全てに絶望した海兵最後の日…
「…考え直してはくれないだろうかね」
元帥室で海軍元帥、センゴクと大参謀、おつると向き合うのは1人の少年…「蒼翼」の異名を持ち、次世代の英雄とまで期待されていた若い海兵であった。
2人が知る限りでは以前の少年の眼には光があった。
しかし、今の彼には同一人物かと思えるほどに変わり果ててしまった。
光り輝いていた眼は今や光を失った失意の眼となっていた。
それほど、彼が見てしまった現実は見るに堪えなかった模様。
「すみません。…センゴクさんやお鶴の婆ちゃん達に受けた恩を仇で返すような形になってしまい本当に申し訳ないありません…でも、おれはもう海兵をやって行ける気力がありません」
弱々しく絞り出すかのように出た言葉からしてこれ以上引き留めるのは流石に酷であると思い。センゴクは“人生の先輩”として弱り果てた彼を気遣う言葉をかける。
「いや、いい。君はまだ若いのだ。いくらでもやり直しは聞く」
「もし…まだ戻って来る気持ちがあるならいつでも、戻っておいで―――ところでその顔のケガの様子からするとガープとやりあったようだね」
「まぁ…そんなところです」
「全く、自分の孫がこんな状態になっているのに何も言わなかったのか?」
「いきなり、「海軍を辞めるとはどういう了見だ」と怒鳴られましたよ…」
少年の顔を見るとあちらこちらに怪我の痕がところどころに残っているのが分かる。
自分が海軍を辞めると言い真っ先に激怒したのが海軍の英雄と称されている人物であると同時に彼の祖父でもあった。
言葉による対話は平行線をたどり、等々血で血を洗うかのように最終的には殴り合いするという事態にまで発展する程であった。
「…心残りとして、センゴクさん達に色々と聞いて相談したのに結局、おれは“自分の正義”を見つけられませんでした…」
「これからどうするつもりかね?」
「とりあえず、故郷に戻って漁師でもやってひっそり暮らそうと思います。…間違っても海賊になるつもりはないので大丈夫です」
若いながらも痛々しい作り笑いしている彼の様子にセンゴクやおつるはとても耐え難いものになって仕方ない。
「…今までお世話になりました」
少年、モンキー・D・ルフィは目の前の2人に深くお辞儀をして元帥室を去っていく…
海軍本部を去った彼は生まれ故郷である東の海の外れにあるゴア王国のフーシャ村へ戻りセンゴクに言っていた様に漁師としてひっそりと隠居生活をするようになっていく。
それから幾月日が流れたある日、気まぐれでやってきた海兵時代の好敵手とも言える赤い髪の海賊船に乗った小さな歌姫との邂逅が“正義”に絶望して彼の止まってしまった時計の針が再び時を刻む事となる…