兄カルナルート 女神魔性転生クルクシェートラ2
王宮についたのは日が暮れてからだった。悪路を車輪で移動すると馬で駆けるより体力がもってかれた。
「・・・もう二度とあれに乗らないからな。」
「・・・悪路だったね。」
「中はクッション効いてるんでぼくは快適なんすけどね。」
からからとガネーシャ神が笑う。立香はいつもこんな感じなんだろうか。町は何時もより騒がしい。明日が御前試合だからだろうか。
「アシュヴァッターマンはお父さんのところに行くんだよね?ついてってもいいかな。」
「いきなりは無理だ。今日は日が暮れたし、明日は御前試合だから朝早くでいいなら何とかする。王宮の西の外れに泉がある。日の出前にそこに来てくれ。目立たないようにな。」
だから今日戻ってきたのだ。早く、アーユスに会いたい。強くなった自分をみて欲しい。
「私がアシュヴァッターマンに着いていこう。パスで場所もわかるだろう。大丈夫だとも、霊体化しておくし、他の人には見えないよ(多分)。プライベートな部分にも立ち入らないと誓おう。」
「・・・わかった。怪しまれないでくれよ?」
「ありがとう。」
「マスター、ひとまず宿は確保できた。」
「ありがと。アシュヴァッターマン!また明日!」
姿を消したマーリンを連れて家へ急いだ。
懐かしい家が見える。
「父さん!」
思わず抱きついてしまった。父さんも抱き返してくれる。
「アーユスは?」
何処にいるんだろう。父さんを見ると苦虫を潰したような顔をしている。
「二人は悪くない。私とお前のためにしたことだ。」
俺のためだなんて、何を言っているんだろう。
「すまない、御前試合は今日だったんだ。」
「は?」
今日?もう日が落ちている。ここに二人がいないのであれば、それは---
「二人は、生きてるのか?」
「・・・無傷、だが、」
「良かった、何処に行った?追いかけないと。」
生きているなら、追い出されたのだ。今から追いかければ間に合うだろう。
「待て、アシュヴァッターマン、落ち着いて、聞いてくれ。」
これ以上ないくらいに落ち着いている。父さんと俺の立場のためであることもわかる。でもそれが一緒にいない理由にはならない。
「二人は、百王子の長兄で、五王子の兄だった。」
「・・・は?」
それは初耳だが?
大通りから少し離れたこじんまりとした宿の一室にマーリンの声が届く。
『あー、テステス、みんなのお兄さんマーリンだよ。聞こえているかい、マスター。』
「感度良好、夢魔通信問題ないよ!部屋もガネーシャさんの結界で声が漏れる心配なし!」
マスターの明るい声が響く。
『それはなにより。こっちの方だが、なんかややこしくてね。みんなが思ってるようにこれはヴァスシェーナ亜種ルートだ。』
「やっぱりっすか。」
『だけどドゥリーヨダナは幽霊じゃない。捨てられたところをカルナに拾われ、カルナの弟になってるらしい。アーユス、と名乗ってるみたいだ。』
役者は舞台に上がるしかない。ドゥリーヨダナは大地の女神のために必要だからだ。どんな関係性であってもカルナと出会いアシュヴァッターマンの脳を焼く。他のドゥリーヨダナもそうだった。ドゥリーヨダナのために自らの矜持を汚すことも厭わない人間を沢山作る。彼自身の意図しない在り方が人を惹き付ける。
「ヤンキーくんの言うところだと明日に御前試合なんすよね。」
『実は御前試合は今日だったみたいだね。彼らしくもないことをしていてね。誰もが死ぬとわかっていた戦争を起こした本人とは思えないんだが、アシュヴァッターマンを巻き込まないように動いたんだ。本来の日程を偽って教えていたのさ。』
「え、ちょっとカルナがかっこよく乱入するところとドゥリーヨダナの有名な演説聞いてみたかったのに!」
「欲望がそのまま出てるっすよ。ステイステイマスター。」
そういう自分もその場面は見たかった。何よりカルナをあの英雄にしたところを見たくない訳がないのだ。
『話を戻すとね、御前試合ではカルナは乱入したし、ドゥリーヨダナの代わりにカルナの弟としてアーユス、この特異点のドゥリーヨダナが啖呵を切った。偽のドゥリーヨダナが色々対応したみたいだけど、百王子の方は本当の兄がアーユスと気がついていたみたいでね、ドゥリーヨダナが長兄であること、今の長兄が偽物であることを告発したみたいだ。』
町がざわついていたのは御前試合前日だからではなく王宮のスキャンダルの影響だったのだろう。
『カルナはドゥリーヨダナを誘拐した犯人とされてしまう。ドゥリーヨダナは否定したみたいだけどビーマが率先してカルナを殺そうとした。そうならなかったのは前王妃クンティーがカルナを息子と認めたからだ。五王子の長男のユディシュティラもカルナを兄と認めたことも大きい。彼らの処遇については明日に仕切り直しらしい。これ以上の情報はこちらにはないかな。』
物語のレールにはギリギリ沿っている。ポアンカレ予想であれば大体同じと認定されてもおかしくない程度にはあらすじがあっている。だが、おかしい。
「よくあの人平民の生活で我慢出来たっすね。ワールトイズマインおじさんじゃないっすか。」
王族だから、許されていた行いがあった。王族だから、まつろわぬ民の心を焦がした。赴くままに生きて、好き勝手に死んだ、そんな男が平民の器に甘んじることがおかしい。
『確かにらしくないところはあるかな。百王子長兄の決め手も見た目と百王子が長兄と認めたことだったらしいしね。さっさと顔を見せて百王子長兄に戻った方が権力の維持がしやすいはずなんだけどね。』
「それをしなかった理由があるってこと?」
『わからなくてね。アシュヴァッターマンの話じゃ五王子との因縁もないね。ビーマ毒殺事件も起きてない。平民であってもここら辺くらいは起こせそうなものだ。欲の部分が薄く感じる。もう少し彼のことについて聞いてみるよ。』
「OK、マーリン。明日よろしく。ドローナさんは出来れば引き込んでおきたい。」
『わかったよ。おやすみ。』
通信はそこで切れた。
「綱さんはどう思う?」
「・・・インドには詳しくないが、カルデアのドゥリーヨダナらはいずれも多少なりと魔性の気配がするのだが、ここは魔性の気配がかなり薄い。悪鬼羅刹や神性が多くいる影響かはわからん。もしかしたらここのドゥリーヨダナは魔性分が薄いのかもしれない、とは考えられる。」
「ドゥリーヨダナさんってヴァジュラの蓄積と花で出来たカリの化身なんすよね。魔性抜いたら何も残んないんじゃ?」
今までのバリエーションでも魔性を持っていないドゥリーヨダナはいない。終末の役割を果たすために必要なものだからだ。
「実際に見てみないと、気配遮断のスキルで隠してるだけかもしれないし。」
「とりあえず明日っすね。綱さんは霊体化しときますか?」
「ここに聖杯はない。信頼は大事だろう。此方が信頼を裏切ればどうしようもない。」
それもそうだ。
「それじゃ寝ますか。」
「そっすね。」
明日まではまだ遠い。ああ、カルナの勇姿見たかったな。
朝が来る。太陽はまだ顔を出したところだった。王宮の外れの泉で待っているとアシュヴァッターマンとよく似た恰幅のいい褐色の、彼の父がやって来た。
「お前たちが息子の言う異郷の友か。」
「はじめまして、俺は藤丸立香。人理保証機関カルデアから来ました。」
「ぼくはガネーシャ神の化身。性別が違うのは化身の影響っす。インドの神であるぼくが直々にこの世界のずれを調査しに来たっす。」
多少無理のある設定だが致し方ない。ガネーシャがインド神であることは嘘ではない。
「そして私が花の魔術師マーリン。君たちの姿は外からは見えなくしておいたから、好きなように話しても大丈夫だとも。」
「渡辺綱。武士だ。」
マーリンが杖を振ると地面から宝具でよくみる花が咲く。
「・・・息子から大体の話は聞いている。この世界はおかしいのか?」
「ざっくり言えば、御前試合前は五王子と百王子がそこまで不仲ではない点を除いて大体同じです。御前試合からが、本格的におかしいと思います。本来の人間が本来の場所にいなかったためと思いますが、誰がそれを起こしたのかはわかりません。」
ドゥリーヨダナが処分される世界線、誰がそう仕向けたのか。たまたまそうなった世界線のドゥリーヨダナがヴァスシェーナだ。ドゥリーヨダナがいないせいで終末に至るはずの世界でカルナが彼を呼んで聖杯を手にした。そして特異点となった世界。ここは少し違う。ドゥリーヨダナが死んでいない。聖杯を手にしているなら今の状況はあり得ない。黒幕は他にいるとしか考えられない。
「わかっていることは、均衡が崩れていること、本来はまだいないはずのカリがいること。カリはユガに現れる。まだ、ユガには遠い時期なのにカリがいる。これは他の力で終末を起こそうとする誰かがいると考えています。」
ダ・ヴィンチは言った。特異点は秘匿されていたと、秘匿できるだけの神秘があるのだ。ただの人間であるドゥリーヨダナにそれは出来ない。
「・・・アーユスは人を惹き付けることはするがそれで悪を成したことはない。御前試合もカルナを思ってのことだ。息子を修行に出すこともアーユスが提案した。正体さえばれなければあれは舞台から降りていたぞ。おそらくカルナもだ。あの兄弟はここではそういう奴だ。それは、わかっておいてくれ。」
「ええ、彼自身のことは仕組まれた結果と考えています。」
役者は死ぬまで舞台を降りることは出来ない。マハーバーラタの物語ではドゥリーヨダナは死ぬまで舞台に立ち続けなくてはいけない。ビーマに殺されるまで、彼が舞台の幕を引くことは出来ない。運命がそうはさせない。
「・・・カリ・ユガにはまだ早い。それでも魔性が溢れているなら、申し立てるべきだ。」
「信じて、もらえるんですか?」
「パラシュラーマ師が息子に言った言葉には価値がある。最高位のバラモンの言葉は王族といえど無視できない。お前たちが異郷のものであることは確かだ。お前たちが原因である可能性もないわけではないが、ガネーシャ神の神性は確かなものだ。そもそも国を潰すだけならわざわざ警告はしない。そのまま終末に飲ませる方が簡単だからだ。そうしないことに意味がある。」
まだ何が目的かわからない。来ているはずのアンデルセンとアスクレピオスの居場所もわかっていない。王宮はマーリンが気配を探索したが存在はなかった。
「ついてこい。カルデア、カルナとアーユスがいる以上、五王子、百王子も私たちの言葉を聞かざるを得ない。今から戻ればおそらく勢揃いでいるだろう。」
ここが勝負どころだろう。最大限ガネーシャ神の威厳を借りてやろう。
と思っていたのだが、豪奢な扉が、開かない。
「・・・これ、ガネーシャさん並の結界っす。」
扉そのものにプロテクト
が入っている。
「うーん、時間経過か条件を満たさないと出れないやつだね。」
「ここまで来てこれはない!」
何かの宝具か、中の様子は伺えない。
「アーユス・・・」
小さいアシュヴァッターマンは庇護欲を誘う。それにしても本当にこの頃から脳を焼かれているとは、親であるドローナ師の気持ちが少しわかる。
ふわっと結び目がほどけるように、前触れもなくは扉の封印がとけた。今度はスムーズに扉が開く。そうして、ぼくたちは彼らと邂逅した。あれ?カルナさん何かでかくてごつくなってない?青い!か、解釈、ガネペディア!あー通信途絶してるー!!
ジナコ=カリギリ:カルナは彼女の英雄なので、カルデアのカルナとは違うとわかっているが押しの格好いいところは見たい。