借り物競争〜大切なモノ、大好きな人〜

借り物競争〜大切なモノ、大好きな人〜


ルビーとアクアが出る物は全部で5つ。

内訳は午前の部に3つ、午後に2つあるが、

午前の部、最後の競技に僕の子ども達が出る。

「借り物競争かぁ…どんなお題なんだろう?アクア、ルビーの頑張り沢山記録出来たし、一旦LINEでアイや社長、ミヤコさんに送ろっと」

アイは本当に来たがっていたし。

社長とミヤコさんもアクアとルビーの成長を喜んでくれているので、お裾分けだ。

朝の演目にあった低学年全員参加のダンスは親バカかもしれないが我が子達の動きはキレが良く、曲と表情、タイミングが素晴らしく合っていて、

思わず、無事成長してくれたことをありとあらゆる事象に感謝してしまった。

社長がこのダンスで喜びそうな理由、それはダンスに使われている曲が我が妻、子ども達の母親であるアイが所属しているB小町の曲だからだ。

「社長、ミヤコさんの頑張りが芽を出した象徴だよね。僕もアイをこれからも支えなきゃ、てなったし」

そんなことを独りごちながら3人の個人アカウントに次々と写真、ムービーを送り続けていた。

『お待たせしました。午前の部、最後の競技になります。低学年参加借り物競争です。1年生から3年生のみなさんは入場してください』

「おや、始まる感じだね。さてさて、写真とムービー準備しなきゃ、と」

デジカメとiPhoneのカメラアプリを準備して僕は競技の開始を待つことにした。

⭐︎

借り物競争、病院で生涯のほとんど過ごした私にとってはフィクションの世界でしか知らないもの。まさか小学校に上がって参加出来るなんて思っていなかった。

幼稚園とは違って本格的なリレーや力の入ったダンスなどがある運動会自体私にとっては初めての参加に等しい。

私はこの日が楽しみで楽しみで仕方なかったから本当に嬉しいし、フィクションの世界の出来事を体感できる今日という日に感謝すら覚えている。

「ルビーちゃん、そろそろ時間だから並びに行こうよ」

色々感慨深さでジーンとしていたら友達が呼びに来てくれた。確かにそろそろ入場門に行かないと先生に叱られそうだ。

「分かった!アクアも行こうよ。時間だし」

「そうだな。行くぞ本田くん、冠城くん、阿部くん」

「うん」「おう!」「りょうかいっ!!」

意外や意外。ボッチ気味なアクアがクラスの男子達と仲良く話をしていたみたいだ。

友達がようやく出来た?

「意外だなー」

「何が?」

「いや、アクアって絶対友達いないイメージあったし」

「おまえな…何度も言うけど話をする子達は前から居た。今日は父兄参加の競技で彼らの保護者が参加するからその話をしていたんだ。ヒカルが出るだろ?ヒカルと同じチームだし」

なるほどパパと同じチームになるところの子達だったか。

「昼食とった後にあるし、ヒカルが保護者の方達と会話する時に困らないようにあの子達と仲良くしようと考えた。ある意味根回しだな」

「うわー…可愛くない小学生。顔だけはパパ似だけど」

「褒めるか貶すかどちらかにしろ」

そんなこと言い合いながら入場門に向かう。この競技は順当に行けば青組のアクア、紫組の私(赤組が良かったけど)は戦う形になる。この勝負、負けられない。

✴︎

「はっはっは、鬼の様にアイからLINE来てる。返したいけど今は子ども達撮りたいから後でね」

動画と写真送ってから滅茶苦茶通知が来ている。社長とミヤコさんからも返信来ていたが2人とも反応が子どもの成長を喜ぶ親そのものだった。あの子達を大切に思ってくれている様で嬉しい。

「さて、アイが喜ぶようなものを撮らないと」

うちの子達を含めた生徒さん達が次々に入場して来る。みんなキリッとしているのは緊張か気合いが入っているのか、それとも両方か。

ルビーは僕に気づいたのか手を振ってくれている。こちらも手を振り返しているとアクアも気づいてくれた様だ。彼は小さく頷いてくれた。無視しないで応えてくれるのは嬉しくなる。

「2人の順番的に第6走者か。兄妹対決は面白いね」

家でも散々

『順番的に私とアクアが一緒に走るけどパパは何方を応援するの?』と言われていた。僕の回答は無論、

「勝ち負けよりも君達の頑張りを応援するだけ。競い合ったとしても2人の努力を僕は応援したい」だ。

「さて、そろそろアイに返信返さないと…何々…『ウチの子達きゃわーー!!この世に降り立った天使⁈』そうだね、可愛かったよ、と送信…と。『他の子達にもダンス見せたらみんな喜んでいるよ!』

みんなの努力が実を結んだんだ。凄いよ、僕も感動した…と」

そんな感じで、一旦動画撮影をやめてLINEの返信作業を行っていた。

⭐︎

あともう少しで僕とルビーの番だ。名前と男女の割り振りの問題で兄妹対決となり、地味に学年で期待されている「因縁の兄妹対決」らしい。

僕自身は対決自体はどうでも良いが、ルビーはかなり楽しみにしていたので勝ち負けよりも妹が楽しんでくれるように手を抜かず競い合うだけだ。

…負けず嫌いなだけ?別に構わないだろ。

手を抜いた勝負なんてしたくないし、してしまったらそれこそルビーに対して無礼だ。

屈伸したり、アキレス腱を伸ばして準備している、気合い入りまくりな我が妹に声をかける。

「ルビー、勝っても負けても文句なしだ。」

「トーゼン!私が勝つからね!!勝ったら火曜日の給食についてくるアイス、私のものだから!!」

「ふ…僕が買ったら父さんが準備してくれているハンバーグ、1/3貰うからな」

「な…⁈それは酷くない⁉︎パパのご飯滅茶苦茶美味しいのに!ゼーッタイ負けないから!!」

ルビーと僕のやりとりをまーた始まった、という様な目で先生やクラスメイトは見ている。

仲の良い兄妹だと思っているのだろう。

実際こんなやりとりばかりだが、喧嘩したことは無い。僕が出来た兄だからだ。うん。


「星野さん、星野くん。もうすぐ出番だから準備してね?」

「はーい」「はい」

僕らは先生に呼ばれて前に出る。

バトンが渡されたら走ってお題箱だ。

さて、ルビー。勝負だ。

✳︎

さてさて、アイとのLINEも終えて遂に我が子達の出番だ。カメラ良し、iphoneの準備良し。

「頑張れ、2人とも」

2人にバトンが渡された!

勢いよく飛び出すルビー!!少しタイミング遅れたが迫るアクア!

凄まじいデッドヒートだ!!他の子達は2人に大きく離されている。

グランドの1/3走って借りてくるお題の入った箱に2人が向かい、お題を引き抜く。

2人は何故か僕をじっと見てる。どうしたのだろうか?

「何かあったのかな…?」

互いにお題を見せ合ったと思ったら2人揃ってケラケラ笑い出した。見てる方としては結構謎だ。本当に何があったのだろうか。

⭐︎

お題箱には私が少し先にリード!

アクアは遅れて着いた。

「はぁ…はぁ…やるじゃん…」

「はぁ…はぁ…おまえこそ…」

結構飛ばしたから2人とも息切れが激しい。少し息を整えてお題箱からお題を引き抜く。内容は…

「『大好きな人』」

「『大切なモノ』」

「「………」」

中々な内容のお題だ。思わず応援席で私達を撮影しながら応援しているパパを見る。

アクアも同じだ。

「ふふふ…」

「ははは…」

「アクア。これは勝負、つかないね?」

「ああ。同着1位目指そう、ルビー」

「じゃあパパ呼びに行こう!」

「ああ!!」

私達は互いに手を取って保護者席にいるパパを呼ぶ。

「「パ(お)…兄ちゃん!一緒に来て(欲しい)!!」」

「え⁈僕かい?

…行こう、ルビー、アクア!!

あ、すみません、撮影お願いします。はい、よろしく」

隣のお父さんにiPhoneとスタンド一式手渡すパパ。中々不用心だけど良いのかな?

そんなことよりも私達3人、パパを挟んで手を繋いで走って無事ゴール!私達が1番早い!!

「ルビー、アクア。君達のお題は何なんだい?」

「それはね…」

「それは…」

2人でせーの、でパパに見せる。

パパは目を大きく見開いてお題の紙を手にしている。

…これ、パパ泣くかも。

『はい!こちら本部席です!星野さん達のお題は…大好きな人と大切なモノでした!!お兄さんが2人とも大好きなんですね…先生、胸が熱くなりました。皆さん、拍手をお願いします!!』

会場からは歓声と拍手を浴びて私とアクアは少し恥ずかしかった。

けどパパは涙を流しながら私達をギュッと抱きしめてその様子に更に拍手が大きくなっていった。

「ルビー、アクア…僕も君達が大切だし大好きだよ」

「…うん!!」

「ありがとう、父さん」

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