先生として・2

先生として・2




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おおむねこんなやり取りがあった後を想定しています。よき幻覚だよね……



"…ありがとう。ワカモ。"


「あっ、あなた様!?」


座り込む自分の顎に手を添える彼女に応えるように、ワカモの顔に手を添え返した。


"とても、頼もしいよ。"


ゆっくり、ゆっくりと感謝の気持ちを込めるように彼女の柔らかな顔を撫で付ける。指先に手入れされた髪が少し絡んではすり抜ける。

先生が、生徒に勇気付けられることもあるのだ。

後悔はきっとこの先永遠に消えないだろう。だが、奇跡を起こす覚悟は、確かに整った。


"本当に、ありがとう。"


きゅっ、と彼女の顔に自分の手のひらを押し当てる。低い体温が、彼女の熱い頬と混じりあい、少し暖かくなった。


「あなた…様…そのぉ…そろそろ…いえ、このままでもよろしいのですけどぉ…」


"あっ…ごめん。"


先ほどまでの災厄を呼ぶ蠱惑的な狐はどこへやら。そこにいるのはただの赤いきつねである。

手を離すと、少しだけ尾を引かれるような顔をした後、すっと仮面を装着する。


「ふふ、ふふふ…どういたしましょう。今のだけで大分満足してしまいましたわ…あぁ、もしこの先の艱難辛苦で似たようなことが起きてしまったら、私、もう!!」


顔は隠しているが、ぴょんとその場で跳ねていて、とにかく上機嫌なのは伝わった。思わずやってしまっただけだったのだが、やけに喜んでもらえたようだ。

…だが、今から思い付いたことを彼女に実行してもらうには、これぐらい機嫌がよい方がいい気がする。

なんとなく、あくまで直感なのだが。


"それで、早速なんだけどさ。ワカモ。"


「はいっ!あなた様!何からいたしましよまう!インフラの破壊?流通網に打撃?他会社に粗悪品を市場に流通させて労力を使わせます?あなた様のためなら、私なんでもいたしますわよ!!」


"あのね…"


嬉々としたテンションに浮かされて、すさまじく物騒なことを提案するワカモを制しつつ、彼女の耳にそっと、とあることを聞いた。


「・・・」


「え~~……」


ダダ下がりだ。

さっきまでのテンションが嘘のように、数秒固まった後、普段の彼女が自分の前では滅多にしないため息までついた。


"お願い!どうしても彼女の協力がいるんだ!"


「はぁ~~…承知いたしました、あなた様。ですが彼女、このような事態でも協力するとは思えないのですが…」


"ダメ元でもいいんだ。"


きっと今の状況そのものは、彼女も快くは思っていないはずだ。

そこにきっかけと対価があれば乗ってくる可能性は十分あると、そう思いたい。


「可能性があるとしたら……いえまさかそんな。」


"…?どうしかしたの。"


「お気になさらず。あり得ない些事ですので。…では、いくつか準備が必要ですわね。」


"あぁ、それなら大丈夫。頼れる助っ人を呼んだよ。"


ワカモがいくつか思案をしている間に、とあるメールを一本だけ送った。きっと今の状態に置かれている彼女なら、これだけでも来てくれるだろう。


"それと……はあ…"


「あら、あなた様。先ほどの私によく似たお顔になっておりましてよ。」


"はは、ちょっと、ね。"


はっきり言ってこの手はあまり使いたくはない。

が、『アビドスのこと』を学校なしで解決するならば、声をかけざるを得ない。

…おそらく彼らも待っている。


"後は書類、かぁ…"


これが一番面倒かもしれない。普段からサボっているツケが来ている。だが、絶対に必要な取引だ。


まだやれること、やるべきことは山積みだ。

とりあえず。


"ワカモ。"


「はい?」


"立たせて…"


腰が抜けていることを知ったワカモはその後、先生を傷つけたことに大泣きして大慌てをし、なんとかなだめすかしたところで自分をお姫様抱っこして、シャーレに送ってもらった。

道中生徒たちの視線が自分に釘付けだったのは言うまでもないし、今度は自分がほんのり赤くなったのも、当然のことであった。



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