入れ替えss

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なぜ追い詰められたヴィランは笑うのか。訊かれてもないことまでべらべらと喋るのか。

海の戦士ソラはグアンハオで許されいた数少ない娯楽らしい娯楽のひとつだった。おれも夢中になって読んでいた。

たいがいその後バトルに突入するので、ヒーローがヴィランを暴力によって成敗することを読者が心地好く読めるように、ヴィランの悪事を直前にわかりやすく説明しておくのは物語としての工夫なのかもしれない。

そんな風に考えていたこともあった。



「ンマー。驚いちゃいないな」

仮面を外し顔を見せてもスパンダムは驚きはしない。逆に驚かれていないことにニコ・ロビンはともかくもカクまでが驚いていた。

「それに思っていたよりも元気そうだ」

「良い医者に診て貰えたんでな。治療費は高かくついたが」

護衛らしい象を撫でる男の顔に驚きは無く、カリファとおれに向けた目は平坦で、カクに対してはやや残念そうに、ブルーノを見て納得するかのような表情をしていた。

「全員疑われてはいた、が、ンマー、確信されていたのはカリファだけかと思ったが、ンマーおれもかァ」

「ははっ!はははは!カリファの前っからお前だけは一番バレバレだったんだよマヌケ!お粗末な潜入だったなサイファーヘボポール!」

「なんですって!?」

カリファが声を荒らげ指銃を放とうとするのを停める。自身も指に力を込めかけたブルーノだったがカクが脚を振り上げるのが目にしすぐ冷静さを取り戻してかその手でカクの足を掴んでくれていた。

まだ話をしてもらわなくては。

傍らの愛象の巨躯を頼りにしているのか、我々に指先を向けられる意味を理解していないからか、スパンダムは笑う。

「『象は忘れない』……ファンクフリードはテメエをよぉーっく覚えていたぜ。

ファンクもおれも執念深いんだよ、とくにおれの恨みはしつこいぞ?」

鼻先を撫でられた象がおれたちとスパンダムとの間に前脚を割込ませる。鼠や豹や狼と比べるとその表情の変化はかなりわかりにくいがおれを敵とみなし戦う意思があるようだ。

「アイスバーグよお、トムさんの裁判のときもいたよな?

その前にもトムさんを訪ねに来て、祝砲から上司庇ったパシリだろ?そっちは覚えてねえかもしれねえが。

下っ端パシリの演技がうまいのも、元々CP5の下っ端パシリだったからかあ?」

「ンマー。覚えているよ、見事な土下座だった。コメツキバッタのようにみっともなくへつらいながら袖の汚れを拭いてクリーニング代まで包んでくれたっけ。だが祝砲?海賊と間違えたとか言ってなかったか?」

「時効だ時効、撃ったのおれじゃねえし。あの頃は再審に備えて世間サマへのいいこぶりっこに必死だったんでな。あんときの鞄持ちが今は先輩ヅラして後輩引き連れてんのか〜、ケッ。

随分気合入れてたみてえだが無駄な努力だったな!ファンクフリードのおかげだ。おれのファンクはかわいいだけじゃなく賢いからなあ!

なーっはっはっはっ!!!」

こういうときには実際笑いたくなるし喋りたくなるものなのだな、と実感する。

「ンマー驚かせるつもりが驚かされた。まんまとパウリーを追わされた先で麦わらに襲われ撤退させられたのも、社長の手引でしたか」

カクが口を開きかけるが視線で黙らせる。

「へっへっへっ…ニコ・ロビンは海賊以前にオハラの悪魔だ。テメェらが無視できるはずがねえ、関わってねえわけねえ。

一味にゃ刀持ってるヤツだのいるのに、おれを殺しにくるのがなんかの能力者とはいえニコ・ロビン単独とか、怪しまれねえと思ってたのか?

海賊が犯人だと証言させたかったんだろ?せっかく捕またニコ・ロビンを奪回に来られちゃ邪魔だから。

テメェが邪魔に思うような戦力ならそりゃアテにさせてもらうぜ!」

「あ!それで生け捕りじゃったんか!がめついだけかと思うたわ」

殺気溢れる職人たちへのお触れは「ふん縛って連れて来い、総額2億3900万ベリー市長暗殺未遂でさらに罪状上乗せふっかけて海軍に売ってやる!殺したら3割引になっちまう生捕りにしろ!」だった。

それにしても本当にべらべらとよく喋る。

絵物語の悪役も、知らない者たちの前で自分だけが真相を知っていて知らないふりをしていたのだから、笑いたくて話したくて仕方なかったろう。ずっと我慢していたのだろう。

なるほどこんな気分だったのか。

「ンマー…おれのティラノは賢いがかわいくはないかな」

「へ…ヒィッぎゃあァァぁ!??」

「パオォォン!」

五人にばかり目を向けていたスパンダムが誰もいない背後から撃たれる。スパンダムの腹と腿を撃ち抜いた小さな影は、振り下ろされる象の足を避けながらおれに駆け寄ると身体を登り肩に停まった。

「ンマー。ティラノサウルスはかっこいいからなァ」

血溜まりを駆けたため赤く汚れた白い鼠がおれの顎に額を擦り付ける。指先で喉をくすぐってやると嬉しげに鳴いた。

市長暗殺未遂事件の犯人もこのティラノサウルス。ニコ・ロビンには目撃されてもらうために窓の外にいさせただけ。

「ブオォーン」

確かに賢いらしい。攻めても勝てないと理解した象は倒れた主人を腹の下に守り、伏せの姿勢のまま耳を広げ鼻を上げ威嚇する。健気なものだ。

「訂正箇所はいくつもあるが、ンマー…いいか」

あてにしていると言っていたが、スパンダムは麦わらの到着を待っているだろうか。おれとカクは麦わらにやられ撤退したわけではなく麦わらを制圧しこちらに来たと教えたら?それで落ち込むほど海賊に期待する男でもないはずだ。それよりも

「そうそう、思い出した。8年前被疑者死亡で起訴が取り下げられた事件があったな」

「司法船襲撃事件の共犯者ですか?あれは免罪になったのでは」

「いやブルーノ。その後の海列車襲撃、運行妨害だ。

ンマー、スパンダム社長は現場に居合わせ、勇敢にも襲撃者の線路からの排除に尽力し負傷されたそうで。犯人を恨んでおいででしょう」

「『カティ・フラム』」


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