偏愛
「今日はこんなところかな」
パタンナーとしての仕事は一区切り。これからは楽しい楽しいワニくんと過ごす時間だ。
「ワニくん、今日は何をしようか?」
返事はない。代わりに檻がガシャンと揺れる。
「ごめんごめん、すぐ開けるよ」
私が部屋の外で仕事をしている間、ワニくんには檻の中で過ごしてもらっている。どこかに逃げ出してしまうと大変だからだ。
ワニくんと出会ったのは一ヶ月ほど前のこと。
当時の私はドレスローザに来たばかりで、とても退屈していた。食べ物は美味しいけれど、コロシアムで他人の決闘を見てもあまり楽しめないし、試合形式も好みじゃないから参加する気にもならない。妖精の噂や生きたおもちゃ達は物珍しかったけれど、それだけだった。
何をやってもつまらなくて、どうしてこんなとこ来ちゃったんだろう。何か用事があった気がするけど、もう引き上げてしまおうかな…と思っていた矢先、ワニくんと出会ったのだ。
ビビっと来た。
一目見た瞬間から、私はワニくんの虜になったのだ。
このぬいぐるみが欲しい。撫でて、抱きしめて、着飾って、世話をしたい。このぬいぐるみを永遠に自分のそばに置いておきたい。
私の行動は素早かった。
ワニくんに声をかけ、自分が服飾で生計を立てていることを伝え、住み込みで助手をやってくれないかと頼んだ。
しかしワニくんが言うには、この国ではおもちゃが人間の家に入ることは禁じられているらしい。夜にはおもちゃの家に戻らなくてはならない、とも。
仕方がないので作戦を変更した。
ワニくんの口と両手足を縫い合わせて鞄に仕舞い込むと、適当な空き家を借り、小動物用の檻も調達してひとまずの寝ぐらとした。
口の糸を外した途端に容赦のない噛みつき攻撃と罵詈雑言が飛んできたが、君と一緒に暮らすにはこうするしかないのだ、これは私が君を仕事場に運んだだけだから法には抵触しないし、君がおもちゃの家に戻らないように檻に入れておく必要があるのだと必死に訴えるうち、納得してもらえたらしく大人しくなった。
それから今まで、私たちは楽しく暮らした。ワニくんのお洋服を仕立てたり、尻尾に鈴をつけたり、ワニくんの首と私の手を繋げて一緒に眠れるようにしたり、綿を詰め替えたり、鱗模様を刺繍したり……あとやってないことは何があったかな?
檻の扉を開けて、ワニくんの口を結えていたリボンを外す。
「毎回これを付けさせなくちゃ不安か?チキン野郎め」
「厳しいなあ」
そんな会話をしながら、ワニくんをテーブルの上のクッションに座らせて、戸棚からクッキーを取り出す。ワニくんはお茶を飲まないけれど、一応ティーセットを二人分。
ワニくんはクッションの上に、私は椅子に。お茶会の準備が整った。
「さてワニくん、今日はどうしたい?」