偉大なる父の背

偉大なる父の背


 目が覚めたウタが1番最初に見るのは悪趣味な黄金の天井。そのまま横を向けば愛しい幼馴染が迎えてくれる。その体には包帯がこれでもかと巻かれており古傷が目立つ。ここで目覚めるのもこれで5回目だ。追われる身になり強力な追っ手と戦う旅にこの幼馴染は自らを庇い傷を負う。そしてその傷を癒す為に疲れ果てるまで自分が歌うのは日常になっていた。今回の相手はたしか…モチの奴だったか。ルフィを傷付けた相手など覚えておくと必要もあるまい。金ピカに光るダブルベットから降り、幼馴染を起こす。こんな強張った顔で寝る彼も、もう見慣れてしまった。カジノ"グラン・テゾーロ"黄金帝が治る治外法権。彼曰く、『おれはお前たちを気に入った。だから手を貸す。ここに居る間はゆっくりしてればいい。』らしいが一回襲われたのだ。信用出来るはずもない。けれども、諦めならつく。この島は常に金粉が舞っておりそれを少しでも吸い込めばあとはこちらに抵抗する事など出来ない。彼がその気になればすぐに捕まえられる状況。だから長居は無用だ。とっとと逃げるに限る。私の声かけに応じて愛しい人が起き上がる。一度お互いを確かめる為にしっかり抱き合い心臓の鼓動を確かめる。うん。しっかり生きてる。2人で手を繋いで部屋を出る。黄金帝はいつも同じ部屋を用意している。だからこそ慣れた足取りで2人で裏口を目指す。関係者専用の勝手口。そこなら目立たずに外に出れる。巡回の警備は私たちの事も気にせずに見回りをする。程なくし裏口に着き外に出ようとした所で警備兵に止められる。初めての事ではあったが覚悟はしていた。素早く構える私とルフィを見ると警備兵はその両手を上げ無抵抗の意識を示す。明らかにおかしな態度だ。警備兵の一回出る前に外の様子を確認した方が良いのではないかという意見に私たちは目を合わせる。それだけでお互いの意見交換は終わる。結論は従う。きっと何かしらの理由が有るのだろうと思いルフィが窓から外を除き背中合わせになるように私が立つ。お互いの死角をなくす。ルフィの息を飲んだ音が聞こえる。服を引っ張られ周囲を警戒しながら私も窓を覗く。そこにあったのは


海賊船の集団。海軍時代に真面目に情報を集めてた私はその異常性に気付く。彼らの上げてる旗は四皇の傘下の海賊達だ。中には四皇自身の海賊旗もチラホラ見える。これが四皇の一角程度なら驚くほどのことでもないだろう。私たちは四皇にも狙われている。だが、"四皇全て"というのはいくらなんでも規格外だった。百獣、ビックマム、白ヒゲそして…赤髪。この海を支配する勢力がほぼ全てここに集まってる事はこの少ない情報量でも理解できる。

(囲まれてる!)

心臓が跳ね上がる。ここまで勢力が集まっていてこの島を囲んで居ないと言う方が可笑しい。退路は全て断たれたと言っていいだろう。

(どうする!?どうやって…)

焦りをあらわにした私に気付いてかルフィが強く右手を握ってくれる。そうだ。彼がいる。2人なら私たちは最強だ。恐れる事など何もない。私は包囲に少しでも穴が無いか探す為に見聞色の覇気に集中する。そのせいだろうか。向こうの状況が目に見えるようにわかった。


「テゾーロ!!2人を渡して貰うよ。」

「ウォロロロロ!お前はおれを裏切ったんだ!落とし前は…付けなきゃなァ?」

 前面に立つのは四皇、シャーロット・リンリンとカイドウ。この2人なら即座にこの島を沈める事が出来るだろう。だが、

「おい。リンリン、カイドウ。それは宣戦布告って事で良いんだよなァ?おれの息子の兄弟に手を出そうってんならよ。エースの義兄弟ってんならおれの子も同然だ。それに手を出すって事で良いんだよなァ?」

白ヒゲの声。これで遅まきながら気づく。これは四皇の大連合の包囲網じゃない。四皇を2等分した防衛戦と攻城戦。つまり、彼は

「白ヒゲ。ウタはおれ達の娘だ。お前にもやる気はない。ルフィも、約束を守っててくれてるみたいだしな。」

ここまで伝わってくる覇王色の覇気は対象でも無いのに私たちに鳥肌を立てさせる。その強さだけで彼の静かな声の裏にある怒気を推し量る事が出来るだろう。冷静になってみればわかる。レッド・フォース号の後ろ姿。そしてこちらに背を向ける赤髪海賊団の皆。あの日の光景と今、見てる景色が重なる。私を置いて行ったあの背中が。冷たく突き放すようなあの背中が。この場に集った四皇。その中で最も小さい背中は、この場に集った誰よりも偉大で、大きかった。


「大炎戒!炎帝!」

火炎が飛び出し太陽が出現する。

「プロメテウス!」

太陽と太陽が激突し薄暗い空を光で染め上げる。

「ウタ、ルフィ。義兄としておれがお前らを守る。神火 不知火!」

世界最大規模の戦争の火蓋は1人の義兄の炎で切られた。

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