兄カルナルート 御前試合編 その2

兄カルナルート 御前試合編 その2


運命はカルナを選ばない。

「兄様はどうしてアルジュナと戦いたいんだ?」

わざわざ五王子と勝負をしなくてもドローナ師が認めるほどにカルナは強い。

「・・・どう言えばいいか。相対することが宿命に感じる。」 

宿命、宿業、神の思惑。今を生きる生命がどうしてそんなものに囚われなければならないのか。

「スーリヤとインドラの因縁か、どうして兄様を神の代用とするのか。」

運命は繰り返す。スーリヤがインドラに破れたのなら、ユガが廻るように運命も鳴動する。

「御前試合で勝負を持ちかける。」

「兄様、まさか飛び入りして上手くいくと思ってる?」

「・・・駄目か?」 

「顔がいいけど駄目ですぅ~。法が大好きな王族には通じないですぅ~。」

無理を通す方法は、知っている。一番簡単、そうとあれと望まれた位置に戻るだけのこと。でもそれは俺がアーユスではなくなってしまう。

「俺がアルジュナを引きずり出そう。」

夢物語と笑われるだろう。無理だと言われるだろう。稚拙な計画、矛盾だらけの計画、上手くいく方が無理がある。

「百王子の長兄。あれは正しさに囚われすぎている。」

「全員潰すか。」

「兄様~話聞いて。」

カルナは最近百王子の話題を出すと不機嫌になる。長兄以外はいい奴等なのだか。

「兄様と俺はあれにとって、まつろわぬ民。王家に楯突く害虫。挑発すれば絶対に出てくる。」

実際に出てくるのは弟だろうが、正しき王家を守るという建前を振りかざして立ちはだかるだろう。

「俺が、百王子を何とかする。」

百王子の獲物は棍棒、棍棒術はドローナ師とバララーマ師からのお墨付きを貰っている。

「百王子がどうにかなれば次に出てくるのはたぶんビーマだ。1対1ならなんとかなる。引き分けにまでは必ずもっていく。ユディシュティラは時期王なのだから次に出るのはアルジュナだ。」

正直ビーマとは力勝負と持久戦では相手をするのは無理だ。受け流してのカウンターで、自滅覚悟の相討ち狙いしかないだろう。

だけれども、今の自分は、それでいいと思っている。

「兄様に降りかかる悪業は全て俺が払い除けよう。」

自分は地に咲く花にしか手が届かないのだから。


質素な硬い寝台は寝心地が悪い。それでも王宮に仕えている分まだましなものだがだんだんとカルナが成長するにつれ二人で寝るには狭くなった。

「アシュヴァッターマンは怒るな。」

修行先は遠い。御前試合にアシュヴァッターマンは間に合わない。

「俺はお前のためならアルジュナを諦めてもいい。」

わずかな光でも黄金はキラキラ瞬く。感情でも耀きが変わると気がついたのは何時だったか。

「・・・兄様は嘘が下手だな。」

明日はいよいよ御前試合だ。御者の息子と使用人に出来ることは限られている。その限られたなかでも打てる手は打った。アシュヴァッターマンが間に合わないことはドローナ師への礼だった。巻き込まないにこしたことはない。

「本当だ。不思議だが、アルジュナへの使命感はあるが、それでお前がいなくなるのは違う。」

「俺は兄様拾われた。棄てられるなら俺の方だ。」

「アーユス、俺の弟、俺だけの、弟だ。」

「俺の兄様はカルナだけだ。」

何もかも諦めて二人で、あるいはアシュヴァッターマンやドローナ師とともに旅にでも出てその日を精一杯生きる選択もあった。一度でも計画が狂っていたら、そうなっていた。

あまりにも愚か、間違いだらけ、二人で生きることもできたのに、二人生き急ぐなんて。

カルナのための舞台を、最高の結末を用意しよう。

終わるなら、明日で終わってもいい。


今までの軌跡が、頭をよぎる。現実逃避であることはわかっている。


仮面が、割れる。ビーマが出てくる所までは読んでいたのに、三つ、足りなかった。

「なんだ?お前、ドゥフシャーサナに似てるな。」

百王子とビーマが協力関係にあったこと、百王子の目的が自分になっていたこと。

「なぁ、スヨーダナ。お前より似てるなぁ。」

何よりも神の怒りを甘く見ていた。




初めて、俺だけのものが出来た。


「アーユス。」


俺のための生命、俺が俺であっていいと言ってくれる。養父は優しかった。でもそれは俺がこの鎧を持って産まれた普通ではない子どもだったからだと、アーユス共にいてわかった。アーユスは養父に歓迎されていなかった。それでも多少の無理をきいていたのは俺が望んだからだ。


アルジュナを見ると血が騒ぐ。あれに勝てと頭に響く。だから、戦わなくてはと思っていた。

アーユスは気がつくとアシュヴァッターマン、ドローナ師、バララーマ師、王宮の使用人をたらしこんでいた。百王子やビーマも怪しいところがある。俺のためにアーユスが頑張る姿は嬉しい。アーユスが見つかるのは嬉しくない。

それでも二人で色々試したり、他愛のないこと全てが得難い俺にとっての奇跡だったんだ。


「俺はお前のためならアルジュナを諦めてもいい。」

胸の宝珠が僅かに熱を持つ。スーリヤの遺恨が、インドラへの怨恨が、アルジュナと戦えという。

「・・・兄様は、嘘が下手だな。」

紐付けられた運命が俺たちを選ばないというのに宿命が変えられないというのなら一度だけ、アルジュナと相対することで物語の中の俺たちを終わらせられるだろうか。それで神々が納得するのなら、それでいい。満足しないならこの黄金の鎧を天に還そう。

そしてただのカルナとなって、お前と生きていこうと、思っていたんだ。

俺は、お前がいれば、良かったんだ。


「お前が百王子の本当の長子か?」


俺の弟なんだ。



兄様:初めて自分で選んだ運命を大切にしたい。大切にしたい。

凶兆の子:無差別脳焼きのつけが回る。

可愛い弟:外出中。早く戻ってきてくれ。


クンティー様:若気の至りという言葉を噛み締めている。気絶したい。


余談

ここから入れるユユツ君の保険はシャクニ骰子生命保険しかないです。

Report Page