全ては、立香を愛するが故に

突然だが、FCS教は「計画的去勢」という方針を掲げている。
立香とは比べ物にもならない粗チンや、立香の寵愛を受けるに能わない粗マン。そんな劣等ゴミ遺伝子の持ち主を根絶やしにしたいのは山々だが、それをしてしまえば遺伝子の多様性欠如により人類が滅びかねない。だから本当にどうしようもないクズのみを去勢する……というのが表向きそうしている理由だ。
しかし実際のところ、その方針はFCS教の頂点に立つ立香の“慈悲”によるものという趣が強い。メソポタミアの女神ティアマトやイシュタルを筆頭として、生命に関わる権能を持つ者はFCS教内にごまんといる。彼女達が本気を出せば、立香のみを永遠のアルファオスとした世界を構築することなど世界征服より容易いのだ。
故に、水面下ではこんなことも行われている。表向き穏健派で通っている者も、過激派とされている者も、本質は同じだからだ。
───永遠なるアルファオス・藤丸立香に栄光あれ。劣等遺伝子に滅びを。
───
───某所に存在するFCS教の保有施設、その一室にて。
「揃ったようですね」
「ええ、では始めましょう。女神エレシュキガル、用意は良いですか?」
「良いのだわ。愚鈍な劣等種に相応の報いを与えてやりましょう!」
アーキタイプ:アースの霊基第三、通称アースの言葉に応えたのは北欧のワルキューレ・スルーズだ。そしてそのスルーズの問いに、メソポタミアにおける冥界の女神・エレシュキガルことニンキガルが威勢良く応じる。
表向き穏健派のエレシュキガルとアースは今、過激派のスルーズと協力して雄もどきや劣等雌達をまとめて去勢しようとしていた。
「あぁ……これを成したら立香は喜んでくれるでしょうか…♥」
スルーズの頭に生えた羽根がぴこぴこと動く。…が、これは原初のルーンによる模造品、ただの付け羽根だ。彼女達本来の羽根はとっくに抜け落ちている。「ぴこぴこ感情を表しててかわいい」と言っていた立香を喜ばせるためだけに用意されたものでしかない。
「…トリップしているスルーズはしばらく放っておいて構いませんね」
「みたいね。…こほん。さて、アナタ達は男女問わずFCS教に反逆した愚か者の集まりな訳だけど……裸にひん剥かれた自分達がこれから何をされるかくらいは流石に分かるわよね? …え、何その反応。まさか分からないの? …ッ…はぁぁぁ……劣等遺伝子の持ち主は脳みそもお粗末なのね、救いようがないわ」
失望と軽蔑を隠さないエレシュキガルに代わり、アースが話を引き継ぐ。
「貴方達は霊長類再教育センターでも更生不可能と判断された劣等種中の劣等種、いわばゴミです。故に、貴方達には問答無用で去勢手術が施され、以降は教団の下級信徒として重要度の低い仕事が優先的に割り振られるようになります。拒否権はありませんし、再教育センターでの施術と違い施術中死んでも責任は負いかねますのでそのつもりで」
「イリヤスフィール・フォン・藤丸、藤丸美遊、クロエ・フォン・藤丸……貴方達より幼い少女が立香をあれ程愛しているというのに……貴方達は雌として恥ずかしくないのですか? まあ、その程度の外見で立香を財布にしようとしたクズには言っても分からないでしょうが」
トリップから帰ってきたスルーズがアースに同調して罵倒を浴びせる。エレシュキガル同様、そこには心底からの侮蔑が込められていた。
「アナタ達のような汚物、本来なら殺した後槍檻に放り込んで適当に放置すら生温いというか、正直槍檻を宛がってあげることすらしたくないのだけれど……まあ、あんまり殺しすぎると立香が悲しむし、労働担当がいなくなるし。生産担当の母さんと、ついでに不肖の妹の負担も考えると、ねえ?」
権能フル活用で世界を立香色に塗り替え続けている母・ティアマトや、立香の遺伝子を受け継いだ赤ん坊を出産し続けている妹・イシュタル。彼女達同郷の女神が産みの苦しみで絶叫する様を思えば、ちゃっちゃと殺して終わりは流石に短絡的すぎる。そのくらいは三人にも分かっていた。
「と言う訳で。この上なく腐りきった人格の貴方達ですが、絶対者たる立香の慈悲に免じて、特別に改心の機会をあげます。精々耐えて見せてね?」
───そうして、地獄が始まった。
己の信念を裏切り、立香に冥界を捧げた女として改めてオルタ化したニンキガル。その死の権能は、雄もどきの股間についていた粗末なモノを的確に腐らせていった。
魔術的な素養を持つ愚か者はそれになんとか抵抗しようとしたが、無駄だった。彼らは一人残らず、ガルラ霊に竿と玉を引き裂かれる地獄の苦しみを味わうこととなった。
白鳥礼装を黒く染め、戦乙女はおろか乙女であることすらやめたスルーズ。彼女の操る原初のルーンは劣等雌達の女性器を器用に切除し、尿と月経血を逃がすための小さな開口部を残してどんどん縫合していった。
それはいわゆるFGM(Female Genital Mutilation)であり、その様はいつぞやのブリュンヒルデ同様「ゴミには触れたくもない」という意思の表れでもあった。
想いを寄せる立香に染め上げられた、元箱入りお姫様なアース。彼女の視線に射抜かれた劣等種達は、その虹の魔眼の効力により劣等種同士で去勢し合うことを強要された。アースの空想具現化(マーブルファンタズム)で生成された原始的棍棒で、互いの性器を破壊し尽くすまで踊り続けるのだ。
そんな、カルト宗教のサバトもかくやという光景の中。三人の少女は金髪を揺らし、紅い瞳を細めながら───嗤っていた。
目の前の地獄を肴にしながら、立香のことを想ってうっとりと微笑んでいたのである。
───
…一時間後、地獄が終わった。アースが数えると、劣等種の数はサバト開始前と比較して4割に減っていた。
「…流石に殺しすぎですよ、エレシュキガル、スルーズ」
「一番残酷だったアナタに言われたくはないわね」
「ええ、私は劣等種とはいえちゃんと縫合してやりましたよ。まあ、麻酔の代用となるルーンはあえてかけませんでしたが。…選別は終わりました、連れて行きなさい!」
スルーズが声を上げる。すると、銀色の光と共にスルーズ似の少女達が現れた。
彼女達はオーディンの権能を用いた立香と、それをサポートしたシトナイ(フレイヤ)とスカサハ=スカディの三者によって生み出された量産型ワルキューレ。北欧異聞帯の個体を参考にして製造された、スルーズの新しい姉妹達である。
そんな量産型ワルキューレ達が劣等種を追い立て退室を促し、汚れに汚れた床をモップなどで吹き始めた。劣等種の群れを連れてきた時同様、迅速な仕事ぶりである。
…残りの劣等種はしばらく刑務所のような雑居房生活になるが、散々反抗したのだから当然の報いだろう。死んでいないだけ感謝してほしい。
「…では、そろそろ帰りましょうか。どうせオルトリンデが抜け駆けしているでしょうし、灸を据えてあげないと」
「ええ。あまり遅くなると立香が心配しますからね。アレ(※霊基第一の真祖の姫)の調教ぶりも見たいですし」
「こっちもおばかなイシュタルの面倒見てあげたいし、丁度良いわね。また双子の姉妹産んだから、カーマと協力しないと休む余裕なくなっちゃうのよ」
スルーズの言葉にアース、続いてエレシュキガルが反応し、雑談しながら退室していく。手早く掃除を終えた量産型ワルキューレ達もどんどん退室していき、後には静寂だけが残った。そこで展開された地獄などはじめから存在しなかったかのような、静かで静謐な空間がそこにはあった。
───こうして、FCS教はまた一歩世界征服に近づいた。その裏にこういった行為がある事実は、教団内では割と公然の秘密である。