僕と私
物心ついたときから、逃げ回ってばかりの日常だった。
僕と私は、双子として生を受けた。
一番古いのは、父さんが僕を、母さんが私を背負いながら走っている記憶。
なんでも海兵だった父さんと母さんは、僕たちがまだお腹の中にいた頃に、すごい事件を起こして犯罪者になったらしい。私たちがこんな日々を送っているのも、そのせいらしい。
でもそれは、母さんを守るために父さんがしたことだって、昔出会った青い髪の王女様が僕に教えてくれた。
でもそれでも、世界中のみんなが心配してくれていたって、以前会った人魚の王女様が私に話してくれた。
それだけじゃない。いろんな人が聞かせてくれた話の中での父さんと母さんは、とても美しく光り輝いていた。
だから、父さんも母さんも悪い人じゃないんだろうなって思った。
追われっぱなしの生活はとても大変。
まともに眠れないし、休むことも難しいし、おちおちご飯も食べることが出来ない。
でも辛いとは思わなかった。僕たちの為に、ご飯も寝床も一生懸命用意してくれたから。
私たちのことが大好きだって分かっていたから。
父さんも母さんも、僕と私を愛してくれているって分かっていたから。
そんな父さんと母さんは、よく言っていた。
“新時代”を作るって。
今は敵だらけだけど、いつかきっと、僕が、私が、平和に暮らせる時代を作って見せるって。
正直それは無理だって言いたかったけど、それでも父さんと母さんがそういうなら、世界の事、信じてみようかなって思っていた。
僕も私も、父さんと母さんが大好きだから。
でもその思いは、他ならぬ世界によって踏み躙られた。
7歳の誕生日の前、父さんと母さんは僕たちを庇って死んだ。
私たちの目の前で、無事でよかったって、生きていてよかったって、言いながら殺された。
僕と私は命からがら逃げだした。父さんと母さんの亡骸を置き去りにして……父さんと母さんを見捨てて。
今思えば、逃げ切ることが出来たのは運がよかったんだと思う。父さんと母さんが宿していた悪魔の力が、目の前に現れたことも。
運命だと思った。僕が父さんのゴムの力を、私が母さんのウタの力を、口にすることに何の戸惑いも躊躇いもなかった。
一緒にいるって言ってくれているみたいで、とても嬉しかった。
いなくなっちゃってもう会えないことが、とても悲しかった。
父さんと母さんは、世界に手を取られて、遠い所へ行ってしまった。
だから決めたんだ。
こんな腐った世界ぶっ壊してやるって。
父さんと母さんを追い詰めた奴らも。
期待だけして何もしなかった奴らも。
泣くだけ泣いて助けてくれなかった奴らも。
海軍も。
海賊も。
革命軍も。
世界政府も。
民衆も。
全部、全部、父さんと母さんの敵だから。
僕と私で全て殺し尽くして、父さんと母さんに捧げようって、そう決めたんだ。
お前たちが僕たちを作ったんだ。
お前たちが私たちを変えたんだ。
この世界に神なんていない。正義も新時代もありはしない。
お前たちは供物だ。
お前たちの悲鳴が、嘆きが、慟哭が、後悔が、絶望と怨嗟の声が、父さんと母さんへの鎮魂歌だ。
世界中でそうすれば、きっと父さんと母さんに届くから。
お前たちが僕たちの全てを奪ったように。
私たちがお前たちの全てを奪ってやる。
僕と私の敵たる大っ嫌いなこの世界に終焉を。
そして僕と私の世界たる大好きな父さんと母さんに――――――永久の安らぎを。