先天性男性景♂晴のお風呂でのあれそれ
何度目かの川中島の後、やっと入れた湯の中で手足を思いきり伸ばした。甲斐にあった隠し湯には遠く及ばないがカルデアのものも悪くない。あいつがいなければ中々のものだと満喫できただろう。
そう思いながらちらりと目線を向ける。その先では生涯の宿敵である景虎が今まさに同じ湯の中に入ろうとしていた。今なら誰もいないと考えていたのに、景虎と二人きりになってしまった。
一言『帰れ』と言いたいところだが、ここは共同の場所だ。勝手に入られても文句は言えない。ただ……それでも一言言いたい。
何でこいつはわざわざ俺と同じ時間帯を狙ってくるんだ!
頭を抑えながら、ついあいつの顔から下へ目線をやっていた。端正な顔立ちの下には白い肌と引き締まった身体がついていた。いつもは鎧で見えないが……身体の色は顔とさして変わらないだろうし、片手で武器を軽々と持てるから鍛えられているのは当たり前だ。ある程度予想はできることだが、実物を見るのは初めてだった。……少々ムカつくが、景虎は顔だけじゃなく身体も好みだった。
生前からあいつの顔立ちは整っているとは思っていた。それに時代が時代だからそういう経験はあったしそれなりに好んでいた。(恥ずかしいことだが手紙まで残っているらしい……恥ずかしいことだが!)
ただ、あいつでそういうことを考えたことはなかった。それは敵であるあいつへの侮辱行為だと思っていた。
それなのに……あいつの裸を見たせいか、疲労のせいか、あるいは宿敵だが協力する仲間という関係のせいか、いらない想像を掻き立てられた。あいつと口づけを交わし、手を取られ、体にかかる重みに従って床へ――いや待て。
俺は今、何をどう考えていた?
頭を抱えたまま項垂れる。……どうやら本格的に疲れているらしい。もったいないが今日は寝てしまおう。
そう思っていたが、残念なことに叶えられなかった。他ならない景虎のせいだ。
「晴信ー頭なんか抱えちゃってどうしたんですか?」
いつものような軽い口調で景虎が距離をつめてくる。おまけに伸ばしていた足の上にまで乗ってきやがった。
見えていた情報が、質量をもっておそいかかってくる。心臓がドクリと音を立てた気がした。
「……帰れ」
「いや帰れって言われましても……今のあなたを放っておくとかできませんよ。とりあえず顔を見せてください」
景虎は難なく顔を隠していた俺の手を握り、取り払った。はからずも、想像していたそれと似たような状況になってしまっていた。
「……真っ赤ですね」
「のぼせたんだよ」
隠すものがなくなった俺をまじまじと眺めてから景虎が一言。反射的に『のぼせた』と言ったが全くの嘘ではない。実際、まともな思考はできていないような気がする。
とにかく今はあることに気づかれる前に立ち去って欲しかった。
「本当ですか?」
だが、そんな願いもむなしく景虎は離れない。むしろ笑みを浮かべながら体を近づけてきた。
いつもとは違う扇情的な笑みを見て、思わず喉が鳴る。
「だって晴信のそこ、反応してますよね」
景虎が耳元で囁いた。こいつの右手は俺の下半身を指差していた。