六道化ギラif

六道化ギラif


五王国同盟がまさに締結されようとするその時、かの者は現れた。

歯車がBGMを奏でるシュゴッダムの荘厳な造りの城の、更に限られた者のみに立ち入ることを許された王の間に一つ鳴った足音。その場にいた五人の王が音の方へ目を向けると、窓からの光がかたどる一つの影。

何者だ?いつの間に?どうやって?緊張が走る王の様子など知らぬとばかりに、いかにも軽やかなステップで"それ"は駆け寄ってくる。

人とは似ても似付かぬ、寧ろ蟲に近い異形の姿を見て、バグナラクの奇襲と判断した五人は直ぐ様各々の剣に手をかけた。

しかし、異形の口から飛び出た言葉に皆が再び驚愕する。


「お兄ちゃん!」


赤いクワガタの如き──まるでこのシュゴッダムという国から生まれた悪魔と思わせる"それ"はこの場へ召集された四人には目もくれず、たった一人のこの地の君主──ラクレス・ハスティーへ抱きついた。

突拍子もない言動でこちらの隙を突くつもりか?リタは警戒を強めたが、おかしなことに害意は感じ取れない。それどころか「本物だぁ~!会いたかった~!」などとはしゃぎ出す始末だ。


「……ギラ…なのか…?」


数秒間固まっていたラクレスは平素ならあり得ない、ようやっと振り絞った震える声で、得体の知れない侵入者に問いかけた。


「うん、ギラだよ!昔と違ってパパみたいな見た目だからびっくりしたよね。お兄ちゃんこれから予言の年?で大変でしょう?手伝いに来たんだ」


いきなり抱きつくなど不敬にも程がある不審な男?の行動に驚いてラクレスは即座に反応できずにでもいたのかと、カグラギは思っていた。しかし見たところラクレスは「ギラ」と名乗るやたら馴れ馴れしい異形に対して、少なくとも嫌悪感は示していない。予想外の展開に片眉を上げ、ラクレスにとって"あれ"は何なのか、剣の柄を持つ手はそのまま静観に徹する。


「15年前はお父様がパパに逆らったから僕もパパに没収されちゃったけど、お兄ちゃんは忠実だから特別に返してあげるって」


15年前、という単語にヒメノが思わず目を見開く。忘れもしない呪いの日。シュゴッダムが固く口を閉ざすあの災害。華も恥じらう美貌の奥底で、悲嘆と憎悪がじわりじわりと思考回路を染めていく。

"あれ"は、何を知っている?


「変わったのは見た目だけじゃないんだ、すっごく強くなった!レインボージュルリラのおかげなんだって。あれ本当に美味しかったなぁ…今度はお兄ちゃんも一緒に食べようね」


久しぶりの再会に心を踊らせているのだろう、ラクレスの弟らしい何かは饒舌に話し続ける。対して話しかけられているラクレスは血の気の引いた白い顔で、四人がよく知る豪然たる様は見る影もなく、余りの弱りように今にも手に握る剣すら落としてしまいそうだった。

話の内容は何がなんだかまるで掴めないが、ラクレスの尋常でない様子を見るに"あれ"が適当な法螺を吹いているのではない事だけはヤンマは把握した。


「チキューのお片付け一緒に頑張ろうね、お兄ちゃん」


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