兄妹の模擬戦
「本当にやるのかウタ。」
「もちろん。いつまでもルフィにおんぶに抱っこじゃいけないからね。2年のブランクの分しっかり取り戻さないと。」
革命軍の隠れ家である島の海岸でウタとサボは臨戦体制を取っていた。ウタが今の自分の実力をはっきり自覚する為に模擬戦をしたいと言い出したらからである。
「ウタ!応援してるからな!頑張れよ!」
「勿論だよ!任せて!」
遠くからエースの隣でその様子を見守るルフィがウタに声援を送る。
「ルフィ!兄ちゃんには応援くれないのか?」
「しねェ!おれはウタの味方だからな!」
「安心しろサボ。おまえはおれが応援してやる。」
ウタにだけ声援を送るルフィにサボは抗議をするが返ってきた返事に撃沈する。そんな様子を見てエースがサボにフォローを送る。まるで開戦前とは思えない穏やかな雰囲気だった。
「じゃあ行くよ。サボ。」
「こい。」
ウタは腰に掛けた鞘から刀を抜き放ち右手で構え、左手にマスケット銃を構える。対してサボは右手に鉄パイプを構え、左手の指を3本に分ける独特な構えを取る。
一つの波が収まるのを合図にウタが動き出す。
「剃」
六式と呼ばれる体術の移動法“剃”で一気に直線距離を詰め、勢いのままに右手の刀を突き出す。
それに対しサボは右手に持った鉄パイプを軽く動かすだけで位置を整え刀の先端を受け止める。
「竜爪━━」パァン
迎撃に左手を構えたサボだが、ウタがマスケット銃を構えてるのを察知し即座に構えを解き銃撃をかわす。
「嵐脚‘円舞曲’(ワルツ)!」
回避したサボにウタは嵐脚で追撃をかける。しなやかな脚から繰り出された斬撃は踊るように混じり合い予測不能の軌道を描きサボに襲いかかる。
サボはその斬撃を鉄パイプを一振りし纏めて薙ぎ払う。
「強いね。」
「もうやめとくか?」
「冗談!」
ウタのぼやきにサボは軽口を飛ばしそれに対しウタは笑顔で答える。
「開演!!」
ウタの号令と共にウタの周りに20以上の音符が出現する。ウタの持つウタウタの力の応用だ。
「上手!コン・ブリオ!エネルジコ!ブレスト!」「下手!アジタート!グラーヴェ!ラルゴ!」
ウタが指揮棒のように刀を振るうと同時に2つの声が響く。するとウタから見て右側の音符の内3つがウタの側で弾け、左側の音符の内3つがサボの側で弾ける。
「なるほど。こいつは厄介だ。」
その効果は劇的であり、食らったサボは苛立ったように顔を顰める。
「上手!コン・フオーコ!」
ウタは叫ぶと同時に走り出す。それに追随するように右側の音符がウタの刀に取り付き火を起こす。
そのまま振られる刀を体が重くなったサボは鉄パイプによる迎撃は間に合わないと判断し即座に左手を握る。
「魚人空手、四千枚瓦正拳!」
水を制する魚人空手の一撃は、多少不完全な姿勢から放たれたとしても充分な効力を発揮し、ウタの刀の炎を打ち消してウタの体ごと弾き飛ばす。
ウタは空中で体勢を整えて着地する。
「もう食らわないぞ。過剰な覇気に能力は通用しない。」
鉄パイプを背に担ぎながらサボはウタに宣言する。それにウタは行動で示す。
「上手!フォルテ!クレッシェンド!」
2つの音符がウタの近くで弾ける。それを見てサボは腰の水筒の水でその手を濡らす。
「剃!嵐脚‘協詩曲’(ラプソディー)!」「竜水拳、竜の顎!!」
ウタはサボに近づきその脚を振るう。それに対しサボの手の中で水は竜の頭部を形作りウタの脚とぶつかる。
だが、膠着は一瞬で解けウタはサボに押し返される。弾かれたウタは砂浜に叩きつけられる。叩きつけられたウタは身体中に切り傷が出来ておりボロボロだった。
「ぐッ……まだまだ……」
「ウタ。もう終わりだ。」
それでもまだ立ち上がり、サボに向かって行こうとするウタをいつの間にか近づいていたルフィが抱き止める。
「ルフィ……ごめんね。もっと強くならなきゃいけないのに……」
「大丈夫だ。ウタならすぐ強くなれる。おれより強かったからな!」
ルフィの腕の中で涙を流すウタをルフィは励ます。
「悪いウタ!ちょっと力が入っちまった。」
「ルフィ。ちょっとウタを出せ。応急処置をする。」
エースとサボが走り寄って来る。ルフィはウタをエースの方向へ向け、エースは手のひらから青い炎を出してウタに当てる。
「これは…」
「マルコの再生の炎だ。特訓中に同じ炎ならメラメラの力で取り込めるんじゃないかと思ってな。試して見たら出来たって訳だ。あいつの炎ほど回復力は無いけどな。」
「暖かい…エースの温もりを感じる。」
ルフィの疑問にエースはウタに炎を当てながら答える。ウタはルフィの体温とエースの炎の熱を目を瞑りながら感じる。
「ウタの課題は攻撃力だな。能力の音符を使った器用な動きや機動力は申し分ない。」
「そうかな。サボに攻撃を全部見切られてたしもっと出来る事があると思うけど。」
治療の間、サボがウタと戦って感じた事を言い、それにウタが返す。するとその会話にルフィが入って来る。
「それなんだけどよ、覇気や六式の訓練をウタワールドで、能力の練習をこっちで出来ないか?ウタは分割思考ができるし時間を有効活用出来ると思うんだけどよ。」
「「「………」」」
「な、なんだよ…」
「エース。おれらの自慢の弟は立派になったな。」
「ああ。あの悪ガキがこうも立派になって…」
「なんだよ失礼だな!エース達も悪ガキだったじゃねぇか!おれの方が海兵になった分ゆーとーせいだ!」
ルフィの抗議に兄2人は苦笑いをしながら答える。
「よし。ルフィ!おれらも軽く模擬戦するか?」
「おう!今日こそおれが勝ーつ!」
治療が終わったエースが立ち上がり、ルフィもウタをサボに預けて立ち上がる。
「行くぞエース!」
「来いルフィ!」
2人は少し離れて拳を構える。まるで鏡写しでもしたかのようにそっくりな構え。
「ゴムゴムの銃!!」「火拳!!」
繰り出された炎の拳とゴムの拳は、ぶつかり合わずに黒い稲妻を発生させる。そして、天が割れた。
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《ウタの技》
ウタを指揮者、音符を楽器とし楽器達は歌姫のステージにピッタリの音楽を鳴らす。
開演:音符を出現させる。音符は特定範囲内をウタの思うままに動く。弾けた場所の近くにいる人や物にさまざまな効果を与える。持続時間は大体4分程度。
上手、下手:上手はウタから見て主に右側の音符、主に良い効果を与える役目。下手はウタから見て主に左側の音符、主に悪い効果を与える役目。
コン・ブリオ(活気をもって):精神的に強くなる。覇気や回復力が強くなる。
エネルジコ(力強く):筋力が上がる。一撃の強さが上がる。
ブレスト(急速に):速度が速くなる。
アジタート(激しく、苛立って):イライラして来る。判断力が鈍って単調になりやすくなる。
グラーヴェ(重々しく、荘重に):重くなる。相手の得物や特定の部位に付けるとバランスを崩したりも出来る。重さを生かした攻撃も出来るのでバフとして使う事も出来る。
ラルゴ(もっと遅く):速度が遅くなる。
コン・フオーコ(火のように、生き生きと):火をつける。延焼はしないが特定部分を継続的に焼き続ける。
フォルテ(強く):筋力が上がる。一撃が強くなる。
クレッシェンド(だんだん強く):だんだん力が強くなる。段階的ではなく緩やかに上がっていく。