兄カルナルート 女神魔性転生 クルクシェートラ7

兄カルナルート 女神魔性転生 クルクシェートラ7


シャクニの制約が、切れる。黄色い水、あれはギーだ。背中から生えた背鰭のようなものは長く伸びて地面に埋まったままだ。

カルナの弓が頭を狙うが右腕に弾かれる。ビーマとスヨーダナの棍棒も他の腕で弾かれる。アシュヴァッターマンの槍は本体に届かない。

「綱さん、宝具を。マーリン!英雄作成、ガネーシャさんも強化を!」

「ああ。」

「みんなどいて!!」

前衛の三人が身を引いた瞬間に綱が宝具を展開する。

「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前ーーー我が剣、魔性を斬る物、大江山・菩提鬼殺!!」

魔性特攻の宝具でも深いダメージは入っていない。

「めっちゃ硬い!!」

「特殊耐久だねぇ。あれを剥がないと。」

「神の器として調整され尽くしているからなぁ。そいつの魔性特攻は良かったな。一歩足りんが。」

「殺す。」

「俺に注意してていいのか?お前の援護がないと前衛が死ぬぞ。」

「殺す。」

「背中から襲うことなどせんさ。」

ものすごく嫌そうな顔をしてカルナは弓をつがえる。ついた傷はついた端から治っていく。そもそも攻撃が通じていない。聖杯の魔力と、他にもありそうなことは、大地との接続。

「背鰭を狙うのはどうっすか?RPGボス戦の定番弱点狙いっす!!」

「お願いします!」

マスターの声に合わせて腕をカルナが射る。他の腕を三人が抑えて綱が尾鰭を吹っ飛ばした。

「硬ったい!」

「けど傷は入ってるっす。」

「次は宝具でいく!魔力回します!!クリティカルも連続でいきます、バスターで!!」

「承知した。」

刀に炎が宿る。鬼を斬る刀の連撃が大地と繋がっている背鰭を切り落とした。

 

「ーーーーー」

 

少女の口から言いようもない、声にならない、声が、響く。この感じは、記録と記憶で知っている。神様の嘆きだ。切断したはずの背鰭が大地にもう一度刺さる。そして少女の体を大地が肉付ける。

 

ーーーーーピシッ

 

角に罅が入る。地面が揺れる。ギーの池が溢れる。壊れていく。

「一旦引こう。ここでは生き埋めだ。」

「みんな、引いて!!」

天井が落ちる。

 

 

 

王宮の西へ、走る。質素だがしっかりとした作りの建物の奥に、父はいた。一人ではない、他に、二人いる。小さい影と、大きくはないが小さくもない影が二つ。

「遅いぞ。」

「処置は終わっている。お前たちは早くここから離れろ。」

見慣れぬ風貌、国のものにしては白い肌は異国のそれだ。小さい方の声は思ったよりも低い。

「カルデアか?」

「そうだ、馬鹿王子ども。さっさと連れて行け。」

小さいくせに、人を煽ることが好きなようだ。ドゥフシャーサナをヴィカルナが抑えている。

「どうしてカルデアが父上と一緒にいる?」

「治療だ。呪いならどうしようもなかったが、毒による体調不良であれば僕の領分だ。風土病ならより良かったが。お前たちも健康そうだ。特に興味は・・・お前はちょっといいな。診察させろ。」

長い袖越しに遠慮なしに触れてくる男も少しおかしい。

「待て、急いでいる。ドゥフシャーサナ、ヴィカルナ、王を連れて戦車までいけ。できるだけ離れろ。」

「お前、どうするつもりだ?」

「私は戻る。こいつらをスヨーダナのところに連れて行かなければ。」

「お前は面白そうだな。道すがらでいい。俺にお前の話を聞かせてくれ。」

「何なんだ!お前ら、話に水を差すな。そもそも誰だ?」

どうしてお前たちは俺に迫ってくるのだ。

「アンデルセン、ただのしがない童話作家だ。」

「アスクレピオス、僕は医者だ。」

知らない名前だ。カルデアのいう、別の国の英雄、童話作家が英雄なんてどう言うことなんだとは思わないでもないが。

「連れて行くなら急いだ方がいいぞ。帰り道の方が険しいことなどよくあることだ。」

地中から、カリが湧き出ている。シャクニは帰り道のことは言及しなかった。

「急げ!!」

弟たちが父を連れて一目散に駆けていく。それでいい。俺も行かなくては。

「おい、お前、俺を担いでいけ。」

「はぁ?」

「俺が置いて行かれるだろう。俺は作家だぞ。肉体労働は契約内容にない。カリの一撃で簡単に死ぬぞ。」

「おい、急げ。一点突破で切り抜ける。」

「医者で大丈夫なの、か?」

医者は目の前に現れたカリを打ち倒した。

「行くぞ。」

「・・・カルデアの医者はみんなああなのか?」

「三人に二人はそうだ。さっさと担げ。」

無言で小さな体を背に担いだ。

「しっかり捕まってろ。」

「言われるまでもない。」

首に回る腕に力が入る。そういえば、弟にもおんぶなんてしたことなかった。

 

来た道を戻る。カリは無尽蔵に湧いてきた。

「どうして父とお前たちが一緒にいたんだ?」

「聞いていないのか?」

「はぐれサーヴァントが一人いただろう。」

サーヴァントなんて、カルデアからのもの以外にいたのか。

「いないが?」

「いただろう。なかなかに醜悪で複雑な男だ。」

摩訶不思議な力を使うおかしな男は、一人知っている。

「・・・シャクニか?」

「知っているじゃないか。」

「レイシフトと同時に声がしてな。病魔の気配につい引き込まれた。」

「俺を巻き込んだのは問題だがな。」

「結果的に良かっただろう。マスターと一緒なら肉体労働させられていたぞ。」

ちょっと待て、今、大事なことを聞いたような、根底から覆ることを聞いたような。

「待て、シャクニは、味方なのか?」

「醜悪だったのは間違いなかったな。悪役ムーブでもしたか?」

無言でいると、背中でアンデルセンがため息をついた。

「それはそれで正解だろう。胡散臭いやつが正論を言っても誰も動かん。」

「シャクニが?」

信じられない。あの男が、そんなことするだろうか。サーヴァントになれば違うのだろうか。

「あれが随分と魔性を抑え込んでいた。やはり条件付きとはいえ制約を課す部類の宝具は強いな。」

「己にも制限はかかるが抑え込むにはいい方法だ。」

「どうして・・・」

「何だ、知らんのか。古今東西人が命をかけて行動する原理は決まっている。ひどくどうでもいいことに命をかけるのが人間の愚かなところさ。」

命をかけて守るもの、そんなもの俺にあっただろうか。弟の命すらどうでもいいと思っていた自分に、あの男すら持っているものを俺は持っていないのだろうか。

 

俺が今走っている意味は何だろう。わかっている。保身だ。やってきたことは、変わらない。ユディシュティラが認めようと、弟たちが俺を許すかどうかは別問題だ。許す気などないだろう。もうすぐ、スヨーダナと別れたところに着くところで、地面が揺れる。地面が、膨張する。肉とも岩とも形容し難い異形のものが、どんどんとでかくなる。あれは、一体なんだ?

「あー死ぬかと思ったっす!!」

「マーリンの無敵付与間に合ってよかったー!!」

「いやー呪文噛まなくてよかったよかった。」

カルデアはカルデアで、カルナはスヨーダナと赤い髪の少年を、ビーマは自力で何とかしたらしい。シャクニの姿は見えない。

「やぁ、久しぶり。早速だけど、なかなかにピンチでね。解決策はあるかい?保険とかね。」

シャクニ並胡散臭い笑顔で魔術師は言う。

「ここから入れる保険などあるわけないだろう。」

「回復は任せろ。面白い外傷の仕方で頼む。」

背に乗ったままの毒舌作家が言う。医者なのに言ってることおかしくないかこいつ。

「アンデルセン、アスクレピオス、無事でよかった。」

ようやく童話作家が背中から降りる。異形は徐々に形を変える、カリに似ているが、二対の腕と、足と、尾と、角を持つ人型の化け物だった。顔周りは肉でできている。顔は、どことなくスヨーダナに似ていた。

「なんだ?あれは?」

「・・・人類削減機構を乗っ取った女神、になりかけている俺の半分だな。」

「なんて言った?」

「どうする?カルデア!倒せるのか、あれ。」

「どう言うことだ!」

「言葉の通りだ。まぁ、色々あってああなった。説明は後から聞け。」

知らないのは俺だけなのか。確かに話している時間は、なさそうだが。

「綱さんの魔性特攻で間に合わなかった。英雄作成もしてたのに・・・」

「バフにも限界があるっす。」

「アンデルセン!綱さんの魔性特攻を鬼特攻並みにあげる物語書ける?」

「無茶を言うな。そいつの遅い青春ストーリーは蛇が出るからな、やめておこう。だが、俺も仕事をサボっていたわけではない。創作意欲に駆られるものはあった。時間はなかったが、多少なりとも力になるだろう。魔性と神性バフを盛れればいいんだろう。」

どうする、と意地悪く聞くこいつは多分性格が悪い。面倒見はいいかもしれんが、相手を選ぶなと思う。

「アンデルセン!!」

少年の懇願により、童話作家の持つ一冊の本のページが開く。淡い光は、スヨーダナに集まる。

「心得た。これより俺が語るのは、一輪の花の物語。」

 


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