兄の下っ端は使えない。

兄の下っ端は使えない。

深刻な人事異動ミス

※ホビワニルート

※モブと新入り上司キャメルさんとわにぐるみ


◼︎派生元

https://telegra.ph/新入りの上司が嫌い-06-12


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「海賊の子の子守歌は波音」のような底知れぬ浪漫感じる言い回しがあるが、クロコダイルにとってはちょっと調子の外れた兄の鼻歌がそれにあたる。


クロコダイルは生まれも育ちも海賊船で、生粋の人間だ。

いまは諸事情でワニのぬいぐるみをやっている。

当事者すら意味が解らないが、なったものは仕方ない。

いずれ下手人を砂にしたうえで容器ごと海に散布することで手打ちにするからいいのだ。


兄は今、のんきに仕立て屋兼雇われヒットマンをしている。


そしてわけのわからない能力は、生き物をオモチャに変える以外に記憶にも都合よく作用するのか、元凶のドフラミンゴに我が物顔で馴れ馴れしく纏わりつかれてもキャメルは何の反応も見せない。


勝手気ままなのは相変わらず。

心の赴くままにドレスローザを満喫しているようにみえて、その実、底冷えするような横瞳孔の瞳には何も映っちゃいない。

いつもやかましいがこの兄の本質はこんな感じなのか、と感慨深くもある。


だがなんのセンサーが反応しているのか、クロコダイル、現ワニのぬいぐるみに甲斐甲斐しく世話を焼く様は通常運転で。

自分が『弟』から『お気に入りのおもちゃ』にランクダウンしたのに、取られる態度が同じだとそれはそれで腹が立つ。


そんなクロコダイルの苛立ちを知る由もないキャメルは、鼻歌まじりにちくちくとお裁縫の真っ最中。

そういえば昨晩、『ワニくんのサマーコートにぴったりな布地を見つけたんだ』と気持ちいつもより柔和な雰囲気で語っていたような気がする。


兄の行動に整合性や常識なんてものを求めてはいけない。思い立ったらすぐ行動。

…というより興味の移り変わりが激しいキャメルは『作業の邪魔になる』と判断したのか、テーブルの上に所狭しと並んでいた制作途中のスーツや裁断した布地、採寸済みのメモなどを乱雑に腕で薙ぎ払った。


けたたましい音を立てて床に散らばるそれらにはもう頓着していない。

反対に、ドフラミンゴが寄越したキャメル付きの下っ端が、ドン引きを隠さない態度でその諸々を拾い集めている。


下っ端はかろうじて見聞色らしきものの兆しがあるが、それ以外は街のクレープ屋さんと同程度の戦力にしかならない。要は実力不足で足手纏いだ。

どんな状況であれ、始末しようと思えば能力を使うまでもない。硬いもので頭を殴るか鉛玉一発で事切れるだろう。

それこそ、綿が詰まったふわふわのぬいぐるみでも容易く。


だからこそ、忌々しいフラミンゴ野郎のところの構成員でも好きに泳がせているのだが。

いかんせん、情報源としては下っ端も下っ端。役に立たない。

誰がドフラミンゴの酒の席でのやらかしやら最高幹部の好きなつまみなんてニッチな情報を必要としているのだ。

いまのところ、器用に地雷すれすれを躱わして、キャメルが最低限の人間生活を送れるよう雑用をこなしているところしか取り柄がない。


「そこどいて掃除機かける」

「今日はシラフか飲んだくれ」

「しゃべる綿ごみなんて珍しいなァ。…てめえごと吸うぞくそったれ」

「ねえ今ワニくんいじめてるの?」

「してないです」

「こいつが勝てる生き物なんてシャクトリムシくらいだろ」

「吸うわ」


荒い口調とは裏腹に丁寧にテーブルの上に持ち上げられ、キャメルの前に置かれる。

じろりと前髪に隠れていない方の目で睨みつけられても、クロコダイルは痛くも痒くもない。

どうせ下っ端にはキャメルの私物に手を出すような度胸はないし、虚勢を張っているだけで本人の気質は海賊どころか実力行使にむいていないのだろう。

そもそも、特技が青色確定申告と簿記なんて寝ぼけたことをぬかすやつをキャメルの下につけることが間違っている。


ーーやっぱりフラミンゴ野郎とは組まなくて正解だったと、クロコダイルは勝手に確信を得た。

人員配置も人心掌握もなっちゃいねえ。

勝手に脳内人事考課シュミレートを繰り広げていると、現幹部のほとんどが保留枠に放り込まれた。

能力はそこそこでも、国盗りを成した後はぬるま湯につかったまま。向上心がなければそれまでだ。

クロコダイルのシュミには合わない。


例え妙な能力でおもちゃにされようが、自分の判断は間違いではなかった。

そうしたり顔でうなずくクロコダイルを、キャメルが不思議そうに見つめていた。



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