全てを盗み、皆に与える
りょういきえとく2006年 7月
生い茂る木々に打ち付けられ、全身に響く痛みを感じながら、俺は最強の姿を見ていた。
「なんでそんなに弱いんだろな お前、領域のセンスあんのに 領域は俺にもできねぇし期待したんだけどな〜 ま、ザコはザコってことか」
「悟、死体蹴りはバッドマナーだよ」
蒼く輝くその眼で見つめてくる最強。痛みで朦朧とする意識の中、彼がぼやいているその言葉だけは聞き逃さなかった。
…はは、センスねぇ……そんなこと言われたこと無いんだけどな 六眼とやらかぁ…
そうだ礼佳…無事かな 交流会だし死にはしないけど…それでも、痛めつけられるのは嫌、だ まもら、なきゃ……
…………
そんなことを考えていても、例え因果に結ばれた眼の言う様にポテンシャルがあったとしても。理想と今この瞬間の現実は違う。次に目が醒めた時には既に団体戦は終わっていた。
相手は特級。仕方がない、と昔の俺ならそう言い聞かせてたんだろうな。でも悔しいものは悔しいし、また自分の無力さを実感して苦しい。
頭の中で五条の言葉が反芻している。胸の心拍に合わせながら。
ー領域のセンスはあんのにー
ーザコはザコかー
ー領域は俺にもできないしー
ー領域のー
…領域展開。呪術戦の極地とも呼ばれる、有無で勝敗が確実に決してしまうような超高等技術。
そんな力を身につけることができたならーーーーー
そう思いつつも、月日は流れて行った。
新入生が入ってきて、暫く経った頃。
今日は礼佳との合同任務。久しぶりだな
京都郊外の廃病院に発生した準二級呪霊5体と三級・四級呪霊複数体(数不明)の祓徐。数が数だし1人は厳しいとされ礼佳もついてくることになった。三級と言っても礼佳は俺より強いし…まあ普通に終わる…って思ってたけど。
「どげんしたんやろね紫苑さん 聞いてた数より全然少ない」
「うーん…今のとこ準二級が1体、三級っぽいのが3体だけか…確かに全然居ないよな」
礼佳が式神で安全を確認してから進むという方針を取っているけど、それに警戒して引っ込んでる?いずれにしろ、病院全体に呪力が満ちていたから呪力感知が鈍りやすいのもあった。
礼佳とアイコンタクトを取り、何故か「手術中」のライトが付いたままの、一際大きな呪力を感じる治療室に足を踏み入れた瞬間の事だ。
「ひゃっ?!」
「…マジか」
広い。いままで経験したことはなかったけど、確実にわかる。生得領域とやらだ。
唯一幸いだったのは、完全な領域じゃないこと。もし俗に言う様な領域だったなら、俺も礼佳もとっくのとうに死んだだろう。ただ術式が付与されてる訳ではないところを見ると、変に力だけ付いた術式無しの呪霊ってところ
ただここまでの規模だと術式ないから多分二級扱いだけど強さは確実に一級相当。勝てる相手じゃない。逃げ切れば御の字ってレベル。
それは礼佳もすぐ理解したみたいで、2人で道を引き返すために振り向いたその時。
呪霊を貪っている領域の主が居た。
「礼佳!先逃げろ!!!!」
せめて、礼佳は そう思っても
「嫌!紫苑さん置きとうない!」
ダメだ、聞く耳持たないのは俺と同じみたい。
呪霊は皮膚が爛れた様な外見の触手を幾つも飛ばしてくる、それを縄で相殺するが此方の方が消耗量が多い、ジリ貧過ぎる。
何故報告より強い呪霊が居るのか、何故呪霊が少なかったのか、何故こんなにも呪力で満ちていたのか、その全ての人ピースが繋がっていく。身体を必死に動かすのと同時に、頭も回転していく。恐らくこの病院内が蠱毒となり、準二級呪霊のうち強かった一体が周りの呪霊を取り込んでどんどん強大になっていった。
そんな余計な事を考えてしまう頭を冷やし、この状況を切り抜ける方法を考える。
…ダメだ 出口も見つけられないし祓うしかない それか逃げ回って救援を待つか。それは非現実的だ。礼佳は式神を囮に触手の量を減らしてくれている。それでも呪霊の攻撃の手は止まずーーー
礼佳を庇い、黒い火花が散ったその触手を食らった俺の身体は宙を舞ってから手術台か何かに打ち付けられた。
胃から出てきた酸を吐く。頭からは赤黒いものが垂れてきている。視界も霞みがかった様にボヤけてきた。礼佳は何か叫んでるが悲しいことに聞こえてこない。
死と隣り合わせになって恐怖が溢れてくる。
何故だか昨年の最強の言葉が響く。
黒閃を受けて何かを感じる、痛みじゃない何かを。
生得領域に閉じ込められて感覚を掴む。
死の淵に立って新しい景色が見えてきた。
結界術は得意とは言えないけど、この呪霊の領域を利用すれば必中効果もーーー
「こんな、ところで!礼佳を殺させてたまるかよ!!! 領域…展開!
『盗全与皆』ッ!
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