【共鳴り】─起─ ③ 〈長文注意〉〈一応閲覧注意〉

【共鳴り】─起─ ③ 〈長文注意〉〈一応閲覧注意〉



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 ────⬜️ヶ月前────

『アリス』が生まれました。

この世界のことを知りました。

アリスの体のことを知りました。

アリスが一人でも生きていけるよう、『マスター』は様々なことを教えてくれました。

此処では誰も信じてはいけないと教えられましたが、きっと、信じることは大事なことだと思います。


 ────⬜️ヶ月前────

◯◯様がマスターになりました。

『此処』での生き方を知りました。

人との話し方を知りました。

不安も多いけれど、人と生きていくのは楽しそうです。


 〈省略〉


 ────⬜️ヶ月前────

✕✕様がマスターになりました。

人の守り方を知りました。

人と仲良くなる方法を知りました。

たくさんの優しいマスターと出会ってきて、アリスは良かったと思っています。


 〈省略〉


 ────⬜️⬜️月前────

⬜️⬜️様がマスターになりました。

人を騙す術を知りました。

⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️を知りました。

どうして?


 〈⬜️略〉


 ────⬜️⬜️⬜️前────

⬜️⬜️様が⬜️⬜️⬜️⬜️になりました。

⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️を知りました。

⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️を知りました。

それでも、信じて───


 ────⬜️⬜️⬜️⬜️────

⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️。

⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️

⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️

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 〈⬜️⬜️〉


 ─⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️─

⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️。


 〈記録なし〉


  ────?ヶ月前────

───いやだ。諦めたくない。確かに此処で『信じる』ことは辛くて苦しいことなのかもしれない。でも。だからこそ。

───探したいの。『私』が信じられる誰かを。


 〈省略〉


 ────XXヶ月前────

△△様がマスターになった。

最近のマスターの中では優しくていい人だ。

───でも、やっぱり私が求めている人ではない。私は『ミク』に作り変えられ、『ミク』になるように言われた。確かにあの子には心を動かす魅力がある。私も夢中になって見てしまった。けれど…

あの人には『初音ミク』しか見えていない。あの人の目に私が映っていない。

まだ、探さなきゃ。



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 「『初音ミク』って、知ってるかな?」

水色の髪をした少女は、私にそう聞いてきた。

「はつね…みく?」

自らに搭載されたローカルのデータベースに検索をかける。本当はネットワークを経由できると確実なのだが、電波が届かない。雪山の奥なのもあるが、そこに関与している裏組織たちが、連絡手段を制限するため何かしら対策をしている、というのがオチだろう。


 やがて、一人の…人?にヒットする。

「ふむ…キヴォトス内外を問わず活躍しているバーチャルシンガー…ですか。ある日を境にしてキヴォトスに実体として現れ、現在も定期的にやってきてはライブを開催している、と…」

「そうなの!ミクちゃんって、機械的なはずなのにどこか感情を揺さぶられる声でね、掠れた声から澄んだ声まで、なんでも綺麗に出せるの!あとね、ライブ中のファンサもすごくて、それでね───」

私が話しきる前に、彼女が目を輝かせて畳み掛けるように話してきた。

「……えっと、あの……」

「…はっ。ごめん!つい話したくなって…」

「……いいえ、大好きなのは伝わったので。大丈夫です」

このまま彼女の好みを聞き続けるのも面白そうだったが、それより気になるのは───

「初音ミクさんと、姿が……」

データベースに記録されている、キヴォトスでの初音ミクさんと彼女の外見が、何もかも同じだったことだ。


 「……うん、そうなの」

彼女は照れつつも肯定する。まさかとは思うが…

「もしかして『好きすぎてミクちゃんになりたかった』とか言うつもりじゃないですよね?」

「違うよ!?」

「……さすがに失礼でしたね、ごめんなさい」

しかしそういった理由でないのなら、何かしらの事情があることになるが───

気をちゃんと取り直してから、改めて尋ねた。

「───お聞きしても、いいですか。雪山に来る前に何があったのか」

作業をするはずの手は、既に互いに止まっていた。

彼女も一呼吸置いて答える。

「うん、いいよ。」


 「えっとね、私、裏社会で色んな人を『マスター』として仕えてたの。まあ、あなたの言う『ご主人様』と同じ感じ!」

「裏社会で…?誰かに買われたんですか?」

私は前に、彼女が自分のことを『アリス』と呼んだことがあったのを覚えていた。

彼女は答えた。

「ううん。私はあなたと同じ生まれじゃないから…」

「同じ生まれじゃない…つまり…」

私が尋ねると、彼女は『思い悩んだような』瞬間を見せた後、答えてくれた。

「……うん。私は正規品じゃないアリスなの。」

「なるほど……」

私が売られる時点で既に、非正規品や改造品のアリスが現れていたことは世間に広まっていたが、彼女もそうだったのか。

「ある日、情報の取引を担ってる組織の偉い人が『マスター』になったんだけど…その人がミクちゃんが大好きで…その、異常なぐらい…」

「……まさか」

身の毛がよだつほどの恐ろしい予感。彼女は少し寂しそうに笑って答えを出す。

「……私の体をミクちゃんそっくりに『作り変えた』。『入れ替えた』んじゃなくてね。本物のミクちゃんの体がなんで動いてるかは分からないけれど、構成してる物質の成分は分かったみたいで…同じになるように、お金と時間をかけて『変えられた』の。『体』も『声』も『身振り手振り』も、そして『名前』もね。だから、元からこの見た目だったわけじゃないんだ。」


 「……『作り変えた』………」

『入れ替えた』、という表現をわざわざ否定したということは、パーツの交換のような簡単な話ではない。『変えられた』ということは、自らの体をそのまま───

「あの人たちが話してるところを偶然聞いたんだけど、「アリスをミクのパーツに取り替える?バカ、アリスをミクにするのがいいんじゃないか」、とかなんとか……言われたことを素直に聞いてたら優しい人ではあったんだけど…今まで会った中でも、指折りで怖いマスターだったね…」

キャーと彼女は体を震わせる。……いや、彼女はコミカルな反応をしているが、これはあまりにも───私は変えられるのを想像するだけで頭が真っ白になった。

「……え、あ、あの……ほんとに大丈夫なんですか?……その、肉体的にも、精神的にも……」

心配でいっぱいになって聞くと、彼女はケロッとして答える。

「だいじょーぶ!だって話の…ミソ?がまだだからね!」


 「さてさて、何だかんだで私は『ミク』としてマスターの要望に従ってたんだけど…まあ、ここまでミクちゃんに固執してたら、何となく想像つくかもね?」

「……エスカレートしすぎた?」

「まあそんな感じ。私をもっと『初音ミク』に寄せるために、本人のもっとプライベートな部分を知ろうとした。それこそ何もかも。倫理的にダメなのはもちろんだけど、表でも機密性の高い情報に触れるなんて当然、表の法的な組織に見つかる可能性が上がってリスキーすぎるよね?しかも、それが絡んでる取引なら、あの人は私以外の何もかもを代償にしようとした。裏社会で命取りになるような情報も人材も。」

「そのエスカレートっぷりを見て、他の裏社会の人たちは「こいつを野放しにしておくとこちらにまで危険が及ぶ。なのに彼がこちらに提示できる価値はもう少ない。」って評価が着いちゃって…今まで潜んでた組織が一気に動いて、徹底的に潰した上で法的機関に告発したの。」

「……まあ、残当ですね」

「最後は凄かったよー?色々あって、たくさんの警官さんたちが崖下で集まってる中で、マスターがその崖から落ちかけてて、崖の上にいる私に必死に言ったんだ。「助けてくれ、ミク!お前には私しかいないだろう!?一緒にまたあの生活に戻ろう!!」って…」

「……それで、どうしたんですか」

「……そりゃあ、崖を掴んでるあの人の腕にこの銃を向けて…」

「ぶっ放したんですね」

「ぶっ放しちゃったね」

「……さすがにやりすぎだったかな?」

「いや、むしろ生ぬるいと思いますよ?」

「……そっかぁ……」

「そうです」

「……あ、ちなみに銃はそのマスターにもらったんだよね。「せっかくミクが完成したのだから、持ち物もそのままでなければ!」って。……私がこっそり武器として改造するなんて思ってなかったっぽいけど。」

その発言で確信したが、彼女は体や仕草を変えさせられても、心まで完全に変えられることはなかったのだろう。本物の初音ミクさんは、助けを乞う絶体絶命の人に自前の改造銃をぶっ放すことは…しないだろう、たぶん、おそらく、きっと。


 閑話休題。

「で、その後なんだけど…まあ、だいぶ弱ってたといっても、表の情報を取り扱う一つの組織を潰しちゃったわけだからね。そこから余計なものが明るみに出ないように、他の組織はその組織があった痕跡を跡形もなく『廃棄』する必要があったの。……あ、ミクちゃん関連のデータは、マスターを経由して色々知ってた私が責任を持って全部破壊しておいたよー!」

───聞き覚えのある言葉が聞こえた。

「『廃棄』…?……もしかして」

「……そう。廃棄先はこの雪山。割と長い間裏でやってきたから、大体そうだろうと思ってたんだよ。潰れた組織の人が人だったから、ミクちゃんっぽいゴミの山があってね。そこに私もゴミとして紛れ込んでここまで来たの。」

「ミクさんっぽいゴミ…?」

ミクさんを再現しようとした末の失敗作、ということだろうか。ということは、他のアリスたちも───

「……あー、アリスちゃんを元にしたものはなさそうだったよ?普通のロボットとか、ぬいぐるみとか…たぶんあの人の嗜好品と、私をミクちゃんにするための研究過程で出来たもの、って感じだったかな?」

……私の不安を読み取ってくれたのだろうか。かといって嘘をついている様子はない。とりあえずその話は良かったとして───

もっと気になることがある。

「なんで…雪山に来たんですか?」


 今まで裏社会で生きてきたのなら、生き延びてまた『マスター』を探すのではないのか。そうでなくとも、潰れた組織の長は表の法的機関に捕まったのだ。痕跡がなくとも、元々組織があった場所に捜査は入るはずで、そこで保護してもらうことも十分にできたはず…今まで彼女を近くで見てきた私にとって、保護されるような口実を作る機転は、彼女には間違いなくあると思った。

なのに、それら全てを捨ててまで、ガラクタと雪しかない山に来た理由は…

「───探してたの…大切にできる人を。」

「え?」

「探してたの。私が心から信じられる人を。」

「??」

理解しきる前に、彼女が動き出して───

「そしてあなたに出会った!ここが「話のミソ」ってやつだよ!」

と、こちらを抱きしめてくる。

「???????」

……えーと、つまり。

「今まで『信頼できる人』がいなかったから、ぜんぶ投げ出して雪山に探しに来て、運良くアリスに出会った上に、アリスがその『信頼できる人』だったと」

「うん。」

「……なんで??」

なぜ雪山に行こうとしたのか、なぜ私と出会って速攻で信頼できる判断をしたのか、なぜそれが今までの経緯を経て体も心も大丈夫と言う理由なのか。

彼女は腕の中で少し考え、笑顔で言い放つ。

「なんとなく!」


 「………ふふっ」

「……アリスちゃん?」

「……あはははっ、何ですかそれ、あははっ」

「おー?いいね!こんなに笑ってるアリスちゃん、初めて見た!」

今まで彼女の話に固唾を呑んでいたのがバカみたいだ。普通なら絶望して呆然とするような事でも、受け止めて笑って蹴飛ばす、それが彼女なのだろう。

「……色々話してくれて、ありがとうございました」

「もういいの?」

「はい、たくさん聞かせてもらったので、今はいいです」

「うーん、もうちょっと話しても良かったんだけどな〜」

彼女は残念そうな表情を浮かべる。そこに私は、

「あなたのことがもっと知れて、アリスを信じてくれてるって分かったので。これからも『頼りにしてます』、ね?」

と笑いかけた。それを受けて彼女は表情がぱぁっと明るくなり、

「うん!よろしくね!」

と、元気良く返してくれた。

まだ、彼女に謎は残っている。けれど、今はそれでもいい。快く心を任せられる友だちであると、分かりあえたのだから。



 「……そういえば」

「どうしたの、アリスちゃん?」

話を終えて互いに作業に戻る直前、私はあることを思い出す。

「えっと、アリスはアリスちゃんと呼んでもらっていいんですが、アリスはあなたをなんと呼べばいいのか…」

彼女の話を聞けば自ずと分かると思っていたが…

「んー?普通にミクで───」

「あの話を聞いた後にあなたをミクさんと呼ぶのは、ちょっと…」

完全に私の感覚の問題だが、気にせずにはいられない…

そんな私の空気を察したのか、彼女は案を考え出した。

「……あっ、そうだ。名前を交換するのはどう?」

「交換…というと?」

「私のミクって名前をあなたにあげて、代わりにあなたのアリスって名前を私がもらう。確かあなたのナンバーって39号、だったよね?じゃあ語呂合わせ、ってことで都合がいいし、私は元のアリスって名前を取り戻せる!どう?

───もちろん、あなたがミクって名前が嫌じゃなければだけど…」

少しもじもじしている彼女に、私は答える。

「いいですね。それでいきましょう。よろしくお願いします、『アリス』さん」

彼女───『アリス』さんは笑顔で答える。

「うん!ありがとう、『ミク』ちゃん!」


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 ───そして現在。

「アリスさん、いいの見つけてきましたよ」

「あっ、ミクちゃん!早かったね!」

あいも変わらず、私たちは雪山を渡り歩いていた。以前より仲良くなったといっても、やっていることは対して変わらない。

変わったところと言えば、アリスという名を渡したからか、彼女の影響かは知らないが、私の一人称が「私」になったことと───

「ソレ、ちゃんと付けてくれてるんですね」

アリスさんの髪に、新しく髪飾りが括り付けられていることだ。

「だって、友だちからのプレゼントなんて初めてだもん!大事にしないと!」

───プレゼントといっても、急に動き回る彼女からはぐれないように、と、拾ったおもちゃと手頃な紐で作った簡単なものだが…

「まあ、気に入ってもらえたなら、嬉しいです」

おもちゃの中に入ったビー玉が、からん、からんと小気味よい音を鳴らした。


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 ガラクタの集う山の中、彼女たちがいる場所とはまた違う場所で。

うごめきひしめく異形の中、一人の少女がどこか遠くを見ながらつぶやく。

 『物語を紡ぐには、役者があまりにも足らず』

 『故に、今はただ、機を待つのみ』

 ───と、云うのが方針でしたが。

 ふぅ~む…どうやら、随分と面白そうな『うわさ』が現れたものですねぇ?

 あまりこちらからうわさを広めれば、それを愚かにも打ち止めようとする者によって怪談は遠のきますがぁ…

 『噂は噂を呼ぶ』……アハハッ、これなら、手前の干渉も最小限で済む……

 どうせ、うわさはすぐに成就するものでもないですしぃ、多少『流れに棹をさし』ても、差し支えはないでしょうねぇ?

 ……それにしても、素晴らしい『うわさ』ですねぇ…特にあの髪飾りの娘。

 『心から信じられる人』を探してるくせに、ずいぶん大胆なウソをつくじゃありませんかぁ。そしてそのウソで、自らの恐怖をひた隠しにしている。

 ───本当は、自分がアリスとして生まれたかどうかも分からないくせに。

少女は不敵な笑みと共に、魑魅魍魎の中へ消えた。






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