兄カルナルート 御前試合編その3

兄カルナルート 御前試合編その3


百王子のことを調べた。長兄は俺と同じ日の昼に産まれた。夜にはドリタラーシュトラの私生児が死産、母体も犠牲になったらしい。つまりは、そういうことだ。砕けた仮面の下の顔を初めて見た。最近良くみていた顔と良く似ていた。

「なんだ?お前、ドゥフシャーサナに似てるな。」

百王子より小さく甘い印象はあるが系統は同じだった。

「なぁ、スヨーダナ。お前より似てるなぁ。」

カルナは百王子がなんとか留めている。二人の眼がうるさい。仕留めるからもう少し押さえてろ。

「お前が百王子の本当の長子か!」

本来のものを、本来の地位に。

「あの平民の弟ではないだろ!」

俺に立ち塞がったお前を見つけた時、足りないものが見つかった気がした。骨を折っても木から落としても水にのませても誰も止めもしなかったのに、お前だけが、俺を見た。

「百王子の長兄を驕った奴は後回しだ。まずは、なぁ、王族を誘拐した平民の処理について、話し合おうぜ。」

楔は壊す。平民にこだわってんのはそいつのせいだろ。

「誘拐ではない!助けたのだ!」

ドゥフシャーサナ、口くらい塞いでおけよ。話が途切れるだろ。

「普通の人間が赤子の時のこと覚えてるわけねぇだろ。盗まれた。あれは体裁を整えるための身代りだろ。そこまでしてアルジュナに殺されたいとは、強欲が過ぎるな。」

これが、正しさだろう。お前が覆すためには同じ王族の土俵に上がるしかなかった。だがお前は自分から上がらなかった。仕方ねぇから、引き上げてやる。心残りはない方がいいだろ。

「王族を、よりによって血と肉を分けた弟を害させた。それを晒したのはその平民、罪は、裁かれる。」

「違う!逃げろカルナぁ!!」

動けないよなカルナ。アルジュナの弓がお前の弟に標準を合わせてるからな。大丈夫だ、お前が死んでも元に戻るだけだ。

「死ね!!」

俺の因果を返してくれ。


「待って!」


この場に相応しくない女の叫びとともに背中に僅かな衝撃がはしる。

「・・・母君。不届きものを庇うとは、如何なものでしょうか?」

走ったのだろう。背中に感じる息は荒い。早くあれを殺さなければいけないというのに。

「いけません、ビーマセーナ。ヴァーユの子。彼は、私が呼び出した神の子、スーリヤの半神です!貴方たちの、兄なのです!!」

己を中心に渦巻いていた風が、思わず止まる。

「・・・は?」

それは聞いてねぇぞ、すぐ殺せねぇじゃねえか。

「それは、本当ですか?」

兄貴まで来やがった。

「ええ、ええ、ユディシュティラ。パーンドゥと結ばれるよりも以前に過ってスーリヤを呼びだしてしまった。せめてものと私は黄金の鎧をスーリヤに願ったわ。その鎧、間違いなく私とスーリヤの子。」

「母君、それでは証明になりません。鎧など奪ってしまっても成り立つのです。」

「いいえ、カルナは私の息子です。」

「母君、あれは百王子の長子を手中にしていました。早く殺さなければ我らとカウラヴァにも牙を剥くでしょう。」

カルナが一騎当千の戦士であることは、認めざるを得ない。だからこそ今殺すのだ。

「遺憾だが、俺の父はスーリヤであることは間違いない。養父は俺を拾ったときには鎧を身につけていた。百王子の長兄かは知らんが川で溺れかけていたところを俺が拾った。」

「今は俺が母君と話している!」

「ビーマ、落ち着きなさい。母の証言は彼の人成らざると思わせるところで納得できます。それに、カルナと母の足を見てみなさい。そっくりではありませんか。」

兄貴が言いたいことはわかる。だが、俺よりもあいつに執着されている事実に苛立ちが収まらない。

「半神であることは認めてもいい。だが五王子の兄であることの実感はねぇ。神の加護でも見せらせれねぇ限りは無理だ。」

認められない。五王子の長兄など、百王子の長子の隣にいても問題がないことになる。あれは俺の運命なのに。

「・・・いいだろう。あまりやりたくはないが神の加護を見せよう。」

柔らかな光とともに金と赤が基調の鎧が白銀と青に、形そのものも切り替わる。

「これは梵天の加護。ブラフマーストラの真意を知る過程で得たものだ。お前たちに良く似ているだろう。」

パーンダヴァの青の祝福、顔が歪む。これでは殺すことができなくなった。

「・・・日が暮れました。色々ありますが戦いの時間は終わりです。明日、一度仕切り直しましょう。よいですね、ビーマ、百王子。」

「それで構いません。ユディシュティラ。偽者についても此方で一旦捕縛しています。彼は彼が好む法の上で裁かれることを望むでしょう。それでは、明日に。」

ヴィカルナがいつの間にか後ろに立っていた。獲物は既にいない。行動が早すぎる。

「カルナ、貴方は我々と、貴方の弟は百王子に任せましょう。」

「無用だ。アルジュナと戦えなければ無意味だ。弟を返せ。」

「うーん百王子の方が弟さんを離す気がないみたいなので、明日にしませんか?私も兄弟として貴方のことが知りたいのです。」

「これまでのことを母にも教えてもらえますか?」

「不要だ。」

いいぞ兄貴、母君。それを野放しにすると間違いなく拐っていくだろう。半神でも母君が押さえていれば今晩はどうにかなる。

「俺は百王子の方に泊まるぞ。自分を殺そうとした奴が近くにいない方がいいだろ。」

「お前が?俺を?無理だが?」

「・・・兄貴、こいつ殺そう。」

やはりここで消しておこう。

「ビーマ、待ちなさい。百王子の方に行っていいですから。」

「おう!後は兄貴に任せた!」

風に乗ればすぐに追い付く。仲良くしようぜ、従兄弟殿。




ビーマ:実は百王子の長兄が友好的なことに最初から違和感があった。汎人類史の因果の影響を少し受けている。因果を戻そうとしたら兄が増えてびっくり。

百王子:長兄戻るぞ~と(0゚・∀・)wktkしてたらなんか五王子の長兄も出て来てびっくり。

カルナ:弟はアーユスですという気持ち。はよ返せ。

百王子長兄(真):自分の食育には成功しなかったため美少女faceは健在。ユディシュティラの話の途中で早々に百王子の王宮に連れ去られる。99人いるのはずるいと思っている。




余談

カルナ語録

無用だ。アルジュナと戦えなければ無意味だ。弟を返せ

→お気遣いありがとうございます。ですが私たちの目的はアルジュナと勝負をすることだったので、出来ないのであれば帰ります。これ以上は勝負もできなさそうなので弟と一緒にこの地からも立ち去りますので弟を離してください。

お前が?俺を?無理だが?

→黄金の鎧がありますので貴方が私を殺すことはできません。弟に手出ししたら殺すぞ。




暗い、冷たい、硬い。入り口は閉ざされている。百王子の長兄であったのに、今は王族を驕った犯罪者だ。どうしてこんなことになった。正しいことをしていただけなのに。私は何だ、誰だ、私は一体何に成ればいいよかったのか。

ギィ、と立て付けの悪い扉が開く。逆行で顔は良く見えない。

「よぉ。愛しい甥。生きてるか?」

知る限り一番のロクデナシの声だ。

「・・・シャクニ叔父様。」

その顔は百王子を少し似ている。自分とはあまり似ていない。

「あーすまんなぁ。流石のわしでも半神どもを前にお前を擁護出来んかったわ。」

わざとらしい猫なで声。

「上手いことしてやられたな。ドゥリーヨダナ。」

「ドゥリーヨダナ?」

「あのちっこいのに言われたのを拝借したがなかなかよい名だ。」

「あっちが、本当の貴方の甥でしょう。叔父様。」

この髪色だけは百王子と同じでも、それは父から受け継がれたもので、私自身はシャクニとはなんの関係もない。

「わからんか?わしは間違っている方の味方をする星回りに生きておる。出目の悪さか愛しいなぁ、善意が悪意と移り変わることのなんと美しいことか。」

間違っている?最初から私の存在が間違っていた?

「お前をここから出してやってもいい。」

悪意の声だ。

「悪い話じゃないぞ。」

耳を傾けるな。

「正しきを導くのだろう?。」

考えるな。考えてしまうな。自分の不幸を引き起こしたあれが憎いなんて。

「お前から正しさを奪った奴は卑怯だな。」

私はただ正しくあっただけだ。パーンダヴァを受け入れた。五王子には出来る限りの援助をした。信頼関係は私にあるはずだった。

「ドリタラーシュトラの長男、百王子と長女の兄という立場をお前に奪われた怨みを募らせパーンダヴァとカウラヴァを、王宮を手玉にとって自分が長兄に戻りお前にダメージを与える最善を尽くした。」

わかり合えない弟たち、肉も魂も分けていないのだから当たり前だ。仮面の下の顔を弟は教えてくれなかった。その頃にはもう私の弟たちではなかったのだ。誑かされたのだ。

「お前は俺の賭け乗れ。」

私は公明正大な男になりたかった。名の通りに生きていた私はどうして牢にいるのか。

「元通りにしてやろう。サイコロの出目なんぞいくらでも変えてやる。お前は悪くない。何も知らず知ろうともしなかっただけだ。それがなんの罪になる?」

気づく機会は、今に思えばたくさんあったのかもしれない。それでも誰も教えてくれなかった。弟たちがちゃんと人だなんて。

「怒れ、恨め、諦めるな。お前の正義の全てを持って対峙しろ。」

どうして正しい行いをしたものが虐げられなければいけない。ユディシュティラを支えていたのは私なのに、私の功績をかっさらっていった。

「同じ恨み辛みをあれが持ったとき、因果はあれに帰る。骰子はお前に祝福を与えるだろう。」

ここに残っても既に積んでいる。百王子の長兄は奪われた。

「どうする?ドゥリーヨダナ。お前は何者になる?」

ドゥリーヨダナ、悪い男、弟たちにしてきたことを考えればそれは確かに私のことだ。

「・・・今はドゥリーヨダナだ。今は、だ。」

但し、それを上回る善行を積んでいる。いきなり現れて全てを壊すことの方が罪が重い。

「いいだろう、来い。お前の母と妹も待っている。父も回収してあるからな。家族水入らずで過ごそう。」

私は、悪意の手をとった。とって、しまった。



ドゥリーヨダナ(ユユツ):保険に入れました。よかったね!

Report Page