偽人の心
※暴力表現、性的表現あり
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……あぁ、いつだったろうか。まともな方法で充電をしたのは。少なくとも、此処に住むようになってからはしていない。
いつだったろうか。己の記憶が曖昧になったのは。今現在最も古い記憶にあるのは…そう、ククラと出会った時の事だ。あの時は確か、お互い血や泥、油で汚れていたっけ。
「り、ぅ。こえ、きょう、の…」
声が聞こえて目を開ける。視界に映る天井は古い、いつも通りの場所。体を起こせば側にいたのは、自分達と同じように此処に住み着いているアリス。といっても、ニセモノだが。未発達でも伝えようとしているのと同時に出されたのは、乾パンだった。此処ではありふれた食べ物だ。
此処が、何処か?所謂、集合住宅というやつだ。といっても、まともなものではない。建っているのはある学園の自治区だったらしいが、そこは潰れた。
買い手もつかずに放置されたこの場所に、私のようなニセモノの野良アリスが集まるようになった。増築に増築が重ねられた此処は迷宮で、放置もされている為に気付かれにくい。私は…此処で、ククラと暮らしている。
今日は、仕事をする事になった。私がしている仕事は、いわゆる傭兵というやつだ。依頼を受けて、敵対組織を潰してくる、そして依頼主から金を受け取る。ただ、それだけ……
「こんばん、は。そして、さよう、ならだ。」
「うおっ!?」
私がドアを蹴破り、同じ場所に住むアリス達と共に入ってくれば奴らは一気に浮き足立つ。それでは、たかが知れているというやつだ。まぁ、蹴破ったドアが鉄で出来ているからだろうが。
「襲撃だ!お前ら銃m」
「時間は、やらん。」
奴らが迎撃体制を取る前に私は黒いコートから一丁の銃を取り出し、構える。私が持つのは、BAR。その民生用の、確かコルト・モニターとかいうやつだ。それに、トンプソンのフォアグリップを無理やりくっ付けたものを使っている。仲間も、一斉に銃を構える。ショットガンやリボルバーといった、古いものだが。
「制圧、開始。」
その言葉と同時に引き金を引く。一斉に銃弾が放たれ、次々と襲撃対象は倒れていく。私達のやり方はいつもこうだ。虚を突いて襲撃し、迎撃されない内に一気に叩いてしまう。これが、一番いい。
「ふぅ……今回も、呆気、なかったな?」
その言葉に、隣のアリスが頷く。まぁ、チンピラの集まりなんてこの程度だらう。痛い目に合わせろということだから、あまり痛め付けはしないが、一応、何発か倒れた奴らに入れておいた。
だが、私の心は、空虚だ。安全である事はいいことである筈なのに、何故か、心が満たされない。この気持ちがなんなのか、私には、まだ分からない。
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「終わった、ぞ。クク、ラ。」
報酬を受け取り、住宅のスペースに作られていた店から安いスープとパンを二人分買い、ある部屋の扉を開ける。私が、ククラと暮らしている部屋だ。狭いが、暮らすには十分だ。
「お帰り、なさい…体は、大丈夫です、か?」
「問題ない…そっち、は、どうなんだ?」
「はい。アリスは、今日も、沢山のアリスを、ヒール、しました…!」
出迎えてくれて、そのまま私に抱き付くククラ。部屋の中に敷かれたシートと、そこに散らばる古いパーツ。私が傭兵をしている間、ククラはこの部屋で、他のアリス達の修理をしている。ククラの両腕は、それが出来るようになっている。
「ほら、あーん。」
「自分で、食べれ、ますよ?」
分かっているんだ。ククラは覚えが早いから、その手を使って食べる方法もとっくに学んでいる。でも、私は世話を焼いている。ククラは、それを分かっているだろうけど……それを、受け入れてくれる。
「リウ…また、空っぽ…なんです、ね?」
ククラは、私の心が空虚である事をすぐに見抜く。心が満たされない事が、どうしてすぐに分かるのだろう。
「悩む、人を、救うのも、勇者の、役目です…から…」
ククラ。どうして、私にそんなに優しい言葉を、掛けてくれるんだ?血にまみれ過ぎた私に。この空っぽな心を埋めようと、出所が分からない昂りをぶつけてしまう私に。
どうして、ククラの髪は、手は、腕は、首は、頬は……どうして触れるだけでこんなにも、私を惑わせる?どうしてこんなにも、劣情をぶつけたくなる?分からない。何も、分からない。道具として生まれた私には、心なんて、分からない。
でも、一つだけ分かることがある。それは……
「見て、ください。リウ。満月です…とても、綺麗…ですね?」
この部屋の窓から見える満月と同じくらい、いや、満月以上に……
「………あぁ、そうだな。」
君は綺麗だ。