありそうです。どうやら想定している脅威がそこそこ高いものだそうですが……大丈夫ですかね?」
その質問に……百花繚乱は、当たり前だと言わんばかりに、覚悟を決めた顔で応えた。
レンゲ「最近やり合うことも少なかったから、腕が鈍らないか心配だったんだ。任せなよ!」
キキョウ「……こちらの目論見通りに行けば、花鳥風月部とは接触することになるからね。どのみち、私たちが出なきゃと思ってたよ」
ユカリ「……身共も、お供を務めさせてください!ここで動かねば、百花繚乱の名が廃りますわ!」
ナグサ「……じゃあ、それで。手続きをお願いしてもいいかな」
カホ「……畏まりました。───百鬼夜行のために、ここまで尽力してくださって、ありがとうございます」
チセ「……はやく見つかると、いいねー?」
おそらく、花鳥風月部の足取りを掴む、今のところ最後のチャンスになる。合縁祭の準備に取り掛かる前の最後の一区切りとして、全力を尽くそうと彼女らは意気込んだのだった。
───だが、その判断が。その意思が。その選択が。もともとそうなる『運命』だったのか、何者かが仕組んだ『因果』だったのか。
……あるいは、『呼び水』のように互いを惹き寄せられてしまったのか。答えは誰も、知る由もない。
だが、何であろうと。───捜索活動当日。ナグサは、暗く冷たい吹雪の中で、確実に。
───からん、からんと、音を聞いた。
【呼び水】編 ──完──