傷と昔話

傷と昔話



ショートSSなので4コマ漫画くらいの感覚で⋯

普通にセラフィムワニがいる時空です。本誌に出てほしい願望です




「別に聞いてもつまらないと思うけど」

「聞きたい」

書類をバギーに書かせるためクロコダイルがテントに入るとキャメルとS・アリゲーターが同じ天幕内にいた。

先日新聞に寄稿された

<美味しいシュークリームが一時間で作れる>

という特になんの利益もない記事を読んでから

「本当かなあ」

「私でも作れると思う?」

という事を繰り返していたがクロコダイルは微塵も興味がないので「そうだな」と適当に返事をしていたらセラフィムを巻き込んで実行したらしい。

ただ、お菓子作りをしたいが片付けが面倒だと汚しても良い場所を使ったらしく犠牲になった机の上は大量のシュークリームが並べられている。

バギーは片付けは部下に全て丸投げにすれば良いと諦めの境地にいた。存在を互いに無視している。

ここに来る時点で仕事中だと解るのでキャメルはヒラリと軽く手をふるだけにとどめた。

「あんたに傷をつけるなんてきっと強い奴だ」

「⋯⋯残念ながら私だって怪我もするし負けもするからね」

「でも生きてるんだから勝ちだ。参考にしたい」

目を輝かせて聞きたがる(様にクロコダイルには見えた)セラフィムに根負けしたのか、古い記憶を手繰り寄せるようにポツポツ話し出す兄を横目にバギーに書類を渡して余計な文章追加すんじゃねェぞと念入りに脅しておく。



クロコダイルが子供の頃、キャメルは引くということを全くしなかった。引いたら懸賞金もくそもない金が無ければ明日生きていく飯もないという状況はキャメルの向こう見ずな性格を加速させていた。

勿論元々戦闘狂な部分もあったのでそれが全ての原因ではないだろうが。

別々に行動する様になってもボロボロのまま会いに来る事の多いキャメルに二十代の頃とうとう業を煮やしたクロコダイルは正座させ、

「引くこと覚えろクソアニキ」

そう長時間叱りつけると“弟に説教される”というのがよほど効いたのか以後そんなことは滅多に──それでもたまに包帯まみれなことはあった──無茶をすることはなくなった。

子供でもできる簡単な事くらいは覚えたことにクロコダイルは少しは感謝してほしいくらいだった。

「恐怖はとても大切だよ。臆病者とは慎重で、知識に長けた者達なんだ。無策で突っ込んでくる人間ほど死にやすいものはないからね⋯⋯」

と弟には教えておいて

「私はそれしか脳がないから良いけど」

などと開き直る姿は幼いクロコダイルにだってわかる阿呆の極みな発言である。

別にアニキが怪我をするのは勝手だが子供の頃の借りを返すまで位は無茶をするなという至極簡単なものだ。それくらいは理解して


「そんな奴いたのか」

「そう。強かった」

「じゃあそれからは負けてないのか? 楽園で怪我とかしたことないのか?」

「あるよ。十年前内臓半分出ちゃったあれとか」

「強かったか?」

「相討ちに持っていってギリギリだったね。ショコラがいたから生きてるけど」

「前に海行った時見た腹の傷か?」

「あれは六年前のやつ。拷問されて爪と⋯⋯七年前だっけ? まあそのくらいの時の」

「腕のやつは?」

「ああ、一昨年くらいに腕引きちぎられかけた、あの、変な動物。味は美味しくなかったな。でかい花のやつのが強かったなあの島。生きたまま寄生されそうになったやつ⋯⋯3日間捕まってた」

「それも聞きたい。勝ったんだろ」

「ええ⋯⋯?」


バギーはそれをBGMに聞きながらズリズリと二人から距離をとった。正確には顔に影を落としながら眼を怒りに燃え上がらせている男からだが。

手にしていた重要書類と言っていたものはとっくに砂になっている。バギーは外でやれと言いたかったが無言で立ち去るほうが楽だろう。

何故この二人は兄弟やれてんだ、とバギーはかつて兄弟の様に育った憎き赤髪と比較したがどっこいどっこいという結論だった。




アホさ加減が。

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