元気に暗躍もしてるタイプの無敵お父さん

元気に暗躍もしてるタイプの無敵お父さん



 産まれてこの方、父からの愛を疑ったことはないが父の正気そのものを疑うことは多々ある。なんなら毎日疑っている。

 この尸魂界のどこに結婚した妻のことを旧姓で隊長と呼びたいがために副隊長におさまっている男がいるというのだろうか。


 残念なことにそれは存在して、しかもアタシの父なのだ。


 しかも始末に終えないことにアホのように強い。ムキになって色んな人に教えをこうて鍛えてみたのに父に挑めば歯が立たないどころか「娘との楽しい交流」とでも言うようにニコニコと片手であしらわれる。

 なんなら世間話までしようとしてくる、なんなんだ本当に。こっちは必死こいて息をゼーゼー言わせながら向かっていってるのに「最近どうだい?」ではないのだ。


「なんでオカンあんなのと結婚したん?」

「オマエが出来たからやなァ」

「自分で言うことちゃうけど、なんで作ってしもたん?」

「んー……嵌められたっちゃ嵌められたけど、なんでって言われたらアイツが俺んこと好きすぎたからやな」


 父が母を好きすぎることに関しては事実なので置いておく。まるで前世からの執着でもしているかの如く、貢いだり尽くしたりと忙しいのは周知の事実だ。

 そのせいで藍染惣右介個人に依頼をするなら結局のところ五番隊に話を持っていった方が早いなどと言われているのだ。五番隊の隊長は母なので。


 問題は嵌められたの方。酒の勢いで……みたいな話は聞いたことあるけど、あの言い方だとオカン的には勢いだけでもないらしい。

 やっぱり父の計画的犯行なんじゃないか?それならば早く全てを自白して神妙にお縄についたりなどしてほしい。切実に。


「で、実際どうなん?」

「素直なのはいいが、それを父に正直に話すのは褒められた行為ではないね?」

「直球で言わんとはぐらかすやん。ほんとのところなにしでかしたん?」

「それは勿論、入念な計画を立てて既成事実を作ったとも」

「最低な返答をどうも!」


 何が温厚で優秀な藍染副隊長だ、腹黒狸の女の敵め。威嚇するアタシを怒った子猫かなにかのようによしよしと撫でてくるのも腹が立つ。爪立ててやろうか。


「非道な行いをしたわけではないさ、愛する人に振り向いてもらいたいと願う憐れな男の足掻きだよ」

「足掻きちゃうやん計画的犯行やん」

「あの頃の平子体長は僕の好意を爪の先ほども信じてくれていなくてね。なんなら自分を落としてなにかに利用するとまで思っていたようで」

「聞けや、語んなや」


 娘に馴れ初めを語れるのが嬉しいのか、無視してなんか語ってくる。やったことは昏睡させての婦女暴行やろとこちらとしては思っているのに。

 母が許してしまったので罪にとえるかは難しい気もするが、絶対に合意ではなかったという確信がある。合意だったら計画なんて立てなくていいから。


「なのでその疑念を利用して、いかにもなにかを仕掛けますという雰囲気を出して酒の席に誘ったら毒を盛られても暴いてやるという雰囲気で了承してもらえたよ」

「それでええんか、疑念解こうとかそんなんないんか」

「結果として暴かれたのは彼女だったが」

「誰がうまいこと言え言うた」


 刺し違えてでも腹の中暴いてやると思ってた相手に酔わされてお持ち帰りされて子供作られるってどうなんやオカン。逆に腹の中暴かれとるやん。


「一つ教えておくと、既成事実を作るなら相手にも非があったと思わせる方が成功率が上がる。男相手なら酒で記憶の曖昧な相手に「無理矢理されたが好きだったか拒めなかった」と言えば子供が出来なくても責任は取らせることができるよ」

「世界一いらん知識やし、オカンにはなんも非はないやろ」

「気のある男と二人きりで酒を飲んで、酩酊したらこうなるのはわかりきっていましたよね?と」

「クソ男の言い分」


 酩酊させたやつがなんか言っとる。警戒するところを間違えていたかもしれないけれど、きっとそれなりに気を付けてはいたはずだ。

 結果的に泥酔持ち帰りされたとはいえ。信じてはいけないやつを信じたわけでもあるまいに。


「警戒心の無さを咎めた訳でなく、彼女の非情さを咎めたんだよ」

「オカンのどこが非情や、情深いやろ」

「情深いからこそ、遠回しに"僕の好意を信じてくれていなかったんですね"と伝えたら、彼女はどう思う?」

「あー……ムカつくくらいに効果的や」


 つまりは母は酔わせて手を出すなんてなりふり構わないくらい母を欲しがっていた父の好意を疑い、無いものとして扱っていたことに罪悪感を感じたのだ。

 計画的だと頭のどこかでわかっていても自分が取り合わずに袖にしたからだと感じてしまえば、母は無理矢理の行為を許してしまったことだろう。


「もっとも効果があったのは僕の愛が本物だったからだから、愛し合う二人の子供であることに疑いはない。安心しなさい」

「オカンからの愛が観測されてへんのやけど」

「僕はあの人の中にあると信じているよ」

「帽子描いて象食った蛇って言うて許されるんは純真やからやぞ」

「確かに愛は目に見えないな、肝心なものだからね」


 迂遠な嫌味に的確に返してくるところにどうしても血の繋がりを感じてしまう。逆立ちしようとこれが父親なのだ。

 まぁ罪状は、母のことが好きすぎることで多少酌量してやってもいいのかもしれない。本当にちょっとだけれど。


「でも警戒しとったのに、オカンはよくベロンベロンになるまで飲んだな?」

「僕の斬魄刀の能力を忘れたかい?」

「へ?」

「鏡花水月なら、酒を水と偽ることなど造作もないよ」

「やっぱ最低やんか!!!」


 ひっぱたこうとした手は簡単に避けられて、アタシは結局いつものように地団駄を踏むはめになった。

 このクソ親父!

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