兄とはそういう

兄とはそういう

22022/11/15


思えば兄は昔から器用だった。路地裏生活で擦り切れ、破れ、ボロ切れと呼んでも差し支えないほどの服を上手く繕うだけではなく、迷い込んできた愚か者から身ぐるみ剥ぐ時も、「この色いいね、クロの上着にしようか」なんて呑気に言いながらそれを引き裂き、俺の服に作り直すほどだった。少しは自分のために何かを作ればいいじゃないか、と聞いたこともあったが、「兄ってのはね、こういう生き物なんだよ」などと要領を得ない返答で逃げられてしまった。


 「クロは将来何になりたいんだい?」


底冷えのする真冬の夜、兄の作った継ぎ接ぎの毛布に2人で身を寄せ合っていた時、兄は突然言った。夢ぐらいあるだろう?出来るかどうかは別にして。そう言ってにこにこと笑う兄の勢いに押され、ポツリと呟いた。


「…強くなりたい。それで、世界を変えられるような、すごい奴になりたい。」


「ほほう、流石我が弟!素晴らしい夢だよそれは!!」


大袈裟に騒いで俺を抱き寄せ、頭をわしゃわしゃと撫でる。幼い頃から変わらない反応を、身を捩って抜け出した。


「ならば、兄さんはそんなクロのために服を作ろう!手先の器用さは保障するさ、いつかクロが人の上に立った時の晴れ姿ぐらいちょちょいのちょいだとも」


刃こぼれのひどい古びた鋏をクルクルと回して気取った顔をする兄が妙におかしくて、クハ、と笑った。


「おやおや、仕立ての練習は見せないつもりだったんだけれど。」


「…見せねぇつもり?だったらもう少しばかり大人しく片付けりゃいいだろ、白々しい。」


燻らす葉巻の香りでも隠しきれない鉄の匂いが鼻腔を刺す。小さく舌打ちをしてくるりと踵を返し部屋を出れば、やらかした所業に似つかわしくない柔らかな微笑みのまま、兄は後を追ってくる。


「怒ってしまったのかい?ごめんよ。大丈夫さ、ちょうどクロと背格好が同じだったんだ。服の下準備にちょうどいいと思って。」


「確かに奴ァ邪魔だったが散らかしすぎだ。部屋の清掃料金は請求するぞ。」


「はは、クロには敵わないね!」


能天気な笑い声が上がる。最近調子に乗って無茶な契約を取り付けようとしてきた男は、今や背後の部屋の床の上に転がっていた。体の各部位を丁寧に裁断され、鮮血の中に広げられたそれはさながら服を仕立てる設計図のようであった。こちらの機嫌を伺うようにうろうろとする兄を見ながら、あの時のようにクハ、と笑った。


「ああ…兄ってのはそういう生き物だからな。」

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