僕の武器は攻撃力500億の針しかない
(伝説級…? こんな針のどこが…)
勇者パーティを、そして故郷の村を追い出されたマヌルが駆け込んだのは、隣の街の武具店だった。軍資金は養父の遺産である。
生まれつきの装備制限ゆえに長剣一本振るえないマヌルに、武具店の店主は一つ提案を持ち掛けた。
「…おそらくお客様でも扱える『伝説級武器』です」
そうして契約書を書かされ、代金前払いの末渡された箱の中に入っていたのが、問題の針だった。摘み上げて見てもただの縫い針そのもので、デザインからして縫い針としても使用できそうにない。
遺産の残金すべてと引き換えたにしてはあまりにも矮小な代物。
マヌルは店主を睨んだ。眼光に怯むこともなく店主は言い放った。
「返品はできませんよ! 契約書にも書いてありましたよね?」
「僕を騙したなッ!!」
右手に握った針を、マヌルは店主の額に突き刺した。先端が皮膚を貫き、頭骨まで行きついた感触。店主の顔は驚愕に固まった…ように見えた。
「あえ…?」
困惑の声を上げ、それが店主の遺言となった。全身が白い光の粒子へと変換され、空中に立ち上るようにして実体が消滅する。光子決壊と呼ばれるその現象は、この世界における生物の死を意味する。
「死んだ…殺した…? 僕が…?」
手の中の針は、当たり前の金属のように鈍く輝いている。何の変哲もないはずの針。数秒放心したのち、マヌルは武器のステータスを見ることを思いついた。
「攻撃力”1”…固定50000000000ダメージ!? 装備解除不可!?」
500億ダメージ。それは攻撃力が意味をなさなくなることを意味していた。今のマヌルが食らえば一撃でおよそ2億5千万回死ぬことになる。戦闘職でもない武具店の店主であれば一撃絶命は必至であっただろう。
「……」