先生捕食記
今日は仕事が山積みだ。シャーレの当番のアカリは積極的にサポートしてくれているが、減った気がしないタスクだけが目に映っていた。
「先生?はい、あ~ん。」
「何って、両手もふさがっていますし、何よりずーっとお仕事続きで先生もお疲れでしょう?だから、はいっ★」
"......ありがとう。あ~~ごふっ!?"
口に入ってきたものは予想だにしえないもの、彼女の指、口内を乱暴に搔き回している。彼女の獰猛な瞳孔に私は覗き込まれる。
"ん~~~!!んむ~~~っ!!"
「先生、私は腹ペコなんです。ちょっと付き合っていただきますね★」
そう言いながらもう一方の手で後頭部を抑えてきた。生存本能が逃げろと命令している。逃げないと。
「可愛いですね~?そんなにじたばたしても、私の腕は離せませんよ~?」
"(息が...意識が...)"
「フフッ★」
目を覚ますと、何も見えない。嫌な記憶だけが頭をひたすらにノックする。どうやら、事態はもっと酷くなっているらしい。目隠し、手錠、足首にはロープか何かが...
「起きました?」
一秒間にも満たない聴覚情報が全身を恐怖で塗り替えた。駄目だ。怖がっちゃだめだ。まず話し合わないと。
"んぐっ...っ......"
猿轡まで......どうしよう...
「先生って、どんな味がするんでしょうね~?えいっ★」
アカリの舌が今、右手の小指の上を這っている。アカリの生温かい息が指の間をくぐっている。アカリの指が首筋をなぞっている。全身がアカリに蝕まれる。これ、どうしようもない...?
「先生~?もう少し先生らしくしてくださいね?生徒に自由にされちゃって、恥ずかしいとか思ったりしないんですか~?」
パチンという音が鳴る。取り敢えず口は自由にさせてくれたらしい。全身を揺らす心臓を抑え込むように声を捻りだす。
"...どうしてこんなこと......はぁ...頼みがあったら聞いてあげる...けど...?"
"んんん~~~っ!!!"
彼女の指がまた、喉奥まで突っ込まれる。前よりも強く。
"ゴホッ!!カハッ......うぅ..."
情けない。今取れる行動がただか弱い声を上げて慈悲を願うことしかない自分の非力さに、彼女のことをただ怖いとしか思えない自分の弱さに、もう情けないとしか思えなかった。
「せ~んせ~い★」
耳元に彼女の唇が当てられる。
「本当に、優しすぎます......こんな拉致まがいなことをした私にも、親切に接してくれるんですね。でも、そんな先生なら、まだ頑張れますよね?」
頭の中を貫くような刺激が襲う。嫌だ。嫌だ。耳を全て覆ったそれは、飴玉を転がすように耳を、耳が、ああ...全身から力が抜けていく......
「あれ?先生?もうダメになっちゃいましたか~?フフッ★いいでしょう。また明日、じっくりお話しましょうね~★」
先生をここに連れ込んでから三日、未だに先生は先生のままです。ご飯は口移しであげましたし、あのタブレットは没収しました。今、先生には文字通り私しかいないはずなんですが...やっぱりトイレやお風呂のときは拘束を解かずに、私がしてあげる方が良いでしょうか?でもそうすると、すぐに心が壊れてしまいそうで心配です。私は、先生が食べたいので。
寝室へ向かうと、相変わらずそこにはベッドの上で沈黙する先生がいます。
いいことを思いつきました。少し準備しましょう......
「先生。今日のニュースで、先生失踪と報じられていました。一旦これを返してあげますから、連邦生徒会などに連絡してもいいですよ。それくらいは許してあげますよ★」
全身の拘束が解かれ、体の節々が痛み出す。でも、そんなことを気にしていられない。モモトークを開き、すぐに4文字を打ち込む。
たすけt
「せ~ん~せ~い★」
送った。送れたはずだ。すぐにあの子たちが助けに来てくれる。私はあとほんの少し我慢すれば良いだけ。
"ごめんね。これ以上付き合ってはいられないかな。"
"アカリには悪いけど、もう少し優しくしてほしかったな。"
「...。」
"...?"
彼女はただ沈黙する。こちらを見てすらいない。
「......先生。私はむしろ、こうなってほしいと思っていましたよ。」
彼女はニヤリと笑う。瞳孔が怪しく開いていく。まただ、逃げないと。今すぐに。
「先生は先生ですから、そうすると思っていました。でも、私は先生を捕まえるためだけに、一途に対策を施し続けたんですよ★」
目にも見えない速さで二本の腕が私をベッドに倒し、抱きしめてくる。
「助けは来ません。先生はお仕置きです。永遠に。」
彼女は目隠しを取る。目隠し。嫌だ。怖い。
"やめて!!!!!"
懸命な抵抗も意味をなさず、遂に視界は失われてしまった。
"嫌だ!!!助けて!!!!!"
「先生...先生の生徒は私だけですよ?なら、私の望みを叶えてくださりますよね?」
"望みがあるなら口で言って!"
「はい。先生、いただきます★」
口の中に、いつもとは違う物が入ってくる。舌?舌が、私の舌を弄んでいる。それと同時に、服が脱がされている。もう、抵抗する気にもなれない。教師失格だ......
「大人しくなりましたね~?先生?はいっ★あれ?メインディッシュはまだでしょうか?」
「しょうがないですね~?耳、ほら...」
全身がびくびくと震える。目隠しのせいで、余計に感じてしまう。
「気づいてますよね?耳を舐められるとすぐにここがおっきくなっちゃうこと...先生は、最初っから気づいていたはずです。よねっ★」
彼女の手がそれを丁寧に包み込む。息が弾むように跳ねる。そこを、まるで息を交換するように、アカリの口が押さえつける。部屋に、私の発する音だけが静かに響く。
「ほら、どうせ逃げられないん...ですから~ぷはぁっ...出しちゃえばいいんですよ♡一回出しちゃってぇ~...全部っ私に委ねちゃえばいいんですよ♡ほら♡ほら♡私の手の中で、ピクピク~って、びゅーびゅーしたいって言ってますよ♡だしちゃえ~っ★」
どくどくと、無様に吐き出す。アカリの手が、下から上へ絞り出す。
「先生♡もう目隠しも要りませんよね?負けちゃいましたもんね♡」
「先生、目が潤んでますよ?かわいそうですね♡ほら、ぎゅ~っ♡」
「安心してください。私がず~っと一緒ですからね~♡」
ペットみたいに扱われるのも、悪くないと思ってしまった。アカリの胸...あったかいな......優しく撫でる腕の下で、ゆっくりと運命を差し出した。