傍惚追憶

傍惚追憶


双極の丘で出会った旅禍の一人、その顔を見て思わず腕を掴んでしまった。


「離せっ……!」

そう言って顔を顰めて振り払おうと抵抗するそれに、そういえばあの人もこんな顔をしていたことがあったな、ととある日の記憶が蘇る。


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百年ほど前の五番隊で酒宴が開かれた日のことだ

名目は隊士の結婚祝いだったか懐妊祝いだったか、とにかくめでたいことだったと記憶している


夕暮れ頃から始まった宴会は日付が変わる頃まで続いて漸く終わりを告げた

その頃には一番はしゃいでいたはずの人が静かになっていることに気づいて座っていた席に目をやると、あの人はどうやらかなり酔っているようで数人の男の隊士たちと楽しそうにへらへらと笑い合っていた。

その光景を目にして、あの人に警戒心はないのだろうか、と思わず藍染惣右介に似つかわしくない表情を浮かべてしまう。

あんな表情をした男達が周囲にいて危機感を覚えたりはしないのだろうか。


とにかくさっさと帰らせてしまおうと全員を集めて、潰れた隊士たちを近くに住む他の隊士と組ませて送り出す

全員を送り出し終えた頃にはあの人は完全に眠ってしまったようで机に突っ伏してすやすやと穏やかな寝息を立てている


流石にこのまま放っておくわけにはいかないだろう

「────隊長、起きてください」

肩に手を置いて声をかける、酔いつぶれた隊長を起こそうとする副隊長の行動としては不審なものではないだろう


むにゃむにゃと不明瞭な言葉が返ってくるが目を覚ます様子はない、それほど深く酔っているのだろう

ため息をひとつついて肩を貸して無理やり立ち上がらせる。

右半身に今まで想像の中でしか触れることのなかった人の体温を感じて、自分でもどうかかと思うほどに鼓動が激しくなった


そうして、暫く歩いたところであの人が目を覚ました。

正確には目を覚ましたというにはあまりにぼんやりとしていたが、意識を取り戻して周囲を把握しようとしているのだから目を覚ましたということで問題ないだろう。


「惣右介……?」

暫く周囲に目をやって、隣を見て

漸く自分に肩を貸している人間が警戒している副官であると気づいたのだろう、途端にぼんやりとしていた目が警戒心を帯びていった。


ああ、どうやら自覚はないが自分もかなり酔っていたらしい、

でなければいつもであれば流せたはずの自分にだけ向けられる警戒が酷く気に障ることなどなかっただろう


その苛立ちのままに自分から離れようとするあの人の腕を取り、部屋に連れ込み。

抵抗を丁寧にすべて叩き潰してその体を暴いていった。嫌だという拒絶も、涙も、止めてという懇願も、止まる理由になりはしなかった。


必要性など何一つとしてない。寧ろ計画のためを思えばマイナスですらある行動だった。

それでもその時の私はただただ自分を拒絶するあの人に、自分という存在を刻み付けたかった


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この後めちゃくちゃ土下座した

そして、記憶が飛んでる平子からなかったことにしようという提案をされるのであった

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